さまざまな家庭がある。機能不全の家庭に育つと、幼少期からストレスが繰りかえされる。幼い心は絶えまないストレスの蓄積を処理しきれない。
発育途上の脳は、未成熟ながらも懸命に身を守ろうとする。できるかぎり心身の危険を避けるため、ストレスホルモンを過剰分泌し、常時外界への警戒をゆるめない。それでも危険にみまわれると、意識のスイッチを切って耐え忍んだりする。
脳の防衛システムにより、長い長すぎる苦難の子ども時代を懸命に乗りきる。そして成人し、偉大なサバイバー(Survivor)となる。
しかし長期にわたる、しかも幼少期からのストレスの蓄積は、脳に深刻なダメージと機能障害をのこしてしまう。無数のトラウマ性記憶が、感情・感覚をともなって脳に刻みこまれている。何年何十年が経過しても、その苦痛が今ここで起きているように。そして常に危険と対峙し警戒している太い神経ネットワークができあがり、脳機能の中心に居座って活動しつづける。心身に過大な負担をかけながら。
サバイバーは大人になり、生きぬいていく。しかし成人後は、別のストレス群が加わっていく。脳は人生初期から積み重なってきた重荷を、ついに背負いきれなくなり、悲鳴をあげる。時限爆弾が爆発するように、鬱病やさまざまな精神疾患、心身症などを発病・発症する。
治療としては薬物療法と充分な休養が基本で、それで回復する人も少なくない。
しかし重いケースや複雑に入りくんだケースは、脳の神経ネットワークから組みかえなければならない。
一つの治療手段が、サイコセラピー(psychotherapy:精神療法)だ。潜在意識のレベルでトラウマと向きあい、脳の深部から苦痛を解き放ち、長い年月をかけて新しい神経ネットワークに組みかえていく。
治療者の腕が結果を大きく左右するのは、脳外科医もサイコセラピストも同じだ。セラピーブームに乗って、安易に開業しているようなカウンセリングルームは避けるべきだ。
サイコセラピーは危険がないわけではない。治療上で深刻なトラウマを再体験するので、病状が悪化する怖れもある。サイコセラピーを検討するなら、ドクターへの相談が不可欠だ。
( 2005年09月02日 wrote 改題・一部改稿)