私の好きな詩人「谷川俊太郎」氏の詩を紹介します
そのひとがうたうとき
そのひとがうたうとき そのこえはとおくからくる
うずくまるひとりのとしよりのおもいでから
くちはてたたくさんのたいこのこだまから あらそいあうこころとこころのすきまから
そのこえはくる そのこえはもっととおくからくる
おおむかしのうみのうねりのふかみから ふりつもるあしたのゆきのしずけさから
そのひとがうたうとき
わすれられた いのりの おもいつぶやきから そのこえはくる
そののどはかれることのないふかいいど そのうではみえないつみびとをだきとめる
そのあしはむちのようにだいちをうつ そのめはひかりのはやさをとらえ
そのみみはまだうまれないあかんぼうのかすかなあしおとへとすまされる
そのひとがうたうとき
よるのなかのみしらぬこどもの ひとつぶのなみだはわたしのなみだ
どんなことばも もどかしいところに ひとつのたしかなこたえがきこえる
だが うたはまたあたらしいなぞのはじまり
くにぐにのさかいをこえ さばくをこえ かたくなな こころうごかないからだをこえ
そのこえはとおくまでとどく
みらいへとさかのぼりそのこえはとどく
もっともふしあわせなひとのもとまで
そのひとがうたうとき・・・