あの社会人時代の、馬鹿なオレ。八百屋、稼業だぜぇ、のほう、の。(自嘲的な笑いの1)

2023-08-02 04:26:58 | 馬鹿なオレ

あの社会人時代の頃、


八百屋、上から読んでも、下から読んでも、

やおや、だ。

 

「ねずみ穴」から抜け出して、

「人情八百屋」「唐茄子屋政談」「かぼちゃ屋」ならぬ



オレは、リヤカーに、

産地直送、産直と銘打った、野菜を、積んで、

一軒、一軒、お客さんのお宅を、まわる、

八百屋をやった。



「唐茄子屋でござ〜い」なんて、

落語みたいに、大きな売り声は、ださない。



ピンポ〜ンって、玄関のチャイムを鳴らす、のだ。

当然、オレは、上を向いて、売ったよ。

口あいて、あ〜ン、

のどの奥の方まで、陽が当たっちゃって、

何も、口の中には落ちてこなかったよォ。

しかし、おかげで、久しぶりに、

心が洗われるような青空を、見たよぉ、

ホンの束の間だったけどね。


上を向いて、売るってぇのは、

のどちんこの土用干しを、するッてことじゃなく、

掛け値をすること。

掛け値とは、物を売るときに、

実際より値段を高くつけることで、利益を得て

仕入れの元値で、売ったんじゃ、

利益は生まれず、

骨折り損のくたびれ儲け、だけだから。



くたびれを、儲けても、

飯(めし)は、食えねぇので、

オレたちは、仕入れの倍の値段で、野菜を売っていた。

 

産直と、謳(うた)うと、

お客さんも付き、チャイムを押せば、

玄関先までやって来る、

「先々の時計となれや小商人」ってね。

 

オレのリヤカーの野菜は、

スッカラカンの空っぽになる時もあった。

店に在庫があれば、

もしくは、売れない奴のリヤカーの在庫を、

オレの方に、軽トラで補充させた。

おかげさまで、

オレは、この八百屋稼業で、貴重な、世間話を覚えて、

売上をあげ、8人のリヤカー仲間のトップで、

毎週、報奨金、1万円を、貰った。

貰った、と言っても、そのお金のでどころは、

東京しごとセンターといって、

東京しごと財団、ハローワーク、

民間の就職支援会社の協同で、

都民に、仕事を紹介する運営団体、

そこに登録いていたオレが、


離職してから、再就職までの期間が短かかった為に、

そのご褒美として、

オレを雇用した会社に入金されたお金なので、

オレが入社しなければ、

そもそも、入らなかったお金なのだ。

こまかい野菜を売っても、たかが知れてることに、

気付いたオレは、

なかでも、売上げ単価の高いお米を売った。

他の奴のお米も、

お前ぇよぉ、米を売る自信がねぇなら、

オレに譲れと、在庫は、すべて、

オレのリヤカーに、載っけて、

八百屋、唐茄子屋、ならぬ、

オレは、米屋になった。

その分、オレのリヤカーは、随分と重くなった。

八百屋モドキ、の、米屋だからね。

お米のついでに、野菜も売っていたのだ。



お得意様のお客さんたちは、主婦が多く、

先週に、行って来た旅行の話を写真を見せられて、

自慢をされたり、

旦那の母親、姑の愚痴や、息子の反抗期に、ついてと、

よく、ここまで、赤の他人のオレに、話すもんだと、

不思議に思った。

しかし、赤の他人だから出来たんだね。



人畜無害の八百屋に、見えたのかねぇ。

いや、馬鹿なオレを、見透かされたのか。



小1時間程、自慢や、愚痴に、

付き合うこともあったが、

油を売るのが、オレの商売じゃないので、

それに見合う買い物を、勧めて、お買い上げ頂いた。



なんと言っても、ツライのは、

雨降り風間 病み患い。

あめふり かざま やみわずらい。



落語の『らくだ』、屑屋の久さん、

あなたは、エライ、よ。


雨が降ると、

CCR

(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)、

『 雨を見たかい

(Have You Ever Seen the Rain ?)』が、

頭の中で、流れて、

なんとか、こころが折れるのを、しのいだ。



冷たい雨は、

『冷たい雨が降っている』(吉田拓郎)が、



風が吹くと、

『北風小僧の寒太郎』(堺正章、北島三郎)が、

オレを、応援し、支えてくれた。


次から次に、空から降ってくる、

白い綿のような、ふわふわした雪よりも、

重いみぞれ混じりの雪が、

これには、参った、お手上げだった。



寒さで、手が、かじかんで、

肝心のお金が、受け取れずに、お釣りが出せない。

「こんな日だから、八百屋さん、

 お釣りはいいわ、取っといて」って、

誰もそんなコトは言わない、のだ。

気前のよさは、お財布をしっかり握る、

ご婦人方には、見当たらなかった。



しかし、そんな、いつもは、財布はしっかりしていて、

なにかしら、ちょっとでも、

おまけを、ねだって来る奥さんが、

温かいお茶と、茶菓子を、出してくれたのは、

嬉しかった。


その茶碗から、

はじめは、熱くて持てなくて、飲み口、つまんで、

徐々に、ゆっくり、茶碗自体を、両手で包み、

かじかんだ手に伝わる暖かさ、

口の中から、喉を伝い、胃に届く、

その暖かさと、茶菓子の甘さが、

なにより、掛け値なしの、

その人情が、ありがたかった。



八百屋、いや、八百屋モドキの、米屋の、冥利か。

いまどき、この冥利、

カネを払っても、

滅多には、手には出来ないと思う、よ。


病み患い、

ぎっくり腰にも、困った、参った。



腰に来そうだったので、

社長に、明日は、腰がヤバそうなので、

軽トラでの野菜の補給仕事か、

休ませて欲しいと言ったら、



ゆっくりで、いいから、

なんとか商いに出てくれないかと、お願いされて、

仕方なく出かけたら、案の定、ぎっくり腰になり、

労災を願い出て、会社を休んで、腰の治療に入った。



そして、次のお宅へ、と、

話は、つづく、ピンポ〜ん、

 

 

初出 17/09/21 06:03 再掲載 一部改訂



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