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エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-VII-9

2023-05-15 13:16:48 | 地獄の生活

将軍はそそくさと立ち去り、召使たちは食器を引き始め、マルグリット嬢はフォンデージ夫人の後についてサロンに入った。それは広々とした部屋で、天井は高く、三つの窓から採光がされ、食堂より更に豪華なものであった。家具や絨毯、それに壁掛けの趣味は多少問題があったかもしれない。色彩鮮やかで派手であり強い印象を与えるものであったが、華やかさが強調されすぎの気味があったかもしれない……。もしも暖炉棚の置物一式が七、八千フラン以上はしなかったとしても、確かにそれらは二万五千フランの輝きを放っていたし、他の物も同様であった。

夜は肌寒かったので、フォンデージ夫人は暖炉に火を入れさせていた。彼女は暖炉の前の長椅子に腰を下ろし、マルグリット嬢が向かいに座ると彼女は口を開いた。

「さぁ、可愛いマルグリットちゃん、お話をしましょうね」

マルグリット嬢は何か重要な話があるかと身構えていたので、およそ一分ほど考えをまとめる時間を取った後『将軍夫人』が次のように言葉を続けたとき、やや拍子抜けの感じに襲われた。

「あなた、喪のしるしについて考えていらっしゃる?」

「喪のしるし、ですか?」

「ええ、そうよ。つまり私の言いたいのは、喪の期間中何を着ればいいか、考えましたか、ということよ。これはね、あなたが思う以上に大事なことなの。近頃はクレープやルーシュやラッフルの喪服が出ていて、それはもう気品があるわね。スカビオサ(マツムシ草)風のものなんか、あなたにぴったりでしょうよ。それと、直後の喪服としてはフリル付きのものはちょっと品がないと思うかもしれないわね。それは好み次第だわ。ド・ヴェルジョ侯爵夫人なんか、ご主人が亡くなられて十一日目にそういうのを着てらしたけれど、髪の毛を一部分肩に垂らしてね、泣き女風に。それはそれは素敵だった。あの方、本当に絵になる方よ……」

 彼女は本心を語っているのであろうか? 疑う理由は何もなかった。『将軍』がボルドー酒を持って来いと言い出したときには怒りで大むくれだった彼女がいつもの表情を取り戻したばかりか、徐々に晴れやかにさえなっていた。

「それか、マルグリットちゃん、貴女のお好きなお店ならどこへでも御一緒しますわよ。もし貴女に行きつけの仕立て屋がなければ、私が贔屓にしているところへ連れて行ってあげるわ。申し分のない仕事をしてくれる人よ……。あら、でも私ったら馬鹿ね! 貴女はきっとファン・クロペンのところで誂えているのよね……私は、そうね、私はあまりあの人の店へは行かないけど。なにか大きな事があるときだけね。ここだけの話だけれど、あそこはちょっとお高いのでね……」5.15


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