「ああ、もちろん、やりますよ。たった今もそれに取り掛かっていたところで……」
シュパンはそこから先は聞いていなかった。脱兎のごとく外に飛び出していた。服は乱れに乱れ、打ち傷だらけだったが、痛みなど感じなかった。それほど喜びが大きかったのだ。
「あの人がフェライユールさんだ」 と彼は思っていた。「そうに違いない。その証拠を掴んでみせるぞ……」
そこから二十歩ほどのところに、廃屋があった。シュパンはその陰に身を潜めた。やがてモーメジャン氏が高級家具付き貸し間の建物から出てくると、その後をつけた……。
その男はアスニエール通りを更に上って行き、右に折れてレヴォルト通りに入ると、ちっぽけな家の前で立ち止まった。シュパンは素早く近づき、そっと声を掛けた。
「フェライユールさん?」
その青年は反射的に振り向いた。それから自分が思わず正体をばらすというヘマをしてしまったことに気づき、シュパンに飛び掛かった。そして彼の両手首を掴むと、骨が砕けるほどに締め付けた。
「悪党めが!」 と彼は言った。「お前は何者だ? 私の後をつけろと誰に命令された? 何が狙いだ?」
「そ、そんなに締め付けないでくださいよ!痛いっすよ!俺は……使いの者です、マルグリットお嬢様の……」7.30
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16章終わりです。10月までに終わりまで漕ぎつけられるといいのですが……。ムリかな。