馬車が大きく揺れたので彼らは言葉を止めた。アズニエール通りから、馬車はラ・レボルテ通りに入っていた。やがてぽつんと立っている一軒家の前で馬車は停まろうとしていた。大変質素な外見の家で二階までしかなかった。
「着きましたよ、お母さん」とパスカルが言った。
その家の入口で一人の男が待っていたが、馬車を見ると走り寄ってドアを開けてくれた。家具商の男だった。
「やっとおいでになりましたね、モーメジャンさん」と彼は言った。「さあどうぞ。ちゃんと取り決めどおりにしておきましたよ」
彼の言葉に殆ど嘘はなかった。契約通りの額を支払うと、彼は満足して帰っていった。
「さあお母さん」とパスカルが再び口を開いた。「僕がお母さんのために見つけたささやかな住まいをご案内させて下さい……」
彼らが借りたのはこの質素な家の一階部分だけだった。二階には別の入口と階段があり、堅気の夫婦が住んでいた。このように狭い住居であったが、清潔で、地形をうまく利用した造りになっていた。小さな部屋が全部で四つあり、一本の廊下で隔てられていた。台所は小さな前庭から採光するようになっており、庭は普通サイズのシーツが四枚並べられるほどの大きさだった。パスカルの買った家具は質素を通り越したものだったが、このささやかな家にはしっくり溶け込んでいた。それらはつい今しがた運び込まれたものだったが、何年も前からそこにあるかのようだった。
「ここで快適に暮らせるわ」とフェライユール夫人はきっぱりと言った。「ええ、とても良いじゃないの。明日の夜にはすっかり見違えるようになっているわよ。私、前の家からかなりいろんなものを救い出してきたの。カーテン、ランプ、置時計とか……見れば分かるわ。旅行鞄が四つあれば、かなりの物が詰め込めるものよ!」
このように母親から勇気を見せられると、パスカルもふさぎ込んでなどいられなかった。それで彼は重い口を開き、何故この住居を選んだかの理由を話し始めた。彼が特に拘ったのは管理人がいないことだった。そうすれば全く自由に行動できるし、噂を立てられる心配もないからと。
「たしかにこの界隈はひっそりとしています。けれど必要なものは揃えられます。上の階にはこの家の所有者が住んでいるということです。とても堅実な人たちです。既に奥さんの方とは会って話もしました。彼女がいろいろ教えてくれますよ。誰か手伝いに来てくれる人がいないか尋ねてみたところ、どこかの店のおかみさんが家事労働の働き口をこの辺で探しているそうです。ヴァントラッソンという……。12.1
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