彼は出て行こうとした。既にドアを開けていたが、最後の一縷の望みが彼を再びマルグリット嬢のもとに引き寄せた。彼女の手を取りながら彼は言った。
「私たちは友人ですね?」
マルグリット嬢は氷のようなぐったりした手を引っ込めはしなかった。そして殆ど聞き取れないほどの声でその言葉を繰り返した。
「私たちは友人です!」
マルグリット嬢から中立を守るという言葉以上のものは得られない、と悟ったギュスターヴ中尉は足早に出て行った。マルグリット嬢は死んだようにぐったりして椅子に再び腰を下ろした。
「ああ神様、これから一体どうなるのでしょう!」と彼女は呟いた。
あの不幸な若者ギュスターヴ中尉がこれから何をしようとしているか、彼女は十分に分かっていると思っていたので、はらはらしながら耳を澄ませていた。『将軍』と彼の間に起こるであろう激しいやり取りは、おそらく彼女のところにまで聞こえてくるであろうから。
実際、すぐに中尉の短く引き攣ったような声が響いた。
「父上はどこだ?」
「『将軍』はクラブにお出かけになりました」
「で、母上は?」
「『伯爵夫人』はお友達がオペラに誘いにいらしたので、ご一緒にお出かけになりました」
「なんと、狂気の沙汰だな!」
それでおしまいだった。外に通じるドアがかつて聞いたことのない激しさで開かれ、叩きつけるように閉じられた。その後聞こえてくるのは召使たちの冷笑だけだった。
フォンデージ夫妻が手はずを整えたこの会見を、最後まで見届けなかったのは途方もない失態ではなかったか。その結果に彼らの人生が懸かっていたというのに!
しかし彼らは、未だ解明されていない犯罪によって突然、巨額の富を手にしたのである。彼らは錯乱状態に陥り、後先を考えることもなくその金を両手で掴めるだけ掴んだのだ。おそらく、猛獣が餌食に飛び掛かるように、金をいくらでも遣えるという喜びに我を忘れ、己の貪欲さを満たすことに心を奪われ、良心の声を押し殺し、忘れ、考えないようにしていたのだろう。
マルグリット嬢が考えていたのはこのようなことだった。が、そう長くは一人で考えに耽っていはいられなかった。ギュスターヴ中尉が立ち去ったことが合図となったのであろう、召使たちがテーブルを片付けるために入って来た。よく訓練されたとは言い難い召使の一人から蝋燭を一本貰うことはなかなか大変だったが、マルグリット嬢はそれを持って自室へと引き上げた。8.30
「私たちは友人ですね?」
マルグリット嬢は氷のようなぐったりした手を引っ込めはしなかった。そして殆ど聞き取れないほどの声でその言葉を繰り返した。
「私たちは友人です!」
マルグリット嬢から中立を守るという言葉以上のものは得られない、と悟ったギュスターヴ中尉は足早に出て行った。マルグリット嬢は死んだようにぐったりして椅子に再び腰を下ろした。
「ああ神様、これから一体どうなるのでしょう!」と彼女は呟いた。
あの不幸な若者ギュスターヴ中尉がこれから何をしようとしているか、彼女は十分に分かっていると思っていたので、はらはらしながら耳を澄ませていた。『将軍』と彼の間に起こるであろう激しいやり取りは、おそらく彼女のところにまで聞こえてくるであろうから。
実際、すぐに中尉の短く引き攣ったような声が響いた。
「父上はどこだ?」
「『将軍』はクラブにお出かけになりました」
「で、母上は?」
「『伯爵夫人』はお友達がオペラに誘いにいらしたので、ご一緒にお出かけになりました」
「なんと、狂気の沙汰だな!」
それでおしまいだった。外に通じるドアがかつて聞いたことのない激しさで開かれ、叩きつけるように閉じられた。その後聞こえてくるのは召使たちの冷笑だけだった。
フォンデージ夫妻が手はずを整えたこの会見を、最後まで見届けなかったのは途方もない失態ではなかったか。その結果に彼らの人生が懸かっていたというのに!
しかし彼らは、未だ解明されていない犯罪によって突然、巨額の富を手にしたのである。彼らは錯乱状態に陥り、後先を考えることもなくその金を両手で掴めるだけ掴んだのだ。おそらく、猛獣が餌食に飛び掛かるように、金をいくらでも遣えるという喜びに我を忘れ、己の貪欲さを満たすことに心を奪われ、良心の声を押し殺し、忘れ、考えないようにしていたのだろう。
マルグリット嬢が考えていたのはこのようなことだった。が、そう長くは一人で考えに耽っていはいられなかった。ギュスターヴ中尉が立ち去ったことが合図となったのであろう、召使たちがテーブルを片付けるために入って来た。よく訓練されたとは言い難い召使の一人から蝋燭を一本貰うことはなかなか大変だったが、マルグリット嬢はそれを持って自室へと引き上げた。8.30