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エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XV-2

2025-05-02 10:47:50 | 地獄の生活
このようなことをしていると時間はあっという間に過ぎ、彼は『親愛なる侯爵』との約束の時間に少し遅れて到着した。
ド・ヴァロルセイ侯爵は、彼が辞去したときと全く同じ姿勢で喫煙室に座り、ド・コラルト子爵と話をしていた。しかし、その間侯爵は外出をしていたのだった……。だが、彼が昨夜以来練り上げていた策略を実行する準備をするのに、ものの一時間とは掛かっていなかった。
「勝利です!」とウィルキー氏はドアのところで叫んだ。「いや、なかなか大変でしたが、僕の底力を見せつけましたよ……僕は相続します。何百万という財産は僕のものです!」
彼の『身分の高い友人たち』がおめでとうを言う暇も与えず、彼はマダム・ダルジュレとのやり取りを語り始めた。自分の非道な振る舞いを誇張し、実際には全く言っていない『非常に傲岸な』言葉を自分が言ったかのように語り、自分がいかに情に流されない毅然とした男かということを強調しようと躍起になっていた。
「ほう、あなたは私が思っていたよりずっとやり手のようですな」とド・ヴァロルセイ氏は、彼が語り終えたとき重々しい口調で言った。
「そう……ですかね?」
「そうですとも! それだけじゃありません。あなたの前途は洋々たるものですよ。あなたのことが噂になると、きっとそうなるでしょうが、あなたは一躍有名人です。パリ中の人々が呆気にとられますよ。マダム・ダルジュレが実は息子のために身を捧げた貞淑な女性であり、彼女がスキャンダルにまみれた女だというのは、上流階級の紳士たちが出資した賭博場の偽りの宣伝文句に過ぎず、彼女はその犠牲になっていただけであることが明るみに出れば。新聞はこぞって一カ月は書き立てますよ、この世にも数奇な物語を……。そしてこういった世間の注目を一身に浴びるのは誰だと思いますか? あなたです。更にあなたの何百万という金が拍車をかける。今やあなたは社交界の寵児です。(原文は「冬のライオン」となっている。Lionは社交界の花形という意味で使われることがあるが、「冬」が謎。パリでは冬場にパーティなどの催しが多く行われたとのことなので、晩餐会や舞踏会でもてはやされる、というような意味か?)
ウィルキー氏は喜びで我を忘れるほどだったが、謙虚なふりを装って言った。
「どうかお願いですから、侯爵、お手柔らかにお願いします。そんな大袈裟に仰らないでください……そんな……持ち上げすぎですよ……」
しかしド・ヴァロルセイ氏は、にこりともしなかった。
「私の方でも、あなたにお約束したように、出かけていって情報を集めて来ました。そこで得たものは、殆ど遺憾であると申し上げざるを得ません。実に奇妙なことです」
「えっ」
「あなたが入って来られたとき、コラルトにもそう言っていたところなのですよ……。私がこの件に関与するのは耐え難いと思うのはこの点なのです。というわけで、私に情報を与えてくれた者たちをここに呼びました。あなたは彼らの話をよくお聞きになって、ご自分で判断してください……」
こう言って彼が呼び鈴を鳴らすと、すぐに召使が現れた。
「カジミールさんをお通しして」と彼は命じた。
召使が命令を果たすべく引き下がると、侯爵は言葉を継いだ。
「カジミールというのはド・シャルース伯爵の下男だった男です。しっかり者で、実直、頭も良く、すべてを心得ていて、手元に置いておくと重宝する人間です。正直に申しますが、あなたにお仕え出来るかもしれないという可能性をちらつかせると、彼の舌は大いに滑らかになりましたよ」5.2
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