しかし彼女は言いさし、気がついた。彼女自身千々に心が乱れてはいたが、男爵のただならぬ様子に驚いた。彼はサロンの真ん中で立ち止まったまま、彼女に奇妙な視線をじっと注いでいた。その目には彼の内心の矛盾する感情がぶつかり合う様が見て取れた。怒り、憎悪、同情、許しなどである。マダム・ダルジュレはぞっとした。不幸は限界まで来てはいなかったのだ。まだ新たな不幸が彼女に襲い掛かろうとしている! 男爵は苦痛の軽減ではなく、更にもっと苦痛を与えるために来たのだ!
「どうしてそんなお顔で私をご覧になるの?」彼女の声は不安のためいつもとは違っていた。「私、何をしたんでしょう?」
彼は悲しげに頭を振り、優しく答えた。
「可哀想なリア、貴女は何もしてなどいない」
「それなら……、ああ神様、一体どうなさったんです。私を怖がらせないで!」
彼は進み出て彼女の手を取った。こうして生身の彼女に触れることで彼を捕えている強い感情がより鮮明に理解できるのではないかと期待しているかのようだった。
「どうしたか、ですか?」と彼は言った。「それは今お話しますよ。貴女は知っていますね、私が卑劣にも裏切られ、騙されていたことを。私の人生はある卑劣な男によって踏みにじられました。その男は私が気も狂うほどに愛していた女、私の妻を誘惑したのです。もしもその男を見つけ出したら必ず復讐するという私の誓いを貴女は聞きましたね。その男が誰か、私は知ったのです。この世の幸福を私から奪ったその男とは、ド・シャルース伯爵だったのです。貴女の兄の!」
マダム・ダルジュレは男爵に握られていた自分の手を乱暴に引き離した。まるで目の前に亡霊が立ち現れたかのように恐れおののき、腕を前に上げながら後ずさりした。壁のところまで来ると彼女は大きな叫び声を上げた。
「なんということを!」
男爵の唇に痙攣のような苦い微笑が浮かんだ。
「何を恐れているのです?」と彼は言った。「貴女の御兄さんはもう亡くなったではありませんか。彼は私から復讐の喜びまでも奪ったのです……」12.30