彼は自分が我慢の限界に来ていると感じたのか、自制するのをやめ、嗄れ声で言った。
「いいか、これ以上私に刃向かうのはよせ。出て行け、でないと、何があっても責任は持たんぞ」
パスカルは椅子の動かされる音を聞いた。そして殆どその直後、一人の婦人が喫煙室を走るように突っ切って行くのが見えた。
何故彼女はパスカルに気がつかなかったのか? それは彼が居た場所が原因かもしれない。また、あの勇ましい態度にも拘わらず、彼女が酷く気を動転させていた所為とも考えられた。
しかしパスカルの方では彼女を見た。彼は目がんだようになっていた。
「なんてよく似ているんだ……」と彼は呟いた。8.31