その夜、シュパンはよく眠れなかった。翌朝、五時から彼はアムステルダム通りをぶらつき、目を皿のようにして居酒屋の店先を一軒一軒覗き込んでいた。鉄道の荷物取扱係がいないかと探していたのだ。
ほどなく彼は、そのような男が一人『朝飯の前に一杯引っかけ』ているのを見つけ、たちまち仲良くなった。すぐに心安くなるための方法を彼は心得ていたのだ。しかし、この荷物取扱係は、残念ながら何も知らないと言ったが、彼の同僚の一人のもとへと連れて行ってくれ、その同僚は十六日の夜、老婦人の乗った馬車から荷物を下ろすのを手伝ったという。彼はそのときのことを完璧に覚えており、その老婦人はロンドンに行くとのことであった。
しかし、それらの荷物は発送されてはおらず、その老婦人はそれらを保管室に預けていた。その翌々日、怪しげな様子の太った女が預かり証を手にやって来て、その荷物の保管料を支払った上で、それらを引き取っていったという。
この話をしてくれた荷物取扱係の記憶にはっきり残っていたのは、彼が通例よりも愛想よく応対したにも拘わらず、この太った女は彼にびた一文もチップをくれなかったということだった。去りがてに彼女は、いかにも口先だけというような恥知らずな口調でこう言ったという。
「このお礼はするからね、兄ちゃん。あたしはアスニエール通りでちょっとした居酒屋をやってるんだけどさ、今度そっちの方に来たら、友だちと一緒でもいいよ、うちに寄っておくれ。とっておきのお酒をご馳走するからさ!」
この荷物取扱係がとりわけ腹に据えかねたのは、この太った女が自分を愚弄しただけだと確信したからだった。
「て言うのもさ、その女、店の名前も住所も言わなかったんだよ、あの腹黒の婆め!」と彼はぶつくさ不平を呟いた。「今度会ったら、ただじゃおかないからな!」
シュパンは既にその場から遠ざかっていた。この情報を与えてくれた男の泣き言は殆ど意に介さなかった。今や、追手を逃れるためにフェライユール夫人が取った策略が理解でき、彼の推測は確信へと変わっていたからだ。パスカルはやはりパリのどこかに身を隠している、ということが証明されたように彼には思われた。だが、パリのどこだ? 先ほどの太った女を探し出せれば、フェライユール夫人とその息子に行き着くことになるだろう。しかし、どうすればいいか?
その女はアスニエール通りで居酒屋をしている、とのことだった。それは本当だろうか? その漠然とした言い方は単に新たな用心深さの表れと見るべきではないのだろうか?
確かに言えることは、アスニエール通りにあるすべての酒場を知っているシュパンだったが、あの荷物取扱係が言っていたような逞しいおかみがカウンターの向こうにでんと陣取っているような店は心当たりがないということだった。7.19
ほどなく彼は、そのような男が一人『朝飯の前に一杯引っかけ』ているのを見つけ、たちまち仲良くなった。すぐに心安くなるための方法を彼は心得ていたのだ。しかし、この荷物取扱係は、残念ながら何も知らないと言ったが、彼の同僚の一人のもとへと連れて行ってくれ、その同僚は十六日の夜、老婦人の乗った馬車から荷物を下ろすのを手伝ったという。彼はそのときのことを完璧に覚えており、その老婦人はロンドンに行くとのことであった。
しかし、それらの荷物は発送されてはおらず、その老婦人はそれらを保管室に預けていた。その翌々日、怪しげな様子の太った女が預かり証を手にやって来て、その荷物の保管料を支払った上で、それらを引き取っていったという。
この話をしてくれた荷物取扱係の記憶にはっきり残っていたのは、彼が通例よりも愛想よく応対したにも拘わらず、この太った女は彼にびた一文もチップをくれなかったということだった。去りがてに彼女は、いかにも口先だけというような恥知らずな口調でこう言ったという。
「このお礼はするからね、兄ちゃん。あたしはアスニエール通りでちょっとした居酒屋をやってるんだけどさ、今度そっちの方に来たら、友だちと一緒でもいいよ、うちに寄っておくれ。とっておきのお酒をご馳走するからさ!」
この荷物取扱係がとりわけ腹に据えかねたのは、この太った女が自分を愚弄しただけだと確信したからだった。
「て言うのもさ、その女、店の名前も住所も言わなかったんだよ、あの腹黒の婆め!」と彼はぶつくさ不平を呟いた。「今度会ったら、ただじゃおかないからな!」
シュパンは既にその場から遠ざかっていた。この情報を与えてくれた男の泣き言は殆ど意に介さなかった。今や、追手を逃れるためにフェライユール夫人が取った策略が理解でき、彼の推測は確信へと変わっていたからだ。パスカルはやはりパリのどこかに身を隠している、ということが証明されたように彼には思われた。だが、パリのどこだ? 先ほどの太った女を探し出せれば、フェライユール夫人とその息子に行き着くことになるだろう。しかし、どうすればいいか?
その女はアスニエール通りで居酒屋をしている、とのことだった。それは本当だろうか? その漠然とした言い方は単に新たな用心深さの表れと見るべきではないのだろうか?
確かに言えることは、アスニエール通りにあるすべての酒場を知っているシュパンだったが、あの荷物取扱係が言っていたような逞しいおかみがカウンターの向こうにでんと陣取っているような店は心当たりがないということだった。7.19
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