「なんてぇご婦人だ!」と彼はマルグリット嬢が出て行った途端に叫んだ。「まるで女王様だ!あの方のためなら身を切り刻まれても惜しくないや! あの人には分かったんだ。もしおいらがあの人の役に立てたら、それはおいらのため、おいらの満足のためにやったんだってことを。心から、名誉のためにやったってことを。ああ、全く、もし彼女が金をやるなどと言い出していたら、俺はどんなにむかっ腹を立てたろう。どんなにかガックリし、打ちのめされたことか」
シュパンは自分の働きに対し金銭的報酬を与えられないことに無上の喜びを感じていたのだ。これは世間の人々とは全く逆なので、フォルチュナ氏は度肝を抜かれ、しばし無言であった。
「お前、気でも狂ったか、ヴィクトール」と彼はついに言った。
「気が狂う? 僕が? まさか、そんなことあり得ません。僕はただ……」
彼は言葉を止めた。「正直な人間なだけですよ」と言おうとしたのだ。首吊りのあった家で綱の話をしてはならないように、特定の人々の前では口にしてはならない言葉というものがある……。シュパンはこのことを知っていたので、すぐに言葉を継いだ。
「僕がいつか凄い金持ちになったら、ですね、そいで銀行家になって、従業員を大勢雇って、毎日百スー金貨を窓口の後ろで数えさせるようになったらっすね、あんな風な娘っ子がいてくれたらいいな、って思ったんすよ。それじゃ、おいら、もう行きます。じゃ、失礼します……」
というわけで、かの女中のマダム・レオンが自分の仕える『お嬢様』が、『作業着姿の街のチンピラ』と道で立ち話をしているところを見つけた経緯というのはこういうことであった。
ヴィクトール・シュパンは、約束しても守らないというような人間では決してなかった。世の苦労を舐めてきた人間は誰しもそうであるように、彼はあまり心を動かされることはなかったが、 持続する感情は空虚な誓いによって消滅することはなかった。心が感激して高揚すれば、それは一日で終わるなどということはなかった。
パスカル・フェライユールを見つけ出すことは常に彼の頭を去らぬ課題となった。条件を考えればこれは困難な仕事であった。一体何から始めればよいのか? 彼に分かっていることは、パスカル・フェライユールはウルム通りに住んでいたが、突然アメリカに渡航すると宣言して母親とともにそこを引き払った、ということである。ただ、明確なのはそこまでで、後は憶測の域を出ないのだが、マルグリット嬢の確信に基づいて、シュパンもまたパスカルはパリを離れてはおらず、自身の名誉回復とド・コラルト氏及びド・ヴァロルセイ侯爵への復讐を果たす機会を狙っているに違いない、と思っていた。
手がかりと言えばたったこれだけで、パリのような大都会で一人の男を探し出そうとしている。しかもその男は何としても身を隠そうとしているというのに。これは正気の沙汰とは思えないではないか?
しかしシュパンはそうは思わなかった。彼が責任を持って探し出します、と言ったからには、彼には考えがあったのだ。7.2
シュパンは自分の働きに対し金銭的報酬を与えられないことに無上の喜びを感じていたのだ。これは世間の人々とは全く逆なので、フォルチュナ氏は度肝を抜かれ、しばし無言であった。
「お前、気でも狂ったか、ヴィクトール」と彼はついに言った。
「気が狂う? 僕が? まさか、そんなことあり得ません。僕はただ……」
彼は言葉を止めた。「正直な人間なだけですよ」と言おうとしたのだ。首吊りのあった家で綱の話をしてはならないように、特定の人々の前では口にしてはならない言葉というものがある……。シュパンはこのことを知っていたので、すぐに言葉を継いだ。
「僕がいつか凄い金持ちになったら、ですね、そいで銀行家になって、従業員を大勢雇って、毎日百スー金貨を窓口の後ろで数えさせるようになったらっすね、あんな風な娘っ子がいてくれたらいいな、って思ったんすよ。それじゃ、おいら、もう行きます。じゃ、失礼します……」
というわけで、かの女中のマダム・レオンが自分の仕える『お嬢様』が、『作業着姿の街のチンピラ』と道で立ち話をしているところを見つけた経緯というのはこういうことであった。
ヴィクトール・シュパンは、約束しても守らないというような人間では決してなかった。世の苦労を舐めてきた人間は誰しもそうであるように、彼はあまり心を動かされることはなかったが、 持続する感情は空虚な誓いによって消滅することはなかった。心が感激して高揚すれば、それは一日で終わるなどということはなかった。
パスカル・フェライユールを見つけ出すことは常に彼の頭を去らぬ課題となった。条件を考えればこれは困難な仕事であった。一体何から始めればよいのか? 彼に分かっていることは、パスカル・フェライユールはウルム通りに住んでいたが、突然アメリカに渡航すると宣言して母親とともにそこを引き払った、ということである。ただ、明確なのはそこまでで、後は憶測の域を出ないのだが、マルグリット嬢の確信に基づいて、シュパンもまたパスカルはパリを離れてはおらず、自身の名誉回復とド・コラルト氏及びド・ヴァロルセイ侯爵への復讐を果たす機会を狙っているに違いない、と思っていた。
手がかりと言えばたったこれだけで、パリのような大都会で一人の男を探し出そうとしている。しかもその男は何としても身を隠そうとしているというのに。これは正気の沙汰とは思えないではないか?
しかしシュパンはそうは思わなかった。彼が責任を持って探し出します、と言ったからには、彼には考えがあったのだ。7.2
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます