

病気の原因は様々ありますが、今回は「腹筋の短縮による腹圧の上昇も、病気の一因になりうる」という話をしたいと思います。
「よいスタイルの基本」の項では「腹直筋は行き場のなくなった内臓に負けてしまうことも多い」と述べましたが、中には「腹斜筋だけでなく、腹直筋や腹横筋なども短縮し、内臓をつぶしてしまう」ケースもあります。
胃がつぶれると「胃の中身や胃酸が食道に逆流してしまう」場合があります。
ちょうどマヨネーズの容器をつぶすと中身が飛び出してしまうのと同じ要領です。
これを繰り返すと、胃酸のせいで食道が荒れ、「逆流性食道炎」になってしまうこともあります。
つぶれて居場所を失った胃が、上方にはみだすと「横隔膜にある食道裂孔(食道が通るためにあいている穴)から肺の方へ飛び出してしまう」場合もあります(=食道裂孔ヘルニア)。
つぶれて居場所を失った胃が、下方に引き伸ばされると「胃下垂」になります(注1)。
また、つぶれて居場所を失った大腸が、下方に引き伸ばされると「大腸がゆがんだりねじれたりする」ことになります。
大腸は便の通り道なので、大腸がゆがむと便の通りも悪くなり、便秘になりやすくなります。
なお、つぶれて居場所を失った直腸・膀胱・子宮などが、下方に引き伸ばされると「骨盤底筋(注2)に重くのしかかる」場合があります。
骨盤底筋がそれに負け、緩んでしまうと「骨盤臓器脱」や「尿もれ」になってしまいます。
膀胱が下がると尿道も曲がるので、それも「骨盤臓器脱」・「尿もれ」もしくは「排尿困難」の原因となります(図29-3を参照)。
また、膀胱がつぶれると尿をためるスペースが確保できなくなるため、それも「尿もれ」や「頻尿」の原因となります。
ただし、「膀胱がつぶれたり、骨盤底筋にのしかかったりして尿もれするなら、きつく尿道をしめなくては」と考えるのか、骨盤底筋が強く収縮する人もいます。しかし、それで問題がすべて解決するとは限りません。
なぜなら、今度は、排尿のときも骨盤底筋が緩みにくくなり「排尿困難」になってしまう場合があるからです(詳しくは「骨盤底筋を鍛えれば尿もれはなおるか?」の項を参照)。
また、内臓だけでなく、腹腔内を通る血管がつぶれたり、下方に引き伸ばされたりしてしまう場合もあります。
すると、血行が悪くなったり、内臓がうっ血して機能が低下したりしてしまいます。
このとき、「血管がつぶれてしまうなら、血管内の水分を増やしてふくらませればよい」と考えるのか、「水分過多による高血圧」になってしまう方もいます。
ちなみに、胃がつぶれた場合も、「胃がつぶれてしまうなら、胃に空気を入れてふくらませればよい」と考えるのか、「呑気症」(空気を飲んで胃などにためてしまう病気)になる方もいます。
しかし、胃に空気を入れていると食べ物が入りませんから、ためた空気はげっぷやおならで吐き出してしまうことが多いです(注3)。
「腹筋が短縮し、内臓をつぶしてしまう」現象は、「さらに吐くトレーニング」(「吹奏楽と肺活量」の項を参照)や「重いものを持つ仕事」などで腹筋を酷使した人に起こりやすいです。
しかし、それだけではなく、「ストレスの多い人」「緊張しやすい人」にも起こりやすいです。
なぜなら、人間は緊張すると「腹筋を強く収縮させ硬くすることで、内臓を守ろうとする」傾向があるからです(注4)。
余談ですが、腹筋の短縮などによって胸郭や内臓がつぶれると、体幹の厚さは薄くなります。
しかし、その分脂肪がつけば厚くなります。
ですから、体幹の厚さと逆流性食道炎などの有無は、あまり関係ないようです。
(注1)「胃下垂」は、「単に内臓を持ち上げる筋肉(腹横筋下部)の収縮が弱いせいで、胃が垂れ下がっている」だけの場合もあります。
しかし、「腹筋の短縮によって居場所を失ったために、下方に引き伸ばされて下がっている」場合もあるのです。
その場合は、より多くの圧力がかかっているので、症状が深刻になりやすいです。
胃だけでなく、直腸・膀胱・子宮などにも同じことがいえます。
(注2)骨盤底筋とは、尿道括約筋・肛門括約筋などの総称です。
これらは、ふだんは収縮し、尿道や肛門をしめることで、尿もれや便もれを防いでいます。
しかしながら、排泄時は弛緩し、尿道や肛門を開きます。
(注3)中には、「空気を手放せないため、胃に食べ物が入らない」という方もいます。
胃ろう(胃に穴をあけ、そこに管を挿し込み栄養剤を注入する)の場合は、注入してもなかなか入っていかなかったり、栄養剤や胃酸が管の方に逆流してしまったりする場合もあります。
ただし、胃がつぶれていると、呑気症ではなくても「胃に食べ物が入らない」という方は多いです。
「呑気症」や「胃がつぶれたために胃に食べ物が入らない症状」は、「呼吸エクササイズ」などを行い、腹筋の長さや胸郭まわりの皮膚が確保されれば、すぐげっぷが出たりして解消する場合もあります。
しかし、腹腔スペースの縮小に合わせて胃自体までもが縮小してしまっている場合は、改善に時間がかかります。
ちなみに「呑気症はかみしめと関連がある」という説もありますが、「かみしめ」は腹筋が短縮すると起こりやすくなります(詳しくは「かみしめと腹筋短縮の関係」で説明します)。
(注4)腹筋の収縮は、一時的なものであれば大丈夫なことが多いです。
しかし、強い収縮(短縮)が長時間持続したりすると、「内臓をつぶしてしまうことによる病気」になりやすいです。