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腰痛は体の使い方を少し間違えていただけ-昔のおじぎと現代人のおじぎの違いを解説します

逆流性食道炎と腹圧

2016-01-23 11:48:04 | Q&A


病気の原因は様々ありますが、今回は「腹筋の短縮による腹圧の上昇も、病気の一因になりうる」という話をしたいと思います。

「よいスタイルの基本」の項では「腹直筋は行き場のなくなった内臓に負けてしまうことも多い」と述べましたが、中には「腹斜筋だけでなく、腹直筋や腹横筋なども短縮し、内臓をつぶしてしまう」ケースもあります。

胃がつぶれると「胃の中身や胃酸が食道に逆流してしまう」場合があります。
ちょうどマヨネーズの容器をつぶすと中身が飛び出してしまうのと同じ要領です。
これを繰り返すと、胃酸のせいで食道が荒れ、「逆流性食道炎」になってしまうこともあります。

つぶれて居場所を失った胃が、上方にはみだすと「横隔膜にある食道裂孔(食道が通るためにあいている穴)から肺の方へ飛び出してしまう」場合もあります(=食道裂孔ヘルニア)。

つぶれて居場所を失った胃が、下方に引き伸ばされると「胃下垂」になります(注1)。
また、つぶれて居場所を失った大腸が、下方に引き伸ばされると「大腸がゆがんだりねじれたりする」ことになります。
大腸は便の通り道なので、大腸がゆがむと便の通りも悪くなり、便秘になりやすくなります。

なお、つぶれて居場所を失った直腸・膀胱・子宮などが、下方に引き伸ばされると「骨盤底筋(注2)に重くのしかかる」場合があります。
骨盤底筋がそれに負け、緩んでしまうと「骨盤臓器脱」や「尿もれ」になってしまいます。
膀胱が下がると尿道も曲がるので、それも「骨盤臓器脱」・「尿もれ」もしくは「排尿困難」の原因となります(図29-3を参照)。
また、膀胱がつぶれると尿をためるスペースが確保できなくなるため、それも「尿もれ」や「頻尿」の原因となります。

ただし、「膀胱がつぶれたり、骨盤底筋にのしかかったりして尿もれするなら、きつく尿道をしめなくては」と考えるのか、骨盤底筋が強く収縮する人もいます。しかし、それで問題がすべて解決するとは限りません。
なぜなら、今度は、排尿のときも骨盤底筋が緩みにくくなり「排尿困難」になってしまう場合があるからです(詳しくは「骨盤底筋を鍛えれば尿もれはなおるか?」の項を参照)。

また、内臓だけでなく、腹腔内を通る血管がつぶれたり、下方に引き伸ばされたりしてしまう場合もあります。
すると、血行が悪くなったり、内臓がうっ血して機能が低下したりしてしまいます。

このとき、「血管がつぶれてしまうなら、血管内の水分を増やしてふくらませればよい」と考えるのか、「水分過多による高血圧」になってしまう方もいます。

ちなみに、胃がつぶれた場合も、「胃がつぶれてしまうなら、胃に空気を入れてふくらませればよい」と考えるのか、「呑気症」(空気を飲んで胃などにためてしまう病気)になる方もいます。
しかし、胃に空気を入れていると食べ物が入りませんから、ためた空気はげっぷやおならで吐き出してしまうことが多いです(注3)。

「腹筋が短縮し、内臓をつぶしてしまう」現象は、「さらに吐くトレーニング」(「吹奏楽と肺活量」の項を参照)や「重いものを持つ仕事」などで腹筋を酷使した人に起こりやすいです。
しかし、それだけではなく、「ストレスの多い人」「緊張しやすい人」にも起こりやすいです。
なぜなら、人間は緊張すると「腹筋を強く収縮させ硬くすることで、内臓を守ろうとする」傾向があるからです(注4)。

余談ですが、腹筋の短縮などによって胸郭や内臓がつぶれると、体幹の厚さは薄くなります。
しかし、その分脂肪がつけば厚くなります。
ですから、体幹の厚さと逆流性食道炎などの有無は、あまり関係ないようです。


(注1)「胃下垂」は、「単に内臓を持ち上げる筋肉(腹横筋下部)の収縮が弱いせいで、胃が垂れ下がっている」だけの場合もあります。
しかし、「腹筋の短縮によって居場所を失ったために、下方に引き伸ばされて下がっている」場合もあるのです。
その場合は、より多くの圧力がかかっているので、症状が深刻になりやすいです。
胃だけでなく、直腸・膀胱・子宮などにも同じことがいえます。

(注2)骨盤底筋とは、尿道括約筋・肛門括約筋などの総称です。
これらは、ふだんは収縮し、尿道や肛門をしめることで、尿もれや便もれを防いでいます。
しかしながら、排泄時は弛緩し、尿道や肛門を開きます。

(注3)中には、「空気を手放せないため、胃に食べ物が入らない」という方もいます。
胃ろう(胃に穴をあけ、そこに管を挿し込み栄養剤を注入する)の場合は、注入してもなかなか入っていかなかったり、栄養剤や胃酸が管の方に逆流してしまったりする場合もあります。
ただし、胃がつぶれていると、呑気症ではなくても「胃に食べ物が入らない」という方は多いです。

「呑気症」や「胃がつぶれたために胃に食べ物が入らない症状」は、「呼吸エクササイズ」などを行い、腹筋の長さや胸郭まわりの皮膚が確保されれば、すぐげっぷが出たりして解消する場合もあります。
しかし、腹腔スペースの縮小に合わせて胃自体までもが縮小してしまっている場合は、改善に時間がかかります。

ちなみに「呑気症はかみしめと関連がある」という説もありますが、「かみしめ」は腹筋が短縮すると起こりやすくなります(詳しくは「かみしめと腹筋短縮の関係」で説明します)。

(注4)腹筋の収縮は、一時的なものであれば大丈夫なことが多いです。
しかし、強い収縮(短縮)が長時間持続したりすると、「内臓をつぶしてしまうことによる病気」になりやすいです。

吹奏楽と肺活量

2016-01-20 10:41:41 | Q&A

「吹奏楽をしていると、肺活量が増える」ことはよく知られています。
ところが、意外なことに「吹奏楽をやっている(た)」という人の胸郭が、下がっていて上がりにくいことがあります。

それは、「強く長く息を吐くために、呼気筋である腹斜筋を酷使した結果、腹斜筋に乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したままになってしまったため」であることが多いです(注1)。
吹奏楽は、音を出すために強く長く息を吐かなくてはならないため、つい吐く方ばかりに集中し、吸う方をおろそかにしてしまいやすいのです。
すると、過労・酸素不足で腹斜筋が短縮し、胸郭が上がりにくくなります。

「それでも、肺っていうのは吸わなければ吐けない構造なのだから、息を吐いて音を出すためには吸う方(胸郭を上げる方)も省略できなくなるはず」とも思えます。
しかし実は、腹斜筋が短縮した結果、胸郭が十分上がらなくなっても、たくさん息を吐く方法があります。
それは、「ふつうに息を吐いたところから、さらに吐くトレーニング」をすることです。

通常の呼吸では、「肺胞の空気を吐き切ると、そこからは息を吸いはじめる」ことになります。
しかし「さらに吐くトレーニング」では、「肺胞の空気を吐き切ったところから、さらに残っていた気管支などの空気まで吐く」ということをします。

①ただし、通常の肋骨は、「肺胞の空気を吐き切ったところ」よりもさらに下げようとすると、やや動きにくくなります。
よって、さらに下げるためには、腹斜筋を強く収縮させなくてはなりません。

それでも、「さらに吐くトレーニング」を繰り返せば、スムーズに下がるように変えることはできます。
「吹奏楽をやっている(た)にもかかわらず、胸郭が下がっている人」の中には、このトレーニングによって「肺胞の空気を吐き切ったところ」よりも、さらにスムーズに下がるようになっている人がいます。

たとえば、「肋骨の角度が90-50度のとき肺胞の換気が行われるため、正常だと可動範囲が90-50度の人」がいたとします。
ところが、腹斜筋を酷使したら腹斜筋が短縮し、吸える量(肋骨が上がる角度)が90→70度に減ってしまいました。
そこで、「さらに吐くトレーニング」を行い、吸える量が減ってしまった分吐く量(肋骨が下がる角度)を50→30度に増やしました。
その結果、可動範囲が70-30度になりました。
・・といった具合です(図29-1を参照)。

②しかし、問題は他にもあります。
「50-30度の部分の空気」は、「肺胞の空気を吐いた後に残った気管支の空気」なので、「酸素摂取に関係ない部分の空気」になります(注2)。
よって、いくら出し入れさせても、酸素摂取はできません。
ですから、頑張って吐いても腹斜筋が疲れるだけで、酸素供給はできないのです。

③なお、「肺胞の空気を吐き切ったところ」よりもさらに吐くのが大変な理由は、①「肋骨自体が動きにくくなるから」というだけではありません。
「肺胞の空気を吐いた後に残った気管支の空気を吐く際は、大きな抵抗が発生するから」というのもあります。
なぜ「大きな抵抗が発生する」のかというと、「肺胞は少しの圧力で簡単にしぼむ」のに対し、「気管支などの部分は強くつぶさないとつぶれない」ようにできているからです。

上記①~③の理由により、「さらに吐くトレーニング」を行うと、腹斜筋は過労と酸素不足で、短縮しやすくなります。
ですから、「さらに吐くトレーニング」によって、90-50度の人が70-30度になると、将来的にはさらに腹斜筋が短縮し、肋骨の上がる角度が70度→60度・・と、減っていってしまいやすくなります。

「肋骨の上がる角度が70→60度に減ってしまったのなら、その分肋骨が下がる角度を30→20度に増やせばよい」とも思えますが、気管支の空気を吐いてしまった後の肺には、もう吐ける空気は残っていません。
よって、結局は肺活量が低下してしまうことになるのです。
ですから、「90-50度でも、70-30度でも、肺活量が同じで楽器の音も出るならOK」というわけではないのです。

肺活量を測定する際は、「(たくさん吸ってから)強く勢いよく吐いて!!」と指示されることが多いです。
これは、1秒率も同時に測定しているからです。
人間の肺は正常だと、最初の1秒で全肺活量の70%以上を吐けます。
よって、正常だと、1秒率は「70%以上」となります。
これが、ぜんそくで気道が狭くなると、速く吐けなくなるため、1秒率は下がってしまいます。

しかし実は、「正常だと90-50度の人が70-30度になった場合」も、1秒率は下がってしまうのです。
なぜなら、「肺胞の空気を吐いた後に残った気管支の空気」(50-30度の部分)は、強く吐いても、肺胞の空気のように勢いよく出ていくことは難しいからです。

一方で、「90-50度の人」(正常な人)は、そんなに頑張らなくても、勢いよく息を吐けます。
なぜなら「90度まで上がる胸郭」は、多くの肺胞をふくらませることができ、ふくらんだ肺胞は少しの圧力で簡単にしぼむからです。

ところが、「70-30度の人」は、「自分の1秒率が低いのは、強く勢いよく吐く練習が足りないから」だと考えてしまいがちです。
しかし、この上さらに「強く勢いよく吐く練習」(さらに吐くトレーニング)を重ねてしまうと、先ほど述べた①~③の理由により、さらに腹斜筋が疲労→短縮し、肋骨の上がる角度が減り、結局は肺活量が低下してしまうことになります。
それに、腹筋の短縮がひどくなると、逆流性食道炎などになってしまう場合もあります(詳しくは「逆流性食道炎と腹圧」の項で述べます)。

ですから、やはり、肺活量や1秒率を増やすには、「さらに吐くトレーニング」によって「胸郭がさらに下がるようになる」よりも、「呼吸エクササイズ」などによって「胸郭が上がるようになる」ことが大切なのです(注3)。

「酸素摂取の効率がよい肋骨角度の範囲」は個人差がありますが、いずれの胸郭であっても「息を吐いていき、苦しいゾーンに達した場合」は、「肺胞の空気を吐いた後に残った気管支の空気」を吐く肋骨角度に入ってしまっている可能性が高いです。
ちなみに、この現象は吹奏楽に限らず、歌手やアナウンサーなど「強く長く息を吐く仕事」全般で起こりやすいです。


(注1)強く息を吐く際は、腹斜筋だけでなく腹直筋や腹横筋まで収縮するので、それらも短縮してしまいやすいです。
しかし長くなるので、本文では省略し、腹斜筋と記載しています。

(注2)気管支では酸素摂取(ガス交換)を行うことはできません。酸素摂取(ガス交換)に関係するのは「肺胞の部分の空気」です。

(注3)まだ胸郭が十分上がらない状態なのに、たくさん吸ってしまうと、ふくらみすぎた肺胞が横隔膜などに押しつけられ傷んでしまう場合があります(図24-2 ×を参照)。
ですから、単にたくさん吸うのではなく、「呼吸エクササイズ」を行い、胸郭が十分上がるようにしていくことが大切です。