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美しい姿勢・歩き方は腰痛・膝痛・肩こりを改善する

腰痛は体の使い方を少し間違えていただけ-昔のおじぎと現代人のおじぎの違いを解説します

動作の注意点-②床に落ちたものを拾う

2016-06-11 11:07:17 | 姿勢・動作

「床に落ちたものを拾うときなど、立位で深い前かがみになると、腰痛が悪化する」という人も多いです。
床のものを拾うときは、「深い前かがみ」になります。
すると、短縮した大腿裏の筋や脊柱起立筋群が伸ばされて断裂したり、胸椎を後弯した分腰椎前弯↑となるため腰椎の椎間板後方がつぶれ亀裂が入ったりします(図14-1 ×1を参照)。
その逆に、腰椎の椎間板後方が広がった場合は、亀裂が広がり中身の髄核が流出してしまうこともあります(図4-2を参照)。

ですから、そのような場合は「腰ではなく膝を曲げしゃがむ」ことで、前かがみにならずに拾うとよいです。
膝痛やふくらはぎの短縮・足底腱膜炎のある人はしゃがむこともNGなのですが、脊椎(腰)と脚だったらまずは脊椎を守るのが基本です(注1)。
なぜなら、「脊椎の神経」(脊髄)の方が「脚の神経」より中枢にあるため、脊椎を傷めた方が末梢の広範囲に影響するからです。

ただし、「しゃがむ」ことが腰によいというわけではありません。
「深くしゃがむ」と「深い前かがみ」と同様に背中を大きく丸めることになるため、やはり腰を傷めやすいです。
ですから、一番安全なのは「自助具を使う」ことで、腰や膝を深く曲げずに拾うことです。

なお、「深い前かがみから起き上がるときに腰痛が悪化する」という方も多いです。
それは、起き上がるとき骨盤を十分起こせないために、腰椎前弯↑となったり脊柱起立筋群が過労→短縮したりするためだと考えられます。

骨盤を十分起こすには、大殿筋を十分収縮させなくてはなりません。
が、「深い前かがみ」になったときの大殿筋は大きく伸ばされているので、十分収縮させるのは大変なのです(注2)。
すると、大殿筋が弱い場合は、十分収縮する前に疲れてしまうため、骨盤を十分起こせないことも多いのです(注3)。

そのため、大腿裏の筋が多く手伝ったり(注4)、「骨盤を十分起こす(後傾する)前に上体を起こす」ことになります。
しかし、「骨盤を十分起こす前に上体を起こす」と短背筋群が働きにくくなるため、脊柱起立筋群を収縮させることで起きてしまいがちとなります(「おじぎエクササイズNG例」を参照)。
よって、腰椎前弯↑となったり、脊柱起立筋群が過労→短縮したりします。

ただし、健康で大殿筋も十分ある人が、骨盤を十分起こし「おじぎエクササイズ」と同様に起き上がるのであれば、よいエクササイズになります。
しかし、「深い前かがみ」から起き上がる際は、大殿筋だけでなく短背筋群への負荷も強いので、「腹横筋下部を50%位収縮させる」ことで脊柱の起立を促し、短背筋群をサポートすることも忘れないでください(「腹横筋下部はよい姿勢の要」の項を参照)。


(注1)「立位の場合は、脚が土台となりその上に脊椎がくるのだから、まずは脚を守るべき」と思う方もいるかもしれません。
しかし、脚を動かす神経は脊椎を通ってくるので、脚を守ったせいで脊椎が傷つくと、脚がマヒして動かなくなってしまいます。

ちなみに、「大殿筋エクササイズ2」の(注4)では「今すぐ骨盤後傾→腰椎前弯↓としたいにもかかわらず大殿筋の力だけではできない場合は、大腿裏の筋も収縮させることがある」と述べました。
このとき「それでは、大腿裏の筋が過労→短縮するので、膝が曲がったりしてしまうのでは?」と思った方もいると思います。
確かにそうですが、大腿裏の筋を収縮させないせいで腰椎前弯↑となったために脊椎が傷つくと、脚がマヒして動かなくなってしまいます。
すると、大殿筋は弱っている上にマヒも加わるため、鍛えるのはますます困難になります(「大殿筋マヒと脊髄損傷の悪循環」の項を参照)。

(注2)筋肉を収縮させる(鍛える)ときには、(ア)「その筋肉をある程度伸ばした姿勢にする」方法と(イ)「その筋肉をある程度収縮した姿勢にする」方法があります(「大殿筋エクササイズ2」注10を参照)。
「深い前かがみ」から起き上がるときの大殿筋は(ア)となります。
(ア)の方は、最終可動域まで収縮する(大殿筋の場合は「十分骨盤後傾するまで収縮する」ということ)のが難しくなります。

(注3)このとき、腸腰筋の短縮がある場合は、大殿筋への負荷はさらに増えます。
なお、素早く起き上がる場合も、大殿筋が収縮したり腸腰筋が伸びたりする暇がないため、骨盤を十分起こせないことが多いです。

(注4)大殿筋が弱っているときは、大腿裏の筋も手伝わないと骨盤を十分起こせません。
が、それだと、大殿筋が怠け大腿裏の筋が過労→短縮しやすいので、「大殿筋を50%位収縮させることで、大腿裏の筋が手伝うのを必要最小限にする」ことが大切です。

動作の注意点-①洗面・歯みがき

2016-06-08 17:13:29 | 姿勢・動作


「洗面台で洗面するときや調理台で作業するとき、立位で前かがみになると、腰痛が悪化する(激痛になる)」と訴える方は多いです。
立位のとき「体幹が地面に垂直」なら、椎骨をただ積んでおくだけでも立位を保てます。
しかしながら、「前かがみ」になると、その姿勢を支えるために「短背筋群+大殿筋」が強く収縮しなくてはなりません。
ところが、「短背筋群+大殿筋」が弱っていると、脊柱起立筋群が手伝うため過労→短縮しやすくなり腰椎前弯↑→腰痛↑となります。

このとき、「腰椎すべり症」の場合は、さらに大変なことが起こります。
脊柱起立筋群の収縮(短縮)によって押し出された腰椎が、重力によって落下してしまうのです。これが激痛の原因です。
すると、体は「脊柱起立筋群をさらに収縮させることによって体幹を固めようとする」ことが多いのですが、脊柱起立筋群が強く収縮すればするほど、脊柱起立筋群にはさまれている椎骨たちはきれいに整列していられず落下しやすくなります。

立位だけでなく座位でも「前かがみ」になれば腰椎は落下しやすいですが、立位の方がより落下しやすいです。
なぜなら、座位よりも立位の方が大殿筋が緩みやすいため、骨盤前傾→腰椎前弯↑となりやすいからです(図9-3を参照)。
また、腸腰筋が短縮している場合は、座位よりも立位の方が骨盤前傾→腰椎前弯↑となりやすいからです(図10-3を参照)。

「どうしても、立位で前かがみになる(作業する)必要がある」という場合は、「立位の注意点NG例」の項で述べたように
1 高めのいすに座る(図21-1 ○2)
2 立位で片足を台にのせ片方の股関節を曲げる(図22-4 ○)
3 立位で作業台にクッションを取り付けそこによりかかる(図22-7 ○)
4 高めのいすに座る+作業台にクッションを取り付けそこによりかかる
などの方法をとるとよいです(注1)。
ただし、いずれにしろ「下腹をへこませおしりを下げ、なおかつ上半身が後ろにこないようにする」のでないと無意味です(注2)。

さらに、3・4を行う際は、「クッションによりかかるのは楽をするためではなく、重心をわずかに前方にもってくる(よう意識する)ことで、正常なシステムを作動させるため」であることを、本人が意識して行うことが大切です(「腸腰筋よりも大殿筋を先に鍛えよう」の項を参照)(注3)。

そのためには「下腹をクッションに押しつけないが、かといって下腹をクッションから離さない」ようにします。
つまり、「クッションにわずかによりかかる」ようにします(注4)。
なぜなら、下腹をクッションに押しつけるだけだと「股関節を前につき出した姿勢」(図21-2 ×1)になってしまいやすいからです。
かといって、下腹をクッションから離すと、今度は「重心を後方にもってくる」「おしりが後方につき出る」ことになるため、それだと「股関節はやや屈曲しているが、足関節を底屈することによって正面を向いた姿勢」(図21-3 ×3)になってしまいやすいからです(注5)。

「それでは、下腹をクッションから離しても(クッションを使用しなくても)重心を前方にもってくればよいのでは?」とも思えます。
が、いきなりそれだと、短背筋群が過労となるため脊柱起立筋群が手伝い過労→短縮したり、大殿筋が過労となるため「大腿裏の筋+ふくらはぎ」が手伝い過労→短縮したりしやすいのでNGです(「腸腰筋より大殿筋を先に鍛えよう」注1・注2を参照)。

ちなみに、「重心を前方にもってくる=股関節(下腹)をつき出す」となるくせがある人に「重心を前方にもってきて」と言うと、余計「股関節を前につき出した姿勢」(図21-2 ×1)になってしまうだけなのでNGです。
だからといって、「重心を後方にもってくる=股関節(おしり)を後方につき出す」となるくせがある人に「もう少し重心を後方にもってきて」と言うと、股関節を後方につき出し「足関節を底屈することによって正面を向いた姿勢」(図21-3 ×3)になってしまうだけなのでNGです。

このような場合は、まず「重心移動の基本」を理解し練習する必要があります。
重心を移動する際は、「下腹をへこませおしりを下げ、なおかつ上半身が後ろにこないようにする」ことで体を一直線に保ったまま、股関節ではなく足関節を動かすのが基本です。
重心を前方にもってくる際は足関節を大きく背屈させ、重心を後方にもってくる際は足関節を底屈させます(注6)。

しかし、「重心移動の基本」を練習する前に、そして「体を一直線に保つ」前に、「体を一直線にする」練習が必要な場合もあります。
「体を一直線にする」ためには、「股関節をまっすぐにしたまま骨盤後傾する練習」が必要です(注7)。
これができない人は「骨盤後傾すると同時に股関節が伸展しすぎてしまう」ため、「股関節を前につき出した姿勢」(図21-2 ×1)となったり、「股関節過伸展で腰椎後弯」となり股関節を傷めたりしやすいです(「立位の注意点NG例」注1を参照)。

また、「体を一直線にする」ためには、「下腹をへこませる=腹横筋が収縮する」しくみの理解や「腹横筋エクササイズ」が必要な場合もあります。
「下腹をへこませる」ことができない人は、「下腹をへこませると同時にへこませた分腰が後方につき出る(腰椎が後弯する)」ことがあります。
つまり、「下腹をへこませた」のではなく、「骨盤を後傾した」だけなのです。
「でも、結果的には腰椎が後弯したのだからよいだろう」と思うかもしれませんが、それだと「股関節過伸展で腰椎後弯」になるので、股関節を傷めたりしやすいです(「立位の注意点NG例」注1を参照)。
「下腹をへこませる」ことができない人は、「下腹をへこませると同時におしりが後方につき出る」こともあります。
つまり、「下腹をへこませた」のではなく、「足関節を底屈することによって正面を向いた姿勢」(図21-3 ×3)になっただけなのです。

「正常なシステム」で主に収縮するのは「体の後面にある筋肉」なので、そこに腹横筋は含まれませんが、「体の後面にある筋肉」(特に短背筋群)がまだ弱い場合は、腹横筋によるサポートが重要になります(「腹横筋下部はよい姿勢の要」の項を参照)(注8)。

なお、どの姿勢もそうですが、特に3・4は連続して長時間行うと、下腹を長時間圧迫することになり、下腹がうっ血するのでNGです。
よって、長時間作業する場合は「5分行ったら5分(できれば横になり)休むを繰り返す」という具合に、こまめに休憩を入れてください(注9)。
それでも、疲れて姿勢がくずれる場合は、そこで終了してください。
姿勢がくずれても続けてしまうと、間違った姿勢を覚えてしまうことになります。

「前かがみになると腰椎が落下し腰痛↑になる」人の場合、一番安全なのは「いすに座って作業する」ことです。
が、「いすに座っても、前かがみになると腰痛↑になる」という場合は
「いすに浅めに座り背もたれによりかかることで骨盤後傾し、机を胸の近くまで引き寄せ、胸から上だけを前に出して洗面する」とよいです。
そうすると、図26-1 ×1の人が座ったときと同様の姿勢になります。
ただし、これだとエクササイズにはなりませんし、腰椎後方に亀裂が入っている場合は亀裂が広がってしまう場合があります。

3・4は難しい点もありますが、正しく行っていれば「正常なシステム」が作動するようになってくるのでよいエクササイズになります(注10)。
ですから、立位を練習したい場合は、「立位の注意点」だけでなく3・4も練習するとよいです。


(注1)腸腰筋が短縮している人は、股関節を曲げずにいるのは不可能なので、1・2・4のうち自分に合ったものを採用してください(「立位の注意点NG例」図21-2 ×2、図21-3 ×3を参照)。

(注2)「下腹をへこませおしりを下げる」と、腹横筋下部・大殿筋を50%位収縮させることで骨盤後傾→腰椎前弯↓とすることができます(「立位の注意点」1~7を参照)。
上半身が後ろにくると、腰椎前弯↑となり、しかも上半身の重みが腰椎後方に集中するため、「椎間板ヘルニア」などになりやすいです。
それに、上半身が後ろにくると、足裏で見れば重心が前方にきていたとしても、上半身だけで見ると重心が後方にきているので、上半身に関しては「正常なシステム」は作動しません。

(注3)「クッションによりかかると、クッションが骨盤前傾を制限するので、骨盤後傾しやすくなる=大殿筋が楽になる」というのはあります。
しかし、それは「大殿筋が収縮しなくてすむようにする」ためではなく、「弱い大殿筋でも収縮しやすくする」ためです。
弱い筋肉を収縮させるためには「その筋肉をある程度収縮した姿勢にする」必要があるからです(「大殿筋エクササイズ2」注10を参照)。
ですから、「ただクッションによりかかり楽をするだけで、大殿筋が収縮しない」のではNGです。

(注4)しかし、いくら「クッションにわずかによりかかる」形をつくっても、「股関節を前につき出した姿勢」などになっていれば無意味です。

実は、「正常とは逆のシステム」がくせになっていると、「クッションにわずかによりかかる」ことで重心をわずかに前方にもってきても、「正常なシステム」が作動しない場合もあります。
体が「前方には作業台があるのだから、正常なシステムを作動させなくても倒れない」と考えるためだと思われます。
「それでは、重心をたくさん前にもってくれば、体が倒れるかもしれないと考え、正常なシステムを作動させるのでは?」とも思えます。
確かにそうかもしれませんが、今度は短背筋群や大殿筋が過労となるため、脊柱起立筋群や「大腿裏の筋+ふくらはぎ」が手伝ってしまいます(「腸腰筋よりも大殿筋を先に鍛えよう」注1・注2を参照)。

ですから、クッションの使用にかかわらず、「下腹をへこませおしりを下げ、なおかつ上半身が後ろにこないようにする」ことや、(注3)で述べたように「大殿筋を50%位収縮させる」ことなどにより、「正常なシステム」を作動させるよう意識することが大切となります。

(注5)「前かがみになると激痛になる」経験をすると、無意識のうちに「前かがみ」を避けるため、「股関節を前につき出した姿勢」や「足関節を底屈することによって正面を向いた姿勢」になってしまいがちですが、どちらも腰痛が悪化しやすい姿勢です(「立位の注意点NG例」を参照)。

(注6)ただし、ふくらはぎが短縮し足関節が背屈できない場合は、無理に背屈するとふくらはぎもしくは足底腱膜が断裂しやすくなります(「ふくらはぎのストレッチ」の項を参照)。
そのような場合は、立位の前に「大殿筋を鍛えることでふくらはぎが過労するくせを改善し、ふくらはぎを緩める」ことからはじめる必要があります(「弾性ストッキングでむくみ予防」の項などを参照)。

ふくらはぎの短縮が軽度の場合は、少しヒールの高いくつをはくことでカバーできる場合もあります。
しかし、ふくらはぎの短縮が強い場合は、かなりヒールの高いくつをはかなくてはカバーできません。
ところが、ハイヒールの中でもヒールの高いものはくつ底が「つま先立ち」の形になっているものがほとんどなので(そうなっていないとくつの中で足が前にすべってしまい痛いです)、足底腱膜が伸びた形になってしまうのでNGです(「足底腱膜炎の原因」注4を参照)。

(注7)骨盤前傾していては、体が一直線になることはありません。
「股関節を前につき出した姿勢」(図21-2 ×1)・「腰椎前弯↑とすることで一見股関節が伸展して見える姿勢」(図21-2 ×2)・「足関節を底屈することによって正面を向いた姿勢」(図21-3 ×3)のどれかになりやすいです。

なお、「膝関節をまっすぐにしたまま骨盤後傾する」練習が必要になる場合もあります。
骨盤後傾すると同時に膝関節が屈曲したり、逆に膝関節を後ろに押し込んでしまったりするのはNGです。
このような現象は、腸腰筋の短縮があると起こりやすいです。
腸腰筋の短縮がある場合は「大殿筋エクササイズ」などを行い腸腰筋を緩めることからはじめるとよいです(大殿筋が収縮するようになると腸腰筋が緩む場合があります)。
それまでは、「高めのいすに座る」などしてください。

(注8)ちなみに、「下腹をクッションにわずかに押しつけて」と言うと、「姿勢は変えないまま、下腹をふくらませることで下腹がクッションにわずかに触れるようにする」人もいますが、クッションによりかかるのは重心を前方にもってくるためなので、これでは全く意味がありません。
それに、これでは腹横筋が緩んでしまいます。

(注9)横になって休む場合は、起居動作の際も、腰椎前弯↑とならないようゆっくりていねいに行ってください。

(注10)ただし、「いすに座っても、前かがみになると腰痛↑になる」という場合は、立位でのエクササイズよりも、「おじぎエクササイズ」など、もっと基本的なエクササイズからはじめた方がよい場合もあります。

立位の注意点 NG例

2016-06-04 16:52:12 | 姿勢・動作


図21-2 ×1は「股関節を前につき出した姿勢」です。
「正常とは逆のシステム」を採用すると、この姿勢になりやすいです(「腸腰筋よりも大殿筋を先に鍛えよう」の項を参照)。

が、「正常とは逆のシステム」をとるつもりはなく、むしろ「正常なシステム」を採用したつもりでも、この姿勢になってしまう場合があります。
立位で大殿筋を収縮させると骨盤後傾しますが、同時に股関節が伸展します。
このとき、大殿筋を50%位収縮させることで「体幹と大腿骨が一直線になる」(図21-1 ○1)程度ならOKです。
ところが、大殿筋を強く収縮させると、股関節を伸展しすぎてしまう場合があります。
したがって、「股関節を前につき出した姿勢」となってしまうのです。

すると、バランスをとるために「上半身は後ろにくる」ことになりやすいです。
そうなると、腰椎前弯↑となり、しかも上半身の重みが腰椎後方に集中するため、腰椎の椎間板後方に亀裂が入り「椎間板ヘルニア」になったり、椎間関節が壊れ「腰椎すべり症」になったりします(注1)。

股関節は、いくら伸展しても、通常は「股関節前面にある靭帯」が伸びないために15度以内でとまるようにできています(注2)。
ですから、上半身を後ろに残したまま股関節を前につき出すと、「股関節伸展ロック」がかかる(=股関節の靭帯がそれ以上伸展しないよう制限するため、筋肉が収縮しなくても股伸展の姿勢でいられる)ため、大殿筋などを収縮させなくても股関節を伸展していることができます。
そのため、その後の大殿筋は収縮しなくなることが多いです。
よって、この姿勢がくせになっている人は「大殿筋が強い」というわけではなく、むしろ弱っていることが多いです。
つまり、人間の体には「大殿筋を強く収縮させるほど股関節を伸展しすぎるため、かえって大殿筋が収縮しなくなる」という罠があるのです。

「股関節伸展ロック」の状態で長時間体重をかけると、「股関節痛」や「変形性股関節症」となりやすいです。
股関節はまっすぐ(伸展0度位)の状態で体重をかければ大丈夫ですが、「股関節伸展ロック」の状態で長時間体重をかけると傷めやすいです。

また、バランスをとるために「膝を後ろに押し込む」ことも多いです(注3)。
膝関節は、いくら伸展しても、通常は「膝関節の靭帯」によって5度以内でとまるようにできています(注4)。
このとき、上半身もしくは股関節を前に出したまま膝を後ろに押し込むと、「膝関節伸展ロック」がかかる(=膝関節の靭帯がそれ以上伸展しないよう制限するため、筋肉が収縮しなくても膝伸展の姿勢でいられる)ため、大腿裏の筋などを収縮させなくても膝を伸展していることができます。
そのため、その後は大腿裏の筋や大腿四頭筋が収縮しなくなることもあります。

「膝関節伸展ロック」の状態で長時間体重をかけると、「膝靭帯ねんざ」や「膝痛」となりやすいです。
関節面はすり減って周辺に棘ができていることも多いので、そこに大腿裏の筋がこすれて傷む場合もあります。

胸椎後弯↑(猫背)や腰椎後弯(図26-1 ×1など)となっている人が、正面を向きよい姿勢をとろうとすると、図26-1 ×2・×3のように頚椎前弯↑・腰椎前弯↑となる場合もあるのですが、「股関節を前につき出した姿勢」となる場合もあります。
すると、図26-1 ×1のように「下を向いた姿勢」や図26-1×2のように「首だけ起こした姿勢」に比べると、一見堂々としてよい姿勢に見える場合があります。しかし、いくらよい姿勢に見えても、リスクは大きいです。

ですから、胸椎後弯↑(猫背)や腰椎後弯のせいで「下を向いた姿勢」になってしまったとしても、「股関節は前につき出さない」ことが大切です。
ただし、ただ股関節を曲げると、今度は「股関節はやや屈曲しているが、腰椎前弯↑とすることによって一見伸展して見える姿勢」(図21-2 ×2)と同じ姿勢になってしまいがちなので、「下腹をへこませおしりを下げ、しかも上半身が後ろにこないようにする」ことが重要です(注5)。

図21-2 ×2は「股関節はやや屈曲しているが、腰椎前弯↑とすることによって一見股関節が伸展して見える姿勢」です。
これも、バランスをとるために「上半身は後ろにくる」ことになりやすいです。
そのため、腰椎前弯↑となり、しかも上半身の重みが腰椎後方に集中するため、「椎間板ヘルニア」や「腰椎すべり症」になりやすいです。
また、バランスをとるために「膝を後ろに押し込む」ことも多いです。
すると、「膝靭帯ねんざ」や「膝痛」となりやすいです。

しかしながら、「腸腰筋が短縮しているためにこの姿勢になっている場合」は、やはり一朝一夕になおせる姿勢ではありません(注5)。
なぜなら、腸腰筋が短縮している人がまっすぐ立とうとすれば、どうしても「股関節はやや屈曲しているが、腰椎前弯↑とすることによって一見股関節が伸展して見える姿勢」になってしまうからです。
それに、腸腰筋が短縮している人が股関節を伸ばして立とうとすれば、どうしても股関節を無理に伸ばすため、腸腰筋が断裂し防衛反応↑となりかえって短縮したり、股関節を無理に伸ばすには大殿筋の力だけでは足りないため「大腿裏の筋を収縮させるくせ」がついたりします。

腸腰筋短縮のある人は、正面を向きよい姿勢をとろうとすればするほど、腰椎前弯↑となりやすいです(注6)。
すると、一見よい姿勢に見えることが多いですが、いくらよい姿勢に見えてもリスクは大きいです。
ですから、腸腰筋短縮のせいで「前かがみ」になり「下を向いた姿勢」になってしまっても、無理によい姿勢をとろうとしないことが大切です。
「下腹をへこませおしりを下げ、しかも上半身が後ろにこないようにする」ことが重要です。

ただし、現代人の「短背筋群+大殿筋」は弱っていることが多いので、「前かがみ」を長時間とると過労になりやすいです。
すると、短背筋群を脊柱起立筋群が手伝ってしまうため過労→短縮しやすいです。

ちなみに、「股関節を前につき出さないように」「腰椎前弯↑・頚椎前弯↑としないように」なおかつ「前かがみにならないように」というと、「股関節はやや屈曲しているが、足関節を底屈することによって正面を向いた姿勢」(図21-3 ×3)になってしまう人もいます(注7)。
これは、「前かがみ」の姿勢のまま「足関節を底屈することによって体全体を起こす」ことで、下を向かなくてすむようにした姿勢です。
この姿勢は「前かがみ」がなおったわけではないのですが、「下を向いた姿勢」ではないため、一見「前かがみ」がなおったように見えます(注9)。

しかし、この姿勢はバランスをとるのが難しく、足関節が底屈しすぎ重心が後ろに行きすぎると、後ろに倒れてしまいます。
そのため、体幹を前にもってくるために腸腰筋を収縮させてしまいやすいです。
すると、腸腰筋が過労→短縮しやすくなります(注8)。

ですから、腸腰筋が短縮している場合は、できれば立位をとらない方がよいです。
しかし、「どうしても立位での作業がある」という場合は、高めのいすに座り股関節を軽く曲げると、短縮した腸腰筋が緩みます(注10)。
図22-4 ○のように「片足を台にのせ片方の股関節を曲げる」だけでも有効です。
ただし、左右両方の腸腰筋が短縮している場合は、効果も片方だけになります。
図22-7 ○のように「台にクッションを取り付けそこによりかかる」方法もあります。

しかしいずれにしろ、「下腹をへこませおしりを下げ、しかも上半身が後ろにこないようにする」のでないと、無意味となってしまいます。
ただし、上半身を前にもってきすぎると、今度は短背筋群の負担が大きすぎるため、脊柱起立筋群などが手伝ってしまいやすくなります。


(注1)ただし、股関節過伸展したからといって、必ずしも腰椎前弯↑となるとは限りません。
股関節過伸展でも、腰椎後弯(図26-1 ×1の姿勢など)になっている場合もあります(「いろいろな脊椎カーブ」の項を参照)。
腰椎後弯であれば、重度の腰痛にはなりにくいですが、腰椎前弯しない分股関節が大きく伸展することになるため、股関節を傷めやすいです。

(注2)しかし、「股関節伸展ロック」を利用しすぎると、靭帯が断裂し伸びてしまうために15度以上伸展する場合があります。
その状態を「股関節過伸展」と呼ぶことが多いです。

(注3)ただし、「股関節伸展ロック」や「膝関節伸展ロック」は、どちらが先にはじまると決まっているわけではありませんし、必ず両方起こるというわけでもありません。

(注4)しかし、「膝関節伸展ロック」を利用しすぎると、靭帯が断裂し伸びてしまうために5度以上伸展する場合があります。
その状態を「反張膝」(膝関節過伸展)と呼ぶことが多いです。

(注5)「股関節はやや屈曲しているが、腰椎前弯↑とすることによって一見伸展して見える姿勢」(図21-2 ×2)は、「腸腰筋が短縮している」人がなりやすい姿勢です。
が、まだ腸腰筋が短縮していなくても「腸腰筋を収縮させるくせがある」ために、この姿勢になってしまう人もいます。
しかし、この姿勢をとるくせをなおさないでいると、腸腰筋が過労となるため、いずれは短縮します。
その場合は、「立位の注意点」を繰り返し練習すれば、改善する場合もあります。

(注6)このとき、胸椎後弯↑(猫背)で固まっている人ほど、胸椎を反らせない分腰椎を反らしてしまうため、腰椎前弯↑となりやすいです。

(注7)「正常とは逆のシステム」を採用すると、「股関節を前につき出す姿勢」(図21-2 ×1)ではなく、この姿勢になる場合もあります。
なぜなら「足関節を底屈することによって後ろに倒れそうになった体幹を、体の前面にある腸腰筋が収縮することで前に引く」ということをしているからです。
腸腰筋は、「股関節を前につき出す姿勢」のときのように「伸ばされながら収縮する」わけではありませんが、「後ろに倒れそうな体幹を前に引く」ために強く収縮しなくてはなりません。

(注8)「「股関節はやや屈曲しているが、足関節を底屈することによって正面を向いた姿勢」(図21-3 ×3)も、「腸腰筋が短縮している」人がなりやすい姿勢です。すでに「腸腰筋が短縮している」人がこの姿勢をとると、さらに腸腰筋の短縮が進行しやすくなります。
が、まだ腸腰筋が短縮していなくても「腸腰筋を収縮させるくせがある」ために、この姿勢になってしまう人もいます。
しかし、この姿勢をとるくせをなおさないでいると、腸腰筋が過労となるため、いずれは短縮します。

(注9)「前かがみがなおったわけではないが、一見前かがみがなおったように見える」姿勢をとるのは「腸腰筋が短縮している人」や「腸腰筋を収縮させるくせが強い人」の場合です。
しかし、この姿勢になると、「おしりを下げる」と同時に「おしりが後方につき出る」ので見分けることができます。

ところが、「腸腰筋の短縮がない人」や「腸腰筋を収縮させるくせがまだ弱い人」の場合は、腸腰筋をわずかに収縮させるだけなので、股関節があまり屈曲しません。よって、あまり「前かがみ」にはなりませんし、「おしりが後方につき出る」のも目立ちません。
ただ、「重心がやや後方にある立位」に見えます。
しかし、「重心がやや後方にある立位」であっても、収縮するのは大殿筋ではなく腸腰筋なので、いずれは腸腰筋が過労→短縮しやすくなります。

(注10)「それでは、立位で膝を軽く曲げ、高めのいすに座ったような姿勢をとればよいのでは?」と思った方もいるかもしれません。
しかし、それは「足関節を背屈することによって正面を向いた姿勢」(図21-3 ×3)の「膝を軽く曲げたバージョン」になります。
よって、「足関節を背屈することによって正面を向いた姿勢」と同様、体幹を前にもってくるために腸腰筋を収縮させなくてはならないです。
そして、さらに「膝を軽く曲げた」ことにより、大腿裏の筋や大腿四頭筋も強く収縮させなくてはならないです。

立位の注意点

2016-06-04 16:45:07 | 姿勢・動作

現代人は座位の時間が長いため、「大殿筋(股関節を伸展する筋肉)があまり働かず、伸びたままつぶれて弱っている」しかも「腸腰筋が短縮し、股関節が伸びにくくなっている」人が多いです。
しかし、「それでは、座位の時間を減らしなるべく立位でいればよいのか?」というと、そう単純な話ではありません。
なぜなら、「正常とは逆のシステム」がくせになっている人や腸腰筋が短縮している人が長時間立位をとると、腰痛や股関節痛など様々な問題が起こりやすいからです(「立位の注意点NG例」を参照)。
よって、立位をとるのであれば、「正常なシステム」を習慣づけることが大切です。
そのためには、下記1~7に気をつけるとよいです。

1 体をまっすぐにし、なおかつ地面と垂直に立つ
2 大殿筋を50%位収縮させ、おしり(仙骨下部)を下げる(つまり骨盤後傾すること)
3 股関節を前につき出さない
4 腹横筋下部を50%位収縮させ、下腹部をへこませながら内臓を持ち上げる
5 膝を後ろに押し込まない
6 短背筋群を50%位収縮させ、背すじを頭頂部の方向に引き上げるように伸ばす
7 あごを引く

しかし、これは思ったより簡単な話ではありません。
なぜなら、たとえば「股関節を前につき出した姿勢」がくせになっている人は、股関節や膝関節の「伸展ロック」(=靭帯がそれ以上伸展しないよう制限するため、筋肉が収縮しなくても立位でいられる)を利用するくせがついていることが多いからです。
「伸展ロック」を利用するくせがつくと、立つための筋肉が弱るため、「伸展ロック」がないと立てなくなってしまいます。
しかし、「伸展ロック」の力を利用しすぎると、靭帯が断裂しやすいです。

「伸展ロック」ではなく、腸腰筋や大腿裏の筋が「伸ばされながら収縮する」力を利用した場合も同様です。
「股関節を前につき出した姿勢」になると、腸腰筋や大腿裏の筋が「伸ばされながら収縮する」ことが多いです。
「伸ばされながら収縮する」と、a「筋肉の収縮によって発生した力」(=活動張力)にb「筋肉組織が伸ばされたとき元の形に戻ろうとする力(弾性)」(=静止張力)が加わります(「大殿筋エクササイズ2」注10を参照)。
よって、「伸ばされながら収縮する」ことで立つくせがついてしまうと、bの力がないと立てなくなってしまいます。
しかし、bの力を利用しすぎると、筋肉が断裂しやすいです。

特に、体重が重い人が「股関節を前につき出した姿勢」を長時間とると、「靭帯」であっても「伸ばされながら収縮する筋肉」であっても大きな力がかかるため、大変危険です。
ですから、その場合は「股関節を前につき出すことによって生じる危険性をよく理解すること」「股関節を前につき出さない(が大殿筋は50%位収縮させる)という強い意志を持つこと」が重要となります。

ただし、いきなり「立位の注意点」を練習しても、なかなか筋肉がつかない場合が多いので、仰向け→座位→立位と、段階的に負荷を増やしていくことがコツとなります(「腹横筋エクササイズ」の項を参照)。