goo blog サービス終了のお知らせ 

美しい姿勢・歩き方は腰痛・膝痛・肩こりを改善する

腰痛は体の使い方を少し間違えていただけ-昔のおじぎと現代人のおじぎの違いを解説します

動作の注意点-⑦掃きそうじ・モップがけ

2016-06-25 11:05:16 | 姿勢・動作
掃きそうじでは、短い柄のほうきを使用すると、立位で「前かがみ」になるので腰痛が悪化しやすいです(「動作の注意点-①洗面・歯みがき」)。
ですから、長い柄のほうきを使用することで、「前かがみ」にならないようにした方がよいです。
さらに、「正常なシステム」(おしりを下げ下腹をへこませる)を採用することも忘れないでください(「立位の注意点」の項を参照)。

なお、掃きそうじでは、どうしても広背筋(特に「縦」の筋線維)を収縮させるため、腰痛・肩痛が悪化しやすいです。
なぜなら、「ほうきの先端を押しつけ床についたゴミをこする」には「広背筋の縦の筋線維を収縮させ腕を下に引く」ことになるからです(注1)。
ですから、できれば「ほうきの先端は下に押しつけない」方がよいです。

また、掃く際は「ほうきを体に近づける」方がよいです。
柄を体から離すと「わきが開く」ことになります。つまり、三角筋を収縮させ「肩を屈曲・外転する」ことでほうきを持つことになるのです。
よって、「三角筋が収縮しすぎるくせ」がついたり三角筋が過労→短縮したりしやすくなります(「動作の注意点-⑥重いものを持つ」の項を参照)。
肩を屈曲すると広背筋が伸ばされるので、広背筋が短縮している場合は、断裂したり防衛反応↑→短縮↑となったりすることもあります。
ただし、柄を体に近づけても、先端を体から離すと、先端の操作がしにくくなり手首などを傷めやすいので、柄だけでなく先端も体に近づけます。

そして、掃く際は、「ほうきを体に対し平行に(左右に)動かす」こととした方がよいです。
ほうきでなく、モップや掃除機だと「ほうきを体に対し前後に動かす」(先端を体の前方に置いてから手前に引き寄せる)ことが多いですが、それだと「一度に広範囲を拭きたい」ために「先端を遠くの前方に置く」ので、肩を大きく屈曲したり「前かがみ」になったりしやすいです(注2)。
「先端を遠くの前方に置きすぎないよう気をつける」のであれば、前後に動かすのでもよいです。

しかし、「平行に動かす」場合でも、大きく動かせば、肩を大きく外転したり腰椎を左右に水平移動させたり腰をひねったりすることになります。
腰椎を水平移動させたり腰をひねったりすると、椎間板や椎間関節も水平移動させたりひねったりすることになるため、傷めやすいです。
それに、体をひねる場合などは、その分広背筋(特に縦の筋線維)も伸びなくてはならないわけですが、広背筋が収縮したり短縮していたりすると、伸びない分椎間板や椎間関節をつぶすことになります。「椎間板や椎間関節がつぶされた状態」でひねると、さらに危険です。
ですから、掃く際は、「腰(体幹)を動かさない」ことや「掃く幅を小さく(肩幅程度に)する」ことが大切です。

それでも「先端をなるべく大きく動かしたい」という場合は、「肩を支点として上腕骨を動かす」のではなく、「(上腕骨はあまり動かさず)肘を支点として前腕や柄を振り子のように動かす」ようにすれば、肩を大きく外転しなくても、先端を大きく動かすことができます(注3)。
そうすれば、振り子が一番下にきたところの床だけはこすることができます(ただし強くはこすらないでください)。

あと、掃く際は「勢いよく動かさない」方がよいです。勢いよく動かすと、手首や肩・腰などにかかる衝撃が強くなります。

ちなみに、深くしゃがんだり床に座ったりして拭きそうじなどをすると、「背中を丸めすぎる」ことになるため、腰を傷めやすいです。
「それならば、四つ這いになり拭きそうじをするなら大丈夫か?」というと、そういうわけではありません。
四つ這いは、手をついてはいるものの「前かがみ」です。
よって、「大殿筋+短背筋群」が弱っていると、その姿勢を支えるために「緩めたい筋肉」が手伝うので、腰椎前弯↑→腰痛↑となります。
「緩めたい筋肉」によって押し出された腰椎が、重力によって落下してしまうこともあります(図22-4 ×を参照)。
それに、四つ這いだと内臓が下垂するため、内臓を持ち上げるには、腹横筋下部がかなり強く収縮しなくてはなりません。


(注1)テーブルやシンク・ガス台をこする際も、手に持ったふきんなどを台に押しつけるため、広背筋(「縦」の筋線維)が収縮しやすいです。

(注2)「前かがみ」になってしまった場合は、先端を手前に引き寄せる際、骨盤を十分起こし「おじぎエクササイズ」と同様に起き上がります。

(注3)ただし、大きく動かしすぎると、先端が体から離れてしまうため、手首などに負担がかかります。

動作の注意点-⑥重いものを持つ

2016-06-22 10:46:30 | 姿勢・動作

重いものを持つときは、広背筋(緩めたい筋肉)が強く収縮します。
ですから、腰痛や肩痛のある人は、できれば重いものを持たない方がよいです。

広背筋が強く収縮すると上腕骨が下に引かれ抜けそうになるため、三角筋も強く収縮し上腕骨を上に引くことで肩甲骨に近づけようとします。
このとき「三角筋が収縮しすぎる」と、棘上筋が肩峰と上腕骨にはさまれ、つぶれたり切れたりします(「広背筋短縮と腱板断裂の関係」を参照)。
「重いものを持った瞬間に、棘上筋がはさまれ腱板断裂する」人が多いのはこのためです(注1)。

重いものを持つときは、「肩を伸展することで重いものを下腹に押しつける」のがコツです(注2)。
「肩を屈曲する=腕を上げる=手にもった荷物も上げる」「肩を伸展する=腕を下げる=手にもった荷物も下ろす」だと思っている人は多いです。
が、実は、「肩を伸展する」とは、腕が肩関節を中心に図22-6 ○の「黄色矢印の方向」に動くことなので、肩を屈曲するのでなく伸展するのであっても、荷物を落とさず持ち上げていることはできるのです。

「肩を屈曲する筋肉」(三角筋など)より「肩を伸展する筋肉」(広背筋など)の方が強いので、重いものを持つのに適しています(注3)。
それに、肩を伸展することで重いものを下腹に押しつけ固定すれば、広背筋がそれ以上は収縮する必要がないので楽です。
そうすれば、三角筋もそれ以上は収縮する必要がなくなるので、「三角筋が収縮しすぎる」くせもつきにくいです。

ただし、重いものを持つときは、広背筋の「横」の筋線維を収縮させることが大切です。
広背筋には、筋線維の流れ(伸び縮みする方向)が「縦」・「横」・「斜め」(縦と横の中間)とあります(図10-5を参照)。
「横」の筋線維は、収縮すると「肩を伸展する(もしくは内転する)」働きがありますが、「上腕骨を下に引く」働きはあまりないです。
そのため、「上腕骨を上に引く」ために三角筋が強く収縮する必要もあまりなくなります。
よって、「横」の筋線維を収縮させれば、「三角筋が収縮しすぎるくせ」がつきにくいといえます。

「縦」の筋線維は、「肩を伸展する」よりも「上腕骨を下に引く」働きや「胴体を縮める」(椎間板をつぶす・脊椎カーブ↑とする)働きが大きいです(図10-7を参照)。

ところが、重いものを持つのに慣れていない人や広背筋が弱い人が広背筋を収縮させると、「横」だけでなく「縦」の筋線維も強く収縮させてしまいがちです(注4)。
その場合は、まず「横の筋線維を収縮させる練習」をするとよいです。
そのためには、「両肩を前後に動かすエクササイズ」をするとよいです。

このエクササイズは、座位または立位で行います。
まず、両肩を前に出すことで、横の筋線維をストレッチします。そして、両肩を後ろに引くことで、横の筋線維を収縮させます。
両肩を前後に動かすときは、上半身を(背骨にそって)たてに二つ折りにするようなイメージで行うとよいです。
両肩を前に出すときは谷折り、両肩を後ろに引くときは山折りといった具合です(注5)。
「横の筋線維が伸びたり収縮したりする」のをよく意識しながら行うとよいです(注6)。

しかし、「横」の筋線維が収縮するようになっても、「横」の筋線維を収縮させれば「縦」の筋線維も少しは収縮してしまいます(注7)。
よって、少しは椎間板がつぶれたり、脊椎カーブ↑(腰椎前弯↑)になってしまいます。
ですから、椎間板がつぶれるのはどうしようもないですが、せめて「腹横筋下部を十分収縮させ、腰椎後弯を保つ」ことが大切となります(注8)。

ところで、荷物を持つとき「荷物がちょうど下腹の高さに置いてある場合」は、荷物を手に持ってから「肩を伸展することで重いものを下腹に押しつける」だけでよい(注9)のですが、問題は「荷物が床など低いところに置いてある場合」です。
その場合は、「股関節を曲げ前かがみになる」のではなく「膝関節を曲げしゃがむことで、下腹を荷物の高さに合わせる」方がよいです。
そして、荷物にできるだけ近づいてから荷物を手に持ち、広背筋の横の筋線維を収縮させ荷物を下腹に押しつけます。
それから、荷物を下腹に押しつけたまま立ち上がります。

立ち上がるときは、「頭の位置を低くせず、股関節・膝関節両方を同時に伸ばしてまっすぐ立ち上がる」方法がよいです。
つまり、「動作の注意点-④床から立ち上がる」の②の方法になります(注10)。

脚の筋肉が弱い人は「頭の位置を低くし、股関節を曲げたまま膝のみを伸ばしてから股関節を伸ばす」方法(①)を採用してしまいがちです。
が、「重いものを持った状態で、深い前かがみから起き上がる」のはとても大変です。
「重いものを持つことなどにより負荷がかかった状態で、前かがみから起き上がる」と、大殿筋+短背筋群の収縮では足りないため、脊柱起立筋群を収縮させることで体を起こしてしまいがちです(「おじぎエクササイズNG例」図15-1を参照)(注11)。

最初に「股関節を曲げ前かがみになる」のではなく「膝関節を曲げしゃがむことで、下腹を荷物の高さに合わせる」方を勧めたのは、「重いものを持った状態で、深い前かがみから起き上がる」ことになるのを避けるためです。
それなのに、立ち上がる途中で「深い前かがみ」になるのでは、最初に「深い前かがみ」を避けた意味がなくなってしまいます。


(注1)広背筋(特に「縦」の筋線維)が強く収縮したり短縮したりすると、広背筋に対抗するために「三角筋が収縮しすぎる」くせがつきやすくなります。

しかし、他にも「三角筋が収縮しすぎる」くせがつくケースはあります。
重いものを持つのに慣れていない人や広背筋が弱い人や「肩を屈曲する=腕を上げる=手に持った荷物も上げる」だと思っている人は、「肩を屈曲する」ことで重いものを持ち上げようとすることがあります。
しかしそれだと、肩を屈曲するのに大きな力が必要なため、棘上筋だけでは足りないので、三角筋が強く収縮することになります。
すると、「三角筋が収縮しすぎる」くせがつきやすくなります。

しかしながら、重いものを持っているときは「上腕骨を下に引く力」も多く発生しているので、三角筋はその力に負け「強く収縮しているのに伸ばされ断裂する」ことも多いです。
すると、三角筋より深層にある棘上筋(腱板)も伸ばされます。
よって、「重いものを持った瞬間に、棘上筋が伸ばされ腱板断裂する」こともあります。

しかし、これで終わりではありません。
人間の体は強く伸ばされると、防衛反応を強くすることで伸ばされまいとする傾向があるのです(「筋肉は強く伸ばさない方がよいのか」を参照)。
それに、筋肉は過労すると「筋けいれん」(筋肉が強く収縮し、制御不能になること)を起こすこともあります(「咀しゃくと腹筋の短縮」注1)。
「強く収縮しているのに伸ばされた三角筋」が防衛反応↑や筋けいれんになれば、棘上筋がはさまれ腱板断裂したり、肩が詰まるように痛んだりします。
よって、重いものを持った後日や就寝中など、重いものを持っていないときに腱板断裂が起こることもあるわけですが、本人は「原因が分からない」ということがあります。

なお、広背筋が防衛反応↑や筋けいれんになれば、棘上筋が伸ばされ腱板断裂したり、肩が抜けるように痛んだりします。

ちなみに、「姿勢保持のために広背筋が収縮するくせ」がついた場合でも、三角筋や広背筋が過労になるので、同様の現象が起こります。
この場合も、就寝中などに腱板断裂することもあるわけですが、やはり本人は「原因が分からない」ということが多いです。

(注2)荷物を下腹に押しつけるときは、図22-6 ○の「黄色矢印の方向」に押しつけることが大切です。
荷物を下腹に押しつける際、上半身を後ろにもってくることによって、荷物を下腹の上にのせるようにしてしまう人(図22-6 ×)がいますが、それだと腰椎前弯↑となり、荷物の重みが腰椎後方にかかるため、腰椎後方の椎間板がつぶれたり椎間関節がぶつかったりしやすくなります。
荷物を下腹に押しつける際、下腹を前につき出すことによって押しつけてしまう人もいますが、それも腰椎前弯↑となるのでNGです。

ただし、「荷物を下腹に押しつけられない場合」や「下腹に押しつけると肩伸展しすぎてしまう場合」などは、「肘が体幹のわきにきた状態」(肩伸展0度)で「わきをしめる」(肩関節を内転する)とよいです。
肩を内転することで肘を体幹に押しつけ固定すれば、広背筋がそれ以上は収縮する必要がないので楽です。
そうすれば、三角筋もそれ以上は収縮する必要がなくなるので、「三角筋が収縮しすぎる」くせもつきにくいです。

(注3)三角筋を収縮させ「肩を屈曲する」ことで重いものを持つと、「わきが開く」ことが多いです。
広背筋(横の筋線維)を収縮させ「肩を伸展する(もしくは肩を内転する)」ことで重いものを持つと、「わきをしめる」ことになります。
肩痛・腱板断裂を防ぐには、「わきをしめる」方がよいです。

(注4)短背筋群が弱っている人や「姿勢保持のために広背筋が収縮するくせ」のある人も、「縦」の筋線維を強く収縮させてしまいがちです。

(注5)肩だけ動かすと、広背筋の上腕骨付着部(細い部分)や大胸筋の上腕骨付着部が強くストレッチされてしまいます。
が、谷折り・山折りという具合にすると、広背筋・大胸筋どちらも背骨付近(太い部分)がストレッチされやすくなります。
山折りすると、猫背も矯正できます(軽度の猫背の場合)。
「血流の難所」が動くので、肩~手の血流もよくなります(「肩~手の血流をよくする方法」の項を参照)。

ただし、強く折り曲げると、筋が伸ばされすぎて断裂したり、筋が収縮しすぎて過労→短縮したりするので、軽く折り曲げてください。
なお、両肩を前に出すと同時に肩屈曲・両肩を後ろに引くと同時に肩伸展も行えば、ストレッチや筋収縮を強くできますが、それだと筋が伸ばされすぎて断裂したり、筋が収縮しすぎて過労→短縮したりするのでNGです。

(注6)ちなみに、ふだんから猫背(胸椎後弯↑)だったり、大胸筋の短縮などにより肩が前に出ていたりすると、横の筋線維が伸びたまま固まっているため、十分収縮できない場合があります。
その場合は、「セルフストレッチ-①胸椎を伸ばす」や「胸椎を伸ばす方法」などを行い、猫背を矯正するとよいです。

ちなみに、広背筋の横の筋線維に対抗する筋肉は、大胸筋です(図33-1を参照)。
よって、重いものの持ちすぎなどにより広背筋の横の筋線維が過労→短縮すると、大胸筋もそれに対抗し収縮するため過労→短縮します。
すると、猫背になりますし、肩の前方が詰まるように痛む場合もあります。
ですから、広背筋の横の筋線維も、過労→短縮しないよう少しずつ鍛えることが大切となります。

(注7)筋線維同士はつながっているので、一部が収縮すれば他も収縮しやすくなります。

(注8)腰椎後弯しすぎると、脊柱起立筋群が短縮している場合は断裂してしまいますし、すでに腰椎後方にヘルニアがある場合は亀裂が広がってしまうので、「腰を丸めすぎない程度に腰椎後弯する」のが望ましいです。
そこで、ふだんは「腹横筋下部を50%位収縮させる」ことで「腰を丸めすぎない程度に腰椎後弯(もしくは腰椎前弯↓)とする」よう勧めます。

ところが、重いものを持つことで広背筋を強く収縮させると、腰椎前弯↑になる力も強くなるので、腰椎後弯を保つには「腹横筋を十分収縮させる」必要があります。
ですから、重いものを持つと、しっかり腰椎後弯するかそれとも腰椎前弯↑かのどちらかになってしまいやすいのです。
通常は、腰椎後弯の方が腰椎前弯↑よりは腰痛になりにくいです。

なお、腹横筋下部が弱っていると、腹横筋下部を収縮させられず、腹斜筋や腹直筋のみを収縮させてしまう場合があります。
しかし、それだと腰椎後弯になるとは限らず、腰椎前弯↑になってしまう場合もあるのでNGです(「腹横筋下部はよい姿勢の要」図25-1)。

ちなみに、「重いものを持つときは、腹筋すべてを強く収縮させなくてはならない」と思っている人は多いです。
が、腹横筋下部が十分鍛えられていれば、腹斜筋や腹直筋まで強く収縮させる必要はありません。
腹斜筋や腹直筋が収縮すると胸郭が下がり呼吸が浅くなるので、主に腹横筋下部のみを収縮させることが望ましいです。

(注9)ただし、特に重いものを持って立つときは、「正常なシステム」を採用することが重要となります(「立位の注意点」の項を参照)。
大殿筋+短背筋群の弱い人が重いものを持つと、「股関節を前につき出した姿勢」(図21-2 ×1)や「「股関節はやや屈曲しているが、腰椎前弯↑とすることによって一見股関節が伸展して見える姿勢」(図21-2 ×2)になってしまいやすくなります。
それだと、上半身の重みに加え荷物の重みが腰椎後方にかかるため、腰椎後方の椎間板がつぶれたり椎間関節がぶつかったりしやすくなります。

また、「股関節はやや屈曲しているが、足関節を底屈することによって正面を向いた姿勢」(図21-3 ×3)になってしまう場合もあります。
この姿勢は、大殿筋+短背筋群が怠けてしまうこと以外には一見大きな問題はないようにも見えますが、バランスをとるのが難しく、足関節が底屈しすぎ重心が後ろに行きすぎると、後ろに倒れてしまいます。
このとき重いものを持っていると、重いものが加勢するため、勢いよく倒れてしまうので大変危険です。

そのため、後ろに倒れないよう、「腸腰筋を収縮させることで体幹を前にもってくる」ことになります。
しかし、重いものが加勢している場合、後ろに倒れないようにするには、腸腰筋が速く強く収縮しなくてはならないため、過労→短縮しやすくなります。

(注10)立ち上がるのがどうしても大変な場合は、「①と②の中間」(頭の位置を少し低くして立ち上がる)を採用してもよいです。
ただし、②を行うにしても「①と②の中間」を行うにしても、「動作の注意点-④床から立ち上がる」で説明した注意点(腰椎後弯を保つ・素早く立たない・大腿裏の筋や腸腰筋が短縮している場合は膝を完全に伸ばさない)は必ず守ってください。

(注11)「①と②の中間」を採用した場合、「重いものを持った状態で、前かがみから起き上がる」ことになります。
しかし、「重いものを持った状態で、前かがみから起き上がる」のは大変なため、脊柱起立筋群を収縮させ「腰椎を支点として上体を起こす」ようにしてしまいがちです(図22-6 ×)。
それだと、腰椎前弯↑となり、荷物の重みが腰椎後方にかかるため、腰椎後方の椎間板がつぶれたり椎間関節がぶつかったりしやすくなります。

ですから、「重いものを持った状態で、前かがみから起き上がる」場合は、大殿筋を収縮させ「股関節を支点として体全体を起こす(つまり、骨盤を十分起こす)」ことが大切です(図22-6 ○)。

特に、腸腰筋が短縮していたり大殿筋が弱っていたりして股関節が伸びにくいと、脊柱起立筋群を収縮させ「腰椎を支点として上体を起こす」方を採用してしまいがちです。
その場合は、膝を軽く曲げることで、骨盤を十分起こすようにしてください。

動作の注意点-⑤高い所・遠い所に手を伸ばす

2016-06-18 21:35:24 | 姿勢・動作

「高い所のものをとったり出窓を開閉したりするために、腕を高くもしくは遠くまで上げると、腰痛が悪化する」という人もいます。
「腕を高く上げると肩が痛くなる(注1)なら分かるけど、腰が痛くなるのはなぜ?」と疑問に思った方もいると思います。
それは、広背筋が骨盤~上腕骨をつないでいるからです。図22-1をご覧ください。

「鍛えたい筋肉」が弱ったり、「姿勢保持のために広背筋が収縮するくせ」がついたりすると、広背筋が過労→短縮することが多いです。
しかし、腕を高くもしくは遠くまで上げるには、広背筋が伸びなくてはなりません。
このとき、広背筋が短縮しているとa「広背筋が伸ばされ断裂する」b「広背筋が上腕骨を下に引く」c「広背筋が仙骨を引き上げる」のどれかになりやすいです(注1)。

aの場合、広背筋には太い部分と細い部分があり、細い部分が断裂することが多いので、細い部分(わきの下)が痛みやすいです(図34-1)。
bの場合は、肩痛となります(注2)。
cの場合は、仙骨前傾→腰椎前弯↑となったり、椎間板後方がつぶれたりするため、腰痛となります。
すると、手を伸ばすと同時におしりが上がったり、おしりが上がるのに伴い踵が上がるためつま先立ちになったりします(注3)。

このとき、大殿筋を50%位収縮させおしりを下げる(骨盤後傾する)ことは大切です。
が、広背筋に対抗するほど強く収縮させると、大殿筋が過労でA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となってしまう場合があります。
すると、大腿裏の筋が大殿筋を手伝うため、「大腿裏の筋を収縮させるくせ」がついたり、過労→短縮したりする場合もあります(「大殿筋エクササイズ2」を参照)。

ですから、広背筋が短縮しているときは、「自助具を使う」「踏み台にのり、体を(ものや出窓に)なるべく近づける」などすることで、腕を高くもしくは遠くまで上げない方がよいです。
広背筋を緩めるには、「鍛えたい筋肉」を鍛え「腕の力を抜く練習」を行うことで「姿勢保持のために広背筋が収縮するくせ」を改善します。
ただし、日常生活では重いものを持ったりもするので、広背筋はいつの間にか過労→短縮していることも多いです。
その場合は、深呼吸などを行い乳酸が分解されればまた緩みますが、それまではやはり腕を高くもしくは遠くまで上げない方がよいです。
ですから、日ごろから自助具や踏み台を使用することで、なるべく腕を高くもしくは遠くまで上げないよう習慣づけておいた方が無難です。

ちなみに、「毎日、腕を高くもしくは遠くまで上げていれば、腕が上がらなくなることはない」と思っている人は多いですが、そうとは限りません(注4)。
広背筋が緩めば「腕を上げる練習」をしていなくても上がりますし、広背筋が短縮すれば「腕を上げる練習」をしていても上がらなくなることが多いです(「広背筋短縮と腱板断裂の関係」の項を参照)。

bではなくa「広背筋が断裂」になれば、一時的には腕が上がりますが、広背筋に瘢痕ができたり防衛反応↑となるためさらに短縮します。
そうなれば、再び腕は上がらなくなります。
しかし、それでも肩を動かし強く伸ばしていると、瘢痕がとても増えるので、正常に伸び縮みできる部分が減ります(注5)。
すると、「伸縮しない布を少しゆるめてはりつけた」のと似たような状態になってきてしまう場合があります。
それは「強く収縮しているのだけれど、強く伸ばされ断裂した足底腱膜」の状態とも似ています(「足底腱膜炎の原因」の項を参照)。

すると当然、収縮機能も落ちているので、重いものを持つときうまく持てなかったり、肩が不安定になったりします(注6)。
「でも、広背筋が使えなくなれば、短背筋群を使わざるをえなくなるから、短背筋群を使うようにはなるだろう」とも思えます。
が、広背筋が使えなくなったからといって短背筋群が収縮するようになるとは限りませんし、広背筋以外にも、脊柱起立筋群・腹斜筋・腰方形筋など短背筋群の代わりに収縮しやすい筋肉(緩めたい筋肉)はあるので、広背筋が収縮できなくなればそれらが多く収縮するだけです。


(注1)abcのうち2つが同時に起こる場合もありますし、3つすべてが起こる場合もあります。

(注2)広背筋が短縮しているのに腕を上げると、棘上筋は伸ばされ弱っているため、棘上筋の代わりに三角筋が強く収縮することが多いです。
すると、棘上筋が肩峰と上腕骨にはさまれるため、「肩が詰まったように痛む」ことになります(「広背筋短縮と腱板断裂の関係」注8を参照)。
「肩峰と上腕骨にはさまれた棘上筋がこすれて切れる」場合もあります(=腱板断裂)。
肩関節が炎症を起こしている場合は、炎症が悪化する場合もあります。

(注3)背が高いと、手が高くもしくは遠くまで届きやすいです。そのため、正常であっても、つま先立ちになることはあります。
しかし、広背筋が短縮している人の場合は、「つま先立ちをした割には、手が高くもしくは遠くまで届くわけではない」状態になります。
それでも、手が届くようにするため、無理やり腕を上げてしまうことになりがちです。
すると、腰だけでなく肩も傷めることになります。

(注4)腕が上がらない原因が単なる「棘上筋の筋力低下」の場合は、腕を高く上げる練習をしていれば、上がるようになる場合もあります(※)。
しかし、棘上筋が弱っている原因が「短縮した広背筋に伸ばされたため」や「肩峰と上腕骨にはさまれて傷んでいるため」の場合は、腕を高く上げる練習を行うよりもまずは原因を改善することが大切です。

(※)ただし、いきなり強い負荷で行うと、棘上筋よりも三角筋が収縮してしまいやすくなります。
また、座位や立位で行うと、姿勢保持のために広背筋などが収縮し余計な抵抗が増えるため、三角筋が棘上筋を手伝いすぎてしまう場合もあります。
よって、まだ棘上筋が弱い場合は、「仰向けなど重力の影響が少ない姿勢で、介助者に介助してもらいながら腕を上げるようにし、力がついてきたら少しずつ介助を減らしてもらう」とか、「側臥位で上になった方の腕をすべりやすい板にのせ、その板の上をすべらせるように肩を屈伸する」など工夫するとよいです。

ちなみに、「関節が動きにくいのであれば、関節を動かさなくてはならない」と考える人も多いです。
そのように考える人は、炎症→癒着が起こるほど「関節を動かさなくてはならない」と考えます(炎症が治癒すると癒着する場合があります)。
しかしながら、「硬い関節」や「炎症で腫れた腱鞘や荒れた軟骨が引っかかる関節」を無理に動かすと、かえって炎症や軟骨破壊を悪化させてしまう場合があります(「広背筋と大胸筋の関係」注3を参照)。

肩関節の炎症などを改善し健康な状態に戻すためには、無理やり肩を動かすよりも、まずは肩周囲の血行をよくすることが大切です(「肩~手の血流をよくする方法」の項を参照)。

(注5)「腕を上げながら体幹を側屈しわき腹を伸ばす」などすると、さらに広背筋は強く伸ばされるため瘢痕は増えます。

(注6)肩伸展する筋肉は、広背筋以外にも大円筋などがありますが、広背筋よりもかなり小さい筋肉です。
よって、広背筋の代わりに収縮すればすぐ過労→短縮します。
そうなれば、広背筋が短縮したときと同様、「棘上筋が伸ばされて傷む」ことになったり「三角筋が強く収縮するため、棘上筋が肩峰と上腕骨にはさまれて傷む」ことになったりします。

動作の注意点-④床から立ち上がる

2016-06-18 21:21:55 | 姿勢・動作
深くしゃがんだり床に座ったりすると「深い前かがみ」と同様に背中を丸めすぎることになるため、腰を傷めやすいです。
が、やむをえずしゃがんだ場合は、特に立ち上がるときに気をつける必要があります。

床から立ち上がるときは、いすから立ち上がるときよりもさらに「足を後ろに引き、なるべく体に引きつける」必要があります。
なぜなら、床から立ち上がるときは深くしゃがんでいるため、「膝がじゃまになるので、いすから立ち上がるときよりも前かがみになりにくい」にもかかわらず、「膝伸展にかなりの力が必要となるので、膝伸展の力を効率よく伝えるために、足にしっかり体重をかける必要がある」からです。

そして、ここからは2つの方法があります。
1つ目は「頭の位置を低くし、股関節を曲げたまま膝のみを伸ばしてから股関節を伸ばす」(①)方法です。
膝のみを伸ばすと「深い前かがみ」(床に落ちたものを拾うときの姿勢)と同様の姿勢になります。
よって、そこからは「深い前かがみから起き上がるとき」と同じ要領で、骨盤を十分起こし「おじぎエクササイズ」と同様に起き上がります。

この方法の長所は「頭の位置を低くしたまま膝を伸ばすため、頭の重さがてこの原理のように働くので、膝伸展が楽にできる」ことです。
この方法の短所は「深い前かがみになると、深くしゃがんだ姿勢よりもさらに腰を丸めることになりやすい」ことです。
腰を丸めすぎると腰痛が悪化しやすいです(「動作の注意点-③床に落ちたものを拾う」の項を参照)。
また、「深い前かがみになり膝を完全に伸ばすと、立位体前屈と同様の姿勢になるため、大腿裏の筋が多く伸ばされる」ことです。
大腿裏の筋が短縮している場合、多く伸ばされると断裂しやすくなります。

2つ目は「頭の位置を低くせず、股関節・膝関節両方を同時に伸ばしてまっすぐ立ち上がる」(②)方法です。
この方法の長所は「①の方法に比べれば、さらに腰を丸めることにはなりにくい」ことです。
この方法の短所は「てこの原理が働かないので、膝伸展にかなりの力が必要となる」ことです。
「膝伸展の筋肉(大腿四頭筋や大腿裏の筋)も鍛えるべき」とも思えますが、鍛えすぎると過労→短縮したりしやすくなります。

特に、中枢の筋肉である大殿筋などがまだ十分ついていない場合は、大殿筋よりも末梢の筋肉である膝伸展の筋肉を多く鍛えると、血流不足のため短縮しやすくなります。
なぜなら、膝伸展の筋肉に届く血液はもっと中枢の大殿筋などを通ってくるので、大殿筋などが発達しているのでなければ、膝伸展の筋肉の血流もよくなりえないからです(「弾性ストッキングでむくみ予防」注7を参照)。

このようにそれぞれ一長一短あるので、「健康な場合は①・②どちらでもよいが、腰痛の場合は①・②どちらでもNG」といえます。
腰痛の場合は、「深い前かがみ」になれば腰痛が悪化するし、かといって腰痛だと大殿筋などが不足しているため「まっすぐ立ち上がると鍛えすぎになってしまう」ことが多いです。
ですから、その場合は「①と②の中間」(頭の位置を少し低くして立ち上がる)を採用すると無難です。

ちなみに、腕を前下方に垂らして立ち上がると、腕の重さがてこの原理のように働きます。
よって、まだ脚の筋肉が弱いときは、腕を前下方に垂らして立ち上がった方がよいです。
まだ脚の筋肉が弱いときは、低めの台や手すりに軽く手をついて立ち上がった方がよい場合もあります(注1)。

ただし、その際、勢いよく腕を振り下ろしたり、腕に力を入れたり、腕に体重をかけたりすると、広背筋が過労でA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となってしまう場合があります(「ノルディックウオーキング」の項を参照)(注2)。

なお、①・②どちらを行うにしても、腰を丸めすぎない程度に腰椎後弯としておくことが大切です。
また、素早く立つと、腸腰筋の伸びる暇がないため、勢いよく腰椎前弯↑となり腰椎後方に衝撃が走りやすくなるので、ゆっくり立つことも大切です(「動作の注意点-③いすからの立ち上がり」の項を参照)。

そして、大腿裏の筋が短縮している場合は、膝を完全に伸ばすと断裂してしまうので、膝を完全に伸ばさないことが大切です。
特に①を採用した場合は、立位体前屈と同様の姿勢(大腿裏の筋が多く伸ばされる姿勢)になるので、膝を完全に伸ばさないことが大切です。

また、腸腰筋が短縮している場合も、膝を完全に伸ばさないことが大切です。
なぜなら、腰椎前弯↑→腰痛とならないためには「骨盤を十分起こす」ことが重要ですが、腸腰筋が短縮していると股関節を完全に伸ばすのは難しいため、骨盤を起こすと同時に膝関節を屈曲せざるをえないからです(「動作の注意点-③いすから立ち上がる」注2を参照)。


(注1)ただし、低めの台ではなく床に手をつくと、①と同じになってしまいやすいです。

ちなみに、「床からの立ち上がり」に限らず「いすからの立ち上がり」の際も、腕を前下方に垂らして立ち上がると、腕の重さがてこの原理のように働きます。
しかし、「いすからの立ち上がり」は「床からの立ち上がり」ほど大きな力は要らないので、そこまでは必要ない場合が多いです。

なお、「いすからの立ち上がり」の際も、台や座面に手をつくことで「腕を伸展する力」(広背筋)を利用して立ち上がるくせのある人もいます。
しかし、「いすからの立ち上がり」は「床からの立ち上がり」ほど大きな力は要らないので、そこまでは必要ない場合が多いです。
「手をつくくせ」がつくと脚の筋肉が弱るので、手をつかないと立てなくなってしまうことがあります。
それに、「姿勢保持のために広背筋が収縮するくせ」もついてしまいやすくなります。

ですから、「いすからの立ち上がり」のときにまで「手をつくくせ」がついてしまった場合は、手をつかないように習慣づけた方がよいです。
無意識に手をついてしまう場合は、「立ち上がりをていねいに行う重要性」や「手をつくことによる弊害」を理解した上で意識するとよいです。
手をつかないと立ち上がりにくい場合は、手をついたとき腕に力を入れる量を少しずつ減らしていき、脚の筋肉を回復させるとよいです。
いきなり完全に手をつかないようにすると、脚の筋肉が過労→短縮してしまう場合があります。

(注2)広背筋が過労でA~Bとなった場合は、手をついたとき腕に力を入れる量を少しずつ減らしていき、脚の筋肉をつけた方がよいです。
ただし、手をついてもつかなくても、「広背筋が収縮するくせ」がついている場合は収縮してしまいます。
その場合は、「腕の力を抜く練習」などを行い、広背筋を収縮させないよう習慣づけていく必要があります。

ちなみに、「ふくらはぎの短縮により足関節が十分背屈できない」場合や「膝関節の変形などにより膝関節が十分曲がらない」場合は、腕に力を入れる量を少しずつ減らそうとしても、減らせない場合があります。
足関節や膝関節が十分曲がらないと、「足を後ろに引き、なるべく体に引きつける」部分がうまくできません。
すると、足にしっかり体重をかけることができないので、手をつかないで立ち上がるのが難しくなってしまうのです。
そこで、「前方にある手すりや動かない台」をつかんで引っぱり、体幹を前方に引き寄せることで、なんとか足に体重をかける人もいます。

このような状態では、たとえ脚の筋肉がついたとしても、足関節や膝関節が十分曲がるようにならない限り「手を使わなくても立てる」ようになるのは難しいです。
このような人は、足に体重をかけると、踵が浮いて「つま先立ち」になったり膝をついたりしてしまいます。
すると、ふくらはぎの力などがうまく伝わらないため、膝伸展が困難となるので、立ち上がりにくくなります。
しかし、それでも「つま先立ち」のまま頑張って立ち上がると、足底腱膜(足底の筋)が強く収縮するため、過労→短縮しやすくなります。
よって、足底腱膜が断裂したり、足底腱膜炎になったりしやすくなります(「足底腱膜炎の原因」の項を参照)。

このような人は、片膝立ちになってから立ち上がろうとする場合もあります。
左右どちらか片方だけでも足関節や膝関節が十分曲がる人であれば、片膝立ちになれば立てる場合もあります(ただし、かなりの筋力がある場合)。
しかし、左右両方とも十分曲がらない人は、片膝立ちになっても立ち上がるのは難しいです。
それに、左右両方とも十分曲がらない人は、手をついたり手すりをつかんで引っぱったりしないと、片膝立ちにもなれない場合もあります。

ですから、足関節や膝関節が曲がらないのに床から立ち上がらなくてはならないときは、広背筋の短縮による肩痛などがある場合は悩ましいところではありますが、やはり無理な姿勢から立ち上がると転倒などの危険もあるので、それよりは手すりなどを使用した方が安全です。

ふくらはぎが短縮しているのは、中枢の筋肉である大殿筋などが弱いためであることが多いです(「弾性ストッキングでむくみ予防」の項を参照)。
よって、ふくらはぎが短縮しているのに、床からの立ち上がりなど負荷の強い運動を行うと、ふくらはぎを含めた脚の筋肉全体が過労→短縮するため、足関節や膝関節はますます曲がらなくなります。
すると、「足を後ろに引き、なるべく体に引きつける」部分がもっとできなくなるので、さらに無理な姿勢から立ち上がることになります。
そのため、ふくらはぎを含めた脚全体の筋肉がさらに過労→短縮するため、足関節や膝関節はますます曲がらなくなる悪循環となります。

ですから、そのような状態の人は、床からの立ち上がりを練習したり腕に力を入れる量を少しずつ減らしたりするよりも、まず「ふくらはぎを緩め、足関節を十分背屈できるようにする」ことが必要です(ただし、膝関節が変形してしまった場合はエクササイズで改善するのは難しいです)。
ふくらはぎを緩めるには、大殿筋を鍛えることでふくらはぎが過労するくせを改善するとよいです(「弾性ストッキングでむくみ予防」の項を参照)。

ちなみに、ふくらはぎなどが短縮し、足関節や膝関節が曲がらなくなってくると、最初はしゃがむことができなくなります。
しかし、この段階では無理をすれば、床からの立ち上がりはできることが多いです。
ところが、無理をするとふくらはぎを含めた脚全体の筋肉が過労→短縮するため、足関節や膝関節はますます曲がらなるので、結局は「床からの立ち上がり」ができなくなるのです。
ですから、ふくらはぎの短縮などによりしゃがめなくなってきたら、なるべく早期に「大殿筋などを鍛えふくらはぎを緩めることで、足関節を十分背屈できるようにする」ことが望ましいです。

動作の注意点-③いすから立ち上がる

2016-06-11 11:27:57 | 姿勢・動作

「いすから立ち上がるとき、腰痛が悪化する」という人も多いです。「立ち上がり」も腰痛が悪化しやすい動作です。
なぜなら、人間の体は「前かがみになることで足に体重をかけないと立てない」ようになっているからです。
「前かがみ」になると、腰痛が悪化する場合があります(「動作の注意点-①洗面・歯みがき」の項を参照)(注1)。

それに、しばらく座っていることにより「大殿筋があまり働かず伸びたままつぶれて弱っている」しかも「股関節が曲がったまま腸腰筋が短縮し伸びにくくなっている」ところで、急に股関節を伸ばさなくてはならないからです。
すると、立ち上がり股関節を伸ばそうとしても腸腰筋が伸びないため、短縮した腸腰筋が腰椎を前下方に引くので、腰椎前弯↑となりやすいです。
ですから、立ち上がる際は「おしりを下げ下腹をへこませることで腰椎後弯を保つ」「それを股関節が完全に伸びるまで続ける」とよいです(注2)。

また、ゆっくり立ち上がることも大切です。
なぜなら、つぶれて弱っている大殿筋が収縮するには、時間がかかるからです。
それに、素早く立つと腸腰筋も伸びる暇がないため、短縮した腸腰筋が腰椎を前下方に引くので、「股関節はやや屈曲しているが、腰椎前弯↑とすることによって一見股関節が伸展して見える形」をつくってしまいやすいからです(図21-2 ×2を参照)。
素早く立つほど、勢いよく腰椎前弯↑となるため、腰椎後方の椎間板が激しくつぶれたり椎間関節が激しくぶつかったりします(注3)。
よって、椎間板後方の亀裂→椎間板ヘルニア、椎間関節の骨折→腰椎すべり症もひどくなります。
「いすから立ち上がるとき、腰に衝撃が走った」「ぎっくり腰になった」などという人が多いのはこのためです(注4)。
ゆっくり立ち上がれば、たとえ腸腰筋が十分に伸びなかったとしても、腰椎後方の椎間板や椎間関節へかかる衝撃は弱くなります。

「素早く立ち上がれる人は若くて健康」と思っている人は多いですが、筋力が低下すると「素早く立てない」とは限りません。
筋力があればゆっくり・素早くのどちらでも立てますが、弱るとどちらかしかできなくなってきます。
よって、「素早く立つことはできるが、ゆっくり立つことはできない」となる人もいるのです。
「素早く立つことしかできない」というのは「反動をつけなくては立てない」ということなので、これも筋力低下です。
「ゆっくり立つことしかできない」人より「素早く立つことしかできない」人の方が、衝撃がかかりやすいため、腰痛が重症化しやすいです。
したがって、ゆっくり立つ練習は重要です。

なお、「立ち上がり」に限らず、「床に落ちたものを拾う」「踏み台昇降」など、「股関節を曲げてから伸ばす動作」はすべて「おしりを下げ下腹をへこませる(大殿筋・腹横筋を50%位収縮させる)ことで腰椎後弯する」「それを股関節が完全に伸びるまで続ける」「ゆっくり行う」ことが重要です。動作の中で体を起こすときは、「おじぎエクササイズ」と同様に、下から上へ順番に起こした方がよいです。

「いすからの立ち上がり」などは1日に何回も行うので、そのたびに気をつければよいエクササイズになります。
ただし、負荷の強い運動なので、連続して長時間行うと筋肉が過労でA「乳酸・カルシウムがたまり、短縮・収縮したまま」~B「短縮がある程度進行したら、その後は収縮しないことで短縮の進行を防ぐ」となりやすいです。
「いすからの立ち上がりは日常的に行っているし、それほど強い運動ではないように感じるけど?」と思う人もいるかもしれませんが、筋肉が弱っている人や高齢者の場合は、数回連続して行っただけでやりすぎとなってしまうこともあります。

日常動作であっても、大殿筋など「鍛えたい筋肉」を十分収縮させると運動量↑となり、反動などを利用すれば運動量↓となります。
しかし、反動などを利用すると、その分腰椎後方や靭帯などに負担がかかってしまうことが多いです。
たとえば、立位の場合は、「正常なシステム」を採用すれば運動量↑となるため結構疲れるのに対し、「正常と逆のシステム」(つまり靭帯や伸ばされた筋肉の弾性)を利用すれば運動量↓となるため長時間楽に立てるので、違いが分かりやすいと思います(「立位の注意点」などを参照)。


(注1)「前かがみ」を減らすには、「立ち上がるとき足を後ろに引く」のがコツです。
「足を後ろに引く」と、足に体重をかけやすくなるので、「前かがみ」を減らしても立ち上がることができます。
なお、「前かがみ」になる際は、下腹をへこませ腰椎前弯↓とするよう気をつけてください。

(注2)ただし、「股関節が完全に伸びるまで続ける」=「股関節を伸展しすぎる」という意味ではありません。
股関節を伸展しすぎると、「股関節を前につき出した姿勢」(図21-2 ×1)となったり、「股関節過伸展で腰椎後弯」となり股関節を傷めたりしやすいです(「立位の注意点NG例」注1を参照)。
ですから、「股関節を伸展しすぎる」のではなく「体を一直線にする」(股関節をまっすぐにしたまま骨盤後傾する)ようにしてください。

しかしながら、腸腰筋が短縮している場合は、股関節を完全に伸ばすのは難しいです。
それでも股関節を伸ばす(つまり骨盤を十分起こす)と、股関節を伸ばすと同時に膝関節が屈曲します(つまり股関節は伸びない)。
しかし、ここで無理に膝関節を伸ばすと、「膝を後ろに押し込む」(つまり大腿裏の筋が強く収縮する)ことになります(「動作の注意点-①洗面・歯みがき」注7を参照)。
ですから、腸腰筋の短縮が改善するまでは「膝関節を完全に伸ばさず、軽く曲がっていてもよしとする」ことが大切です。
(ただし、ずっと曲がった状態では疲れるので、立ち上がった後立位で作業する場合は「高めのいすに座る」などしてください)
面倒に思うかもしれませんが、腰痛をなおすためには、こうした「日常動作への気配り」が重要になります。

膝関節ではなく「股関節を完全に伸ばさず、軽く曲がっていてもよしとする」方法もあるのですが、そうすると骨盤前傾となるので、「立位で前かがみ」となるか「股関節はやや屈曲しているが、腰椎前弯↑とすることによって一見股関節が伸展して見える姿勢」(図21-2 ×2)もしくは「股関節はやや屈曲しているが、足関節を底屈することによって正面を向いた姿勢」(図21-3 ×3)となりがちです。
それらは、いずれも腰痛になりやすい姿勢です。

(注3)素早く立つと、素早く体を起こすことになるため、「短背筋群でなく脊柱起立筋群が収縮するため腰椎前弯↑になる」というのもあります(図15-1 ×4を参照)。

また、素早く立つと大殿筋の収縮が間に合わないため、大腿裏の筋が多く収縮するので過労→短縮しやすくなります。
なお、立ち上がるとき「膝を後ろに押し込むくせ」がある場合も、大腿裏の筋が多く収縮するので過労→短縮しやすくなります。

(注4)衝撃が走っただけでも激痛なのですが、さらに痛くなるのは「衝撃が走り椎間板後方や椎間関節に亀裂が入った後、その亀裂が広がったり椎骨がずれたりするとき」なので、血行不良などで感覚が鈍っていると「立ち上がり」が腰痛悪化の原因とは気づかないこともあります。