一 閑 堂

ぽん太のきまぐれ帳

大津絵

2005年02月13日 | 江戸の夢
駒場東大前にある「日本民藝館」では、今、作者不詳の民画、中でも江戸の頃に土産絵として大量に流通した大津絵を特集している。

以前から一度行きたいと思っていた場所なのだが、たまたま立ち寄るとなぜか展示入れ替えの休館だったりして、これまで縁がなかった。満を持してはおおげさだが、ようやく館内にはいることができた。

まず、建物そのものがとても美しい。
栃木にあった柳宗悦の自宅民家を駒場に移築したのだという。どっしりした木の柱と漆喰の壁。磨き上げられた年代ものの木の床。さえざえと光をうつす大谷石のたたきや屋根。小さな庭のあちこちに草むす野花。石の道祖神。
思わずここで暮らしたくなってしまう。展示もゆったりとしていて、館内にいるだけで幸せな気持ちだ。

さて、特集展示だが、これほどたくさんの大津絵の現物を一堂に見たことは初めてで、ことのほか楽しかった。
民藝運動の先駆者柳宗悦が、世間的評価がなかった頃から集めに集めたものであるらしい。だからこそ、今となっては貴重なコレクションになったのである。
膨大に出回っていたにしても、江戸の庶民が気軽に買えるごくごく安価な土産物であり、信仰や実用のために家内で飾られたこともあって、今の時代に現存するもの、まして状態よく残っているものは多くないはずだからだ。
大量の絵を一挙に見ることで、あらためて大津絵の楽しさを実感した。
いずれものびやかで明るく、そしてどこか間が抜けている。量産品ならではのダイナミックさがある。江戸の人々が愛した思いが伝わってくるようだ。

コレクションの多くは丁寧に表装され軸物になっている。
私には、表具に使われた古布や和紙のとりあわせも面白かった。
格子地や絣地の紬、古い大島、江戸更紗、型染めの麻、友禅の端切、絞り地、荒く漉いた和紙など。
茶室や書院の床の間に飾られる有職紋や唐渡りの古布などとはまったく異なる選定に、柳氏の視点がうかがわれた。
時代がたっているからといって仰々しく恭しく床飾りにすれば、時としてあまりに野暮だろう。
けれど、たとえば塩辛と香の物程度のささやかな晩酌時、古くからの友人へのちょっとしたもてなし気分で下げる軸物というなら、この軸装の大津絵は大いに愉快である。
額装と軸装、日本にはいずれもあるけれど、あらためて軸装の楽しみを教えてもらったような気がする。

大津絵は歌舞伎舞踊にもある。
また、「吃又(どもまた)」として広く知られている『傾城反魂香』という狂言では、主人公吃又こと又平は大津絵を描く絵師。又平が絵の師匠の前で手水鉢を抜ける絵をモノする場面が見どころの一つとなっているが、舞台の小道具手水鉢の中に潜む黒衣が墨痕鮮やかに裏書きする、どことなく素朴で拙いあの絵こそ、大津絵なのである。
今の時代でも、たとえば和装の染め帯や男性の羽裏、長襦袢などに時折見かけたりもする。

素直に告白すると、私は「民藝運動」なるものにかなり懐疑的であった。
運動を支えた人間皆が皆、日本のインテリ層、富裕層であることが大きい。また、生活雑器や生活衣料をつくってきた産地、たとえば益子などの窯元が<用の美>で有名になり、匿名の職人が高名な作家になるという矛盾もある。柳先生ご用達がブランドになるというのは、それこそ本末転倒だと思っていた。
が、しかし、気持ちのいいものはいつの時代にもあり、柳セレクトはなかなかに豊かでもある。
江戸の土産物大津絵ひとつとってみても、量的コレクションがなければ伝わらないナニカがあるのだな~と、今回あらためて感じ入った次第である。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大津絵 (かねこ)
2005-04-27 09:42:01
こんにちは。

大津絵のコピー(コピーといっても印刷ではなく、当時の版木を元に復元したもの)を持っています。20年以上前新築祝いにと、数寄者の大叔父がくれたものです。鬼の念仏、藤娘、座頭と犬、雷と太鼓、大黒寿老の頭を剃る図、槍持奴、弁慶、瓢箪鯰です。漫画絵のようで、おもしろく、ときどき居間に飾ってきました。額装ですが、軸装の方がいいでしょうね。今は、掛け軸でも洋間にかけたりしています。

日本民藝館、3、4年前に行きましたが、たしかに建物自体が素敵でした。そこで、大津絵の特集がされていたのですか。たくさんならんでいたら、さぞかし楽しかったでしょうね。見られなくて残念!
ようこそ! (ぽん太)
2005-04-27 13:30:59
かねこさん、コメントありがとうございます。



素晴らしいコレクションをお持ちなのですね!

ほぼ大津絵のバリエーションすべてをお持ちだと思います。

素敵素敵! 数奇者の大叔父さまに感謝ですね~。



大津絵は、日常生活に合いますよね。

狭くごちゃごちゃした部屋にかけていても、負担にならず、楽しめる。

暢気で陽気な雰囲気が、私もとても好きです。

ほしいな~と思いますが、我が家に壁はナシ(笑)

本棚で埋まっておりまして・・・

トイレの壁くらいですが、ここには友人の版画をかけています。



日本民藝館は、展示の仕方が大変面白かったです。

やはり、展示空間って大事ですね。

あの民家だからこそ、よさが伝わることがあると思いました。

また出かけていきたい場所です。

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