ぽんしゅう座

優柔不断が理想の無主義主義。遊び相手は映画だけ

■ 空に住む (2020)

2020年11月06日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
タイトルの「空」とは空(から)っぽ、空疎のことのようだ。高層マンションの外観をはじめ“風景”は、ほとんど描かれず視線は常に人と人の関係に向けられる。その登場人物たちに魅力がない分けではないが何故か話が深まらないのは、やはり主人公が空っぽだからだろうか。

〔ご注意〕以下、ネタバレがあります

まるで空に住んでいるようだ、とつぶやく直実(多部未華子)は、両親から「雲」のような性格だと言われていたと知り自身は納得していないようだが、後に愛子(岸井ゆきの)からも直実さんは「雲」のように柔軟でどんどん広がっていくと評される。その愛子の出産は、直実の両親の死と対比するように紹介され、直実の愛猫の死と入れ替わるように成就する。自分は「嘘の世界に生きているから現実のような涙が流せる」という時戸(岩田剛典)は、現実を知っているから直実は嘘の涙を流せないのだと言い、直実は獣医から「動物は嘘がつけないから大きな環境の変化に適応できない」のだと猫の死因を聞かされる。その葬儀のさいに、両親の死には涙を流せなかった直実は、ペットの葬儀屋(永瀬正敏)の、人の人生はこの世ではずっと平行線だが星となった宇宙の果てでやっと交わる、という言葉を聞き涙を流す。

こんな意味ありげなエピソードや言葉が満載なのだが、なんだか上辺をなぞっただけで理屈っぽく説得力がない。きっと理屈(思い)が表現(演出)として消化しきれていないからだろう。生硬な観念が物語に溶け込まずゴツゴツと登場人物の間にころがっているような印象を受けた。

(11月3日/MOVIX橋本)

★★★

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