ぽんしゅう座

映画を観るくらいしか趣味のない男の、雑談です。

■ 迫り来る嵐 (2017)

2019年01月17日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
現実から目をそらし、あるいは気づかず迷路に堕ちた男の話だ。開放改革政策が始まり、香港が返還され、庶民の間にも大きな変化の気配が漂い始めた1997年に事件は起き、10年後、青天井に突き進む経済成長の象徴として北京オリンピックが開催された2008年に物語は閉じる。

名前を問われ「余分の“余”。国家の“国”。偉大の“偉”。余国偉(ユィ・グオウェイ)」と応えた男は、「香港で美容院を開きたい」という女(ジャン・イーイェン)の話を聞き「それはあまりにも大きな夢だ」と驚き、あなたの夢はと問い返され「俺の夢は小さいので実現したときに教える」と言いよどむ。

ユィという男(ドアン・イーホン)は犯人を捕らえたいという、あたかも正当な欲望の達成のために、全勢力を費やし猛進する。しかし、犯人探しという行為は、起きてしまった過去を清算し、平穏と満足を取り戻すといういわば後ろ向きのきわめて保守的な行為なのだ。男は、未来に目を向けることを拒み、新たなモノを受け入れるという「現実」から、それがあたかも生きるものの本能的であるかのように逃避したのだ。

この、いつの間にか“とり残されてしまった”という感覚は、あのポン・ジュノが弱冠35歳で撮った傑作『殺人の追憶』の寂寥感に似ている。韓国社会が80年代に体験した価値の混乱を、中国は10年遅れて90年代の終わりから2000年代に通過したということなのだろう。経済、文化、科学、軍事、民族、国土、国民性のどれをとっても掴みどころのないこのアジアの大国は、これからいったいどこへ向かうのだろうか。・・・そんなことを考えた。

本作のドン・ユエ監督は1976年生まれの42歳。昨年、観た『長江 愛の詩』のヤン・チャオ監督は1978年生まれの40歳だそうだ。改革開放政策が始まった1992年には、まだ10代だった世代だ。二人の作品には「変革」に対する戸惑いや厳しさよりも、どこか醒めたようなノスタルジックな気風を感じる。市場経済体制の波を自然に受け入れたポストジャ・ジャンクー(1970年生)世代とでもいうべき、新しいジェネレーションを成す作家たちなのかもしれない。

(1月16日/ヒューマントラスト有楽町)

★★★★
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■ アリー/スター誕生 (2018)

2019年01月14日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
怒りと悲しみが鬱積したような重低音が腹に響くジャクソンのライブシーンが印象的だ。一方、アリー(レディ・ガガ)は“ガガ的”虚飾をまとわされ始めると急激に魅力を失っていく。これが個性的にみせかけて実は形式的で薄っぺらな「ショウビズ」を皮肉るブラッドリー・クーパーの「実演証明」だとしたら大した企みだと思う。

(1月12日/TOHOシネマズ)

★★★
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■ 拾った女 (1953)

2019年01月13日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
徹底して裏で暗躍する警察。人間味ゼロの共産主義集団。その間で利用され翻弄される末端スパイ(リチャード・カイリー)、事情を知らない運び屋女(ジーン・ピーターズ)、気の好いタレ込み屋(セルマ・リッター)、そして、一介のスリ(リチャード・ウィドマーク)。

マッカーシズム礼賛のサスペンスロマンに見せ掛けながら、随所に仕込まれた「赤狩り」への痛烈な“皮肉”の方がむしろサスペンスでスリリング。こんなトリッキーできわどい綱渡り映画がこの時代に公開れていたことに驚く。

(1月10日/シネマヴェーラ渋谷)

★★★★★
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■ その女を殺せ (1952)

2019年01月13日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
60分以上、孤軍奮闘のウォルター刑事(チャールズ・マグロー)の列車内の密室サスペンスに圧倒され時間を忘れるのだが、結局は巻頭、刑事二人の「マフィアの女房」論議にしてやられる。女房(マリー・ウィンザー)と婦人(ジャクリーン・ホワイト)の類型こそ男の妄想。

(1月10日/シネマヴェーラ渋谷)

★★★★
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■ 2018年、好きな映画10本【日本映画編】

2019年01月09日 | ■今年の好きな映画 10本
●きみの鳥はうたえる・・・・・・・・(三宅唱)
●ここは退屈迎えに来て・・・・・・・(廣木隆一)
●生きてるだけで、愛。・・・・・・・(関根光才)
●志乃ちゃんは自分の名前が言えない・(湯浅弘章)
●銃・・・・・・・・・・・・・・・・(武正晴)
●日日是好日・・・・・・・・・・・・(大森立嗣)
●万引き家族・・・・・・・・・・・・(是枝裕和)
●パンク侍、斬られて候・・・・・・・(石井岳龍)
●来る・・・・・・・・・・・・・・・(中島哲也)
●ゾンからのメッセージ・・・・・・・(鈴木卓爾)

『きみの鳥はうたえる』から『銃』まで
世間や他者との関係性に四苦八苦する若者の映画がならびました。
どれも広義で言えば“個人”の揺れを描く青春映画。

なかでも、その只中の足掻きを眩く活写した『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』と
その終焉の必然をテクニカルに編んでみせた『ここは退屈迎えに来て』が印象に残りました。

逆に社会を巨視的に見た日本映画にはしばらく出会っていません。
チャレンジしたようにみえた『十年 Ten Years Japan』は不発に終わり、
作品を寄せた若手作家たちの視野の狭さと思慮の浅さに不安を感じました。

そんななかベテランによる『万引き家族』と『パンク侍、斬られて候』『来る』は、
それぞれの方法で、社会の“平穏”に揺さぶりをかけていました。
信じるよりも、疑うほうが賢明な時代が、まだ続きそうです。

『ゾンからのメッセージ』は『カメラを止めるな!』と対を成す
若い映画人たちの“手作りの労”へのエールとして選びました。

番外ですが『リバース・エッジ』『いとしのアイリーン』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』など
80年代末から90年代を回顧するクロニクル的な作品も印象に残りました。
平成の終わりに合わせた分けでもなさそうですが・・・・。

蛇足です。『寝ても覚めても』で話題になった濱口竜介監督ですが
過去作特集で観た『PASSION』の方が数倍面白かったです。
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■ 2018年、好きな映画10本【外国映画編】

2019年01月09日 | ■今年の好きな映画 10本
●祈り・・・・・・・・・・・・・・・・(テンギス・アブラゼ)
●スリー・ビルボード・・・・・・・・・(マーティン・マクドナー)
●フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法・(ショーン・ベイカー)
●テル・ミー・ライズ・・・・・・・・・(ピーター・ブルック)
●ハッピーエンド・・・・・・・・・・・(ミヒャエル・ハネケ)
●ロープ/戦場の生命線・・・・・・・・(フェルナンド・レオン・デ・アラノア)
●グレイテスト・ショーマン・・・・・・(マイケル・グレイシー)
●30年後の同窓会・・・・・・・・・・・(リチャード・リンクレイター)
●女と男の観覧車・・・・・・・・・・・(ウディ・アレン)
●正しい日 間違えた日・・・・・・・・(ホン・サンス)

アメリカ映画を5本も選んだのは数年ぶりです。

『スリー・ビルボード』『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』『30年後の同窓会』には
50年前のアメリカンニューシネマがはらんでいた同時代の壁に対する抗議と抵抗が滲んでいました。
救いは「破滅」ではなく「希望」が準備されていたこと。

ともに伝統的ハリウッドの構造を持ちながら“毒色”にまみれていた
『グレイテスト・ショーマン』と『女と男の観覧車』には危険で魅惑的な「仕掛け」が・・・・。
欧州映画『ロープ/戦場の生命線』の明るいシニカルさと好対照でした。

一方、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』や『ジュピターズ・ムーン』といった
欧州勢がはらんでいた意地悪さは「底意地」の悪さまで達せず迫力不足。

初公開の旧作『祈り』(67)と『テル・ミー・ライズ』(68)の
飛びぬけた挑発力の源泉は、やはり50年前の時勢のたまものなのでしょうか。
かろうじて、この挑発に「底意地」悪く対峙していたのは『ハッピーエンド』でした。

偶然でしょうか。
アメリカ映画も欧州映画も奇しくも「50年前」が現代の指標に・・・・。

4本観たホン・サンス監督の新作からは
男の私が一番素直にうなづけた『正しい日 間違えた日』を選びました。
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■ 罠 (1949)

2018年12月26日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
市井に溜まった欲と鬱憤が一気に吐き出される場末のエンタメ会場。その餌食となるプライドと負け癖感が充満したボクサーの控室。状況に見切りをつけた女が未練という磁場に揺れ彷徨う夜の街。勝敗の代償は、そんな鬱屈を晴らしたのだろうか。充実の小品、73分。

(12月24日/シネマヴェーラ渋谷)

★★★★
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■ 過去を逃れて (1947)

2018年12月26日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
サスペンスとしてはいざ知らず、男と女の機微を描くには、あまりに慌ただしい状況の変転に「たぶん、だいたい、なんとなく」こうなったんだろうなぁ、くらいにしか人物の心情が理解できずもどかしい。で、何でロバート・ミッチャムはあんなにモテたんだっけ?

(12月24日/シネマヴェーラ渋谷)

★★★
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■ 緑色の髪の少年 (1948)

2018年12月25日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
緑色の頭髪にどう対処すれば良いか大人は分からない。戦争孤児となった少年の「何故、僕が」という問いに誰も答えられないのと同じだ。最も言いたかったのは、途中、オフスクリーンで流れる「非戦のための戦争もいた仕方なし」という婦人たちの会話への「仕方ない」では済まされないという拒絶。

(12月22日/シネマヴェーラ渋谷)

★★★★
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■ 十字砲火 (1947)

2018年12月25日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
巻頭の影が蠢く凶行から現場検証で一気に引き込んだ後はむしろ単調な会話劇なのだが、殺人現場、水兵が集うホテルの相部屋、机ひとつの取調室、深夜のカウンターバー、孤独な酌婦のアパート、身を潜める映画館、共同洗面所と次々に現れる「部屋」が物語を推進する。

ポイントは、場所(シーン)が変わるたびに律儀に繰り返し描かれる「扉を開けて入る」という行為。そんな単純でさりげないアクションが、隠し味のように映画のリズムとして機能している。

移民や人種への差別という主題が、映画公開から70年たった今でも普遍だということこそが“人の罪”。

(12月22日/シネマヴェーラ渋谷)

★★★
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