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ヴェネツィア・フェニーチェ劇場オペラ公演/プッチーニ「トスカ」

2019年10月05日 | pocknのコンサート感想録2019
9月19日(土)ヴェネツィア・フェニーチェ劇場オペラ公演

プッチーニ/歌劇「トスカ」
 フェニーチェ劇場(ヴェネツィア)

 
【キャスト】
トスカ:キアラ・イソットン
カヴァラドッシ:アゼル・ザダ
スカルピア:セバスティアン・カタナ
アンジェロッティ:クリスティアン・サイッタ
堂守:マッテオ・フェッラーラ
スポレッタ:クリスティアーノ・オリヴィエーリ
シャルローネ:アルマンド・ガッバ
看守:ジャンパオロ・バルディン
牧童:ピッコリ・カントーリ・ヴェネツィアーニ団員

【演出・スタッフ】
演出:セレナ・シニガーリャ
舞台装置:マリア・スパッツィ
衣装:フェデリカ・ポニッスィ
照明:アレッサンドロ・ヴェラッツィ


【演奏】
指揮:マルコ・パラディン
管弦楽:フェニーチェ劇場管弦楽団
合唱:フェニーチェ劇場合唱団、ピッコリ・カントーリ・ヴェネツィアーニ(児童合唱)



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これまでに外国でオペラを観た経験はウィーン、ベルリン、ザルツブルク、フランクフルトとドイツ語圏ばかり。イタリアの劇場で観るイタリアオペラは雰囲気も全然違うだろうし、いつか観たいと思っていた夢が叶った。

ヴェネツィアのフェニーチェ劇場はモーツァルトが世を去った翌年の1792年に完成してロッシーニやヴェルディなどの名作オペラがいくつも初演され、名門オペラハウスとして名声を築いたが1836年に火災で焼失。翌年に再建されたが、1996年に再び火災で全焼してしまったニュースはよく覚えている。しかしフェニーチェ(フェニックス)の名の通り、2003年に再び火の中から蘇った。そんな劇場へ初めて出かけた。

焼失前の様式で忠実に復元されているそうで、ホワイエや階段から客席まで、宮殿のような華やかな装飾。入った途端にその豪華さに息を呑んだ。座ったのは最上階のロッジョーネ(天井桟敷)の安めの席だったが、中央の一列目なのでステージも良く見えて劇場を俯瞰できて、ヨーロッパの歴史と伝統が肌で感じられた。そして「トスカ」も劇場の雰囲気に相応しい素晴らしい上演だった。

最初の金管の咆哮に続くティンパニの一撃と共にステージの幕が一気に落ちて、いきなり緊迫感が高まる。アンジェロッティ、カヴァラドッシ、そしてトスカ。主要な人物が登場する度に物語にどんどん引き込まれ、気分も盛り上がってくる。ステージ上部にイタリア語と英語の字幕が投影されるのも有難い。劇場の響きはオペラにとって理想的。響きすぎず大きな空間を暖かく包み込む。声も楽器も最上階まで真っすぐによく届く。声同士、声とオケもキレイに調和している。

主要な人物を担う歌手たち、名前に覚えのある歌い手はいなかったが皆素晴らしかった。カヴァラドッシ役のザダの歌はストレートに心に届く。安定していて頼もしく、高音が美しい。弱音で聴かせる細い声の精度も素晴らしく、多彩な表現でトスカへの熱く切ない思いを伝えた。トスカを歌ったイソットンは体格に恵まれ、磨かれた芯のある美声で強さと気高さを感じさせた。それぞれの場面に相応しい深い表現力、演技力も聴きもので、スカルピア殺害の場面の緊迫感も胸に迫った。この2人のそれぞれのアリアも良かったし、第3幕のデュエットからは2人の間の強く深い愛が熱く伝わってきた。スカルピア役のカタナは憎らしいほどの強烈な非情さが迫ってきた。その一方で、トスカに言い寄るときの甘ったるい猫なで声は作り物というよりホンモノの温もりも感じられ、見事に仮面を被っていることを印象づけた。

オケもとても印象に残った。一糸乱れぬアンサンブルといった精度よりも、人間的な情感を大切にして語りや歌を伝えてくる。人情味があり、心をくすぐり自然に気持ちがオケに添って行く。プレイヤー一人一人の感情が伝わってきて、いかにも「劇場付きのオーケストラ」を感じさせた。

舞台転換は少なく装置も比較的シンプルだったが、その舞台演出からは大きなメッセージが伝わってきた。1幕終盤のテ・デウムの合唱の厚みと熱気ある迫力は荘重でトリハダが立った。合唱団員が手に手に本物の蝋燭を掲げ、厳粛な視覚的効果に加えてそれが燃える匂いが客席の最上階に届き、実際の教会のミサに参列している気分になった。2幕、スカルピアがタラリタラリと垂らす赤ワインが、傾けられたテーブルの白いテーブルクロスを染めて行くシーンは、拷問にかけられているカヴァラドッシの血と死を想わせ、スカルピアの残酷さとオペラの展開をクローズアップしていてゾッとした。幕切れの最後のシーン、トスカはかなりの高さから身を投げてハッとしたほどで臨場感を高めた。全幕を緊迫感が貫き、そこに愛と悲しみと憎悪が渦巻き、目も耳もステージから逸らせない充実した上演に、夫婦で夢中で拍手を送った。

オペラの上演の他に楽しみだったのは聴衆の反応だが、これは意外とお上品。カーテンコールでは沢山の歓声が女性の声でも飛んだが、各アリアの後などの反応は日本の方が大きいかも。もっと大騒ぎになると思った。その一方で、聴衆のお行儀はよろしくない。各幕の開始の後はしばらく全体がざわつき、ガタガタと物音もうるさい。大きな音で鼻をかむのはウィーンのフォルクスオーパー並み。おしゃべりも時々聴こえてくる。

隣に座っていた男性が休憩時間に話しかけてきた。フランスのトゥールーズから夫婦で来ていて日本にも来たことがあり、日本のことを絶賛。オペラの話題でも話が弾んだのは良かったのだが、最後のシーンが始まるときスマホを構えて動画を撮りはじめて超迷惑だった。素晴らしい上演の思い出は記憶に焼き付けるのが一番だ。と云いながらカーテンコールでは僕もワンショット…


♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「積もった雪」
MS:小泉詠子/Pf:田中梢
金子みすゞ作詞「私と小鳥と鈴と」
S:薗田真木子/Pf:梅田朋子
「子守歌」~チェロとピアノのための~
Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
合唱曲「野ばら」
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

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