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2012年12月B定期(デュトワ指揮)

2012年12月13日 | N響公演の感想(~2016)
12月13日(木)シャルル・デュトワ指揮 NHK交響楽団
《2012年12月Bプロ》 サントリーホール

【曲目】
1. 武満 徹/ノヴェンバー・ステップス(1967)
尺八:柿堺 香/琵琶:中村鶴城
2. シベリウス/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Op.47
Vn:ワディム・レーピン
3.ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」


年末のN響定期の指揮台に立ったのは今年もシャルル・デュトワ。「ノヴェンバー・ステップス」と「春祭」、それにレーピンのソロでシベリウスのコンチェルトという、全てが絶対聴き逃せない演目。そして演奏内容も大変充実した素晴らしいコンサートだった。

まずは武満。N響がデュトワの指揮で「ノヴェンバー・ステップス」をやってくれるなんて嬉しすぎる。久々に武満のこの名曲を生で聴いたが、初演から半世紀近くたった今でも色褪せるどころか益々厳しく、弛んだこの世に強烈なオーラを放ってきた。この曲の主役は尺八と琵琶。殊に主導権を握る尺八は言葉のない語り部で、それを琵琶が雄弁に盛り立てる。両者の呼吸のやり取りや「間」、そこから生まれる緊迫感、そして2つの和楽器を取り囲み、或いは対峙する自然の情景、といっても西洋音楽が描くような美しい情景描写や具象的な嵐などの描写とは全く異なる、心で感じる観念的な風とか光とか匂いを描写するオーケストラ、これら三者が見事な間合いとテンションを保ちつつ進んで行った。

柿堺香の尺八はとても柔軟で雄弁に語り、中村鶴城の琵琶はリアルで即興性に富み、深い軌跡を刻む。プレイヤー一人一人に高い技術が求められるオーケストラは、ソロ楽器と敏感に呼応し合い、鮮明なコントラストを生み出していた。アンサンブルの精度も素晴らしく、弦の射るような鋭い働きかけや、ミュートを付けた金管の淡い影の佇まいなど、武満トーンの魅力を余すところなく伝えた。武満のオーケストラ作品に、やっぱりN響は絶対に欠かせない。

大変素晴らしい演奏だったが、かつて横山勝也と鶴田錦史で何度となく聴いた、濃厚でアグレッシブな働きかけに比べると、今夜の演奏は中庸を行くようで、更に強烈なインパクトが欲しいと感じることはあった。この同じ組み合わせで来年N響はザルツブルク音楽祭に出演予定とのこと。この音楽祭に集まってくる保守的な人達をあっと言わせる演奏を期待したい。

続いてはレーピンのソロでシベリウス。レーピンは2009年のN響6月B定期でユリア・フィッシャーの代役でスペイン交響曲を聴いた時、たちどころに魅了されてしまったが、今回も熱くて濃厚なレーピン節を堪能した。レーピンのヴァイオリンはムンムンする男っ気があり、音楽の中身をグワッと放出するような能動的な演奏で聴き手の心を掴む。骨太で彫りが深いダイナミックなヴァイオリンに対し、デュトワ/N響も実に骨太な演奏を聴かせた。とにかく音がよく鳴るし、果敢に踏みかかってレーピンのヴァイオリンとがっちりと組み合う姿は頼もしかった。

最後はこれまた楽しみな「春の祭典」。デュトワ/N響の「春祭」は、語り草になっている昔の名演があるが、これを聴いていない僕にとっては初体験。聴く前は颯爽として洗練されたかっこいい「春祭」をイメージしていたが、実際に響いた音は土臭く、さっきのシベリウスで聴かせたのと共通する骨太な演奏だった。地の底から突き上げてくるようなパワーとパッションがこの作品の本来的な持ち味を存分に発揮し、ストレートに迫ってきた。

でも、ただの荒っぽくて土臭い演奏で終わらないのがデュトワ/N響だ。各楽器の音がどれもクリアに聴こえ、精巧に歯車が噛み合って、力を伝達しながら巨大な動きへとつなげている。そうしたダイナミックな力強さと、生々しいほどの切れ味のよさで、聴く者を興奮の渦中へと引き込んでいった。最後の一撃がドスンと腹に響き、大きな拍手が沸き起こったが、ブラボーは少なめ。もっとお客は熱くなってもいいと思った。充実したコンサート聴き納めとなった。

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