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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

上村文乃 チェロ・リサイタル

2022年03月11日 | pocknのコンサート感想録2022
3月5日(土)Vc:上村文乃/Pf:石井楓子
音楽堂anoano(大塚)

【曲目】
1.カステルヌオーヴォ=テデスコ/ロッシーニの歌劇「セビリヤの理髪師」の「私は町のなんでも屋」による演奏会用パラフレーズ
2.セルヴェ/スイスの想い出 Op.10
3.ブラームス/4つの小品 Op.119
4.ブラームス/チェロ・ソナタ 第2番 ヘ⻑調 Op.99
【アンコール】
♪ ラフマニノフ/ヴォカリーズ


僕が長年注目しているチェリスト、上村文乃さんの演奏を聴くのは、この1年で3回目となった。今日の2人のアーティストゆかりのスイスにちなんだ曲が中心のプログラム。演奏で印象に残ったのは、自然な息遣いから紡ぎ出される柔軟で伸びやかな歌。おおらかさと繊細さをあわせ持ち、熱くて濃厚な歌を聴かせてくれた。

最初に演奏した「セビリアの理髪師」のパラフレーズは遊び心と歌心がいっぱい。石井さんのピアノが見事な合いの手を演じ、漫才のやり取りのようで、ときにフェイントめいたこともかまして自由で伸び伸びと、軽快で楽しいデュオを繰り広げ、忙しく飛び回るフィガロの様子を生き生きと伝えた。

次はセルヴェの「スイスの想い出」。この曲は、雄大なスイスアルプスや湖のイメージとは異なる音楽だった。民衆の歌に溢れ、ドイツ語で云うとländlich(田舎風)な気分。上村さんはことさらコブシを効かせたりするわけではないのだが、ちょっぴりほろ酔い気分を味わわせてくれた。あったかくて素朴… 石井さんとのスイストークで、スイスのイメージは「田舎の肥やしの臭い」と云っていたが、そんなイメージが合っていた。

前半の最後は石井さんのソロで、僕が大好きなブラームス最晩年の小品集。ロ短調の間奏曲が、胸に温めていたものをそっと優しく差し出すように始まった。この温かさや親密さは4曲全体から共通して感じられた。音にはしっかりと芯があり、全体を深く大きく捉えた演奏だった。

後半はブラームスのチェロソナタ。ブラームスがスイスの避暑地、トゥーン湖畔で一気に書き上げたというこの明るい作品を、上村さんは山で呼び声を交わすように大胆でおおらかに、太くて逞しい貫禄も見せて歌い上げた。石井さんのピアノとがっちり組んで生き生きと対話を交わし、果敢に攻めてくるアプローチが頼もしい。語り口は濃厚で熱気と精気に溢れていながら、自然の解放感や余裕も感じられ、ブラームスの清々しい気分を伝えた。

アンコールのヴォカリーズも切々と訴えてきて胸に沁みた。上村さんのチェロからは、音楽と自然に対話している様子がうかがえ、聴くたびに表現が深くなっているのが感じられる。これからも目が離せないアーティストだ。

会場の音楽堂anoanoは20人も入るかというプライベートな空間。こんなところで大物アーティストのデュオを聴けるのは幸せだが、座席の間が全てパーテーションで仕切られていたのには驚いた。不織布の素材を使っているそうだが、これでは演奏者の視界は妨げられるし、お隣とのアイコンタクトも取れないし、カーテンで座席の周りを囲んだ夜行バスみたい。感染対策への向き合い方は個人差が大きく歓迎する人もいるのだろうが、もう2年以上続くコロナ騒ぎ、欧米では通常の生活を取り戻しているなか、このような対策をしなくてもいいと誰もが思える世の中が戻ってほしい。それと、演奏中に何度も会場内で「ピッピッピッ」という電子音が鳴った。リモコンの音?気になってしまった。

上村文乃 チェロ・リサイタル~2021.9.14 ハクジュホール~
トリオTripartie(Vn:米元響子/Vc:上村文乃/Pf:菊池洋子)~2021.4.30 浦安音楽ホール~
Vn:小川響子/Vc:上村文乃/Pf:秋元孝介 ~2017.1.29 尾上邸音楽室~
B→C 上村文乃 チェロリサイタル ~2015.12.15 東京オペラシティリサイタルホール~

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