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サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団+ヒラリー・ハーン

2010年05月30日 | pocknのコンサート感想録2010
5月30日(日)エサ=ペッカ・サロネン指揮 フィルハーモニア管弦楽団
東京芸術劇場

【曲目】
1.サロネン/ヘリックス
2.チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35
 【アンコール】バッハ/無伴奏ヴァイイオリンパルティータ第1番~「サラバンド」
Vn:ヒラリー・ハーン
3.シベリウス/交響曲第2番ニ長調Op.43
【アンコール】
1.シベリウス/組曲「ペレアスとメリザンド」~メリザンドの死
2.シベリウス/カレリア組曲~行進曲風に
3.シベリウス/悲しきワルツ

サロネン指揮の演奏会に行くのは1998年以来12年振り。瑞々しいサウンドで描かれた鮮烈でクリアーな演奏にしびれたのを覚えているが、その時のオケもフィルハーモニア管弦楽団だった。今回は大好きなヴァイオリニストのヒラリー・ハーンのソロも聴けるという楽しみもある。

1曲目の「へリックス」はサロネンの自作曲。低音のパーカッションによるオスティナート的なリズムのうえに、大地が熱くたぎるように鳴り響く音楽。サロネンのイメージとは合わない気がしたが、オケは鮮やかによく鳴り、強力な弦が印象に残った。

さて、次はお待ちかねヒラリー・ハーンの登場。曲目はシベリウスのコンチェルトだとばかり思っていたらチャイコのコンチェルトだった。濃厚で熱い吐息が特徴とも言えるこの曲を、真紅のドレスで登場したヒラリーは極上のシルクのような気高くしなやかな肌触りと美しい音色で綴る。淀みのない安定した弓運びもヒラリーならではの持ち味。松脂の粉を散らしながら烈しい熱演を聴かせるようなところを、ヒラリーは逆に吸い込まれるような弱音で聴く者の心を捉える。

第1楽章のカデンツァで響いたフラジオレットの高音の透徹した雅やかな美音も忘れ難いし、フィナーレで、冷静な表情をしながらぐいぐいとテンションを上げていく底力もすごい。最後のコーダ、エッジを利かせて切り込んでいくオケとの鮮やかな応酬も見事。こうした研ぎ澄まされたチャイコフスキーももちろんいいが、シベリウスだったら、そんなヒラリーの音やアプローチが更に別次元へと昇華した演奏を聴けたかも。アンコールのバッハはまさにそうした次元からの真理の光を全身で吸収した。これはもう何も言えない。

後半はシベリウスの2番。この曲はもう30年近く前に聴いた、オッコ・カム指揮ヘルシンキ・フィルによる忘れ難い名演、それに同じカムが日フィルを振ったときの演奏(これも名演)の2つがいつまでも記憶に残っている。どちらもフィンランドの民族色を強烈に感じた演奏だったが、カムと同じフィンランド人だが、サロネンが指揮すると、そうしたローカル色とは対極にあると言っていいほどのインターナショナルなシベリウスが現出する。

サロネンは大きな音の構造物である音楽にどのように取り組めば、それが持つ最も理想的な姿を提示できるか、ということを徹底して突き詰め、各パートを鳴らし、歌わせ、唱和させ、そして息を吹き込んで魂を入れ、壮大な響きの世界を築き上げる。すべての音の意味、その役割が明確に伝わり、強力な説得力を持って迫ってくる。圧巻はやはりフィナーレ。心の準備をしている以上のすごい音が次々と押し寄せ、眩いばかりの閃光となって飛び散り、打ちのめされてしまった。

シベリウスからこれほどまでにローカル色を取り払ってしまうと、ローカル色への郷愁も湧いてこないではないが、こうした演奏に接するとシベリウスの音楽がインターナショナルな存在でもあることにはっきりと目を開かされる。これはサロネンの研ぎ澄まされた感性と妥協のない作品との対峙、抜群のバトンテクニック、そして情熱があればこそ。

そして、フィルハーモニア管弦楽団の並々ならぬ実力も思い知った。強力で情熱的な弦、大伽藍を見上げるような金管群のパワーと安定感がとりわけすごい。アンコールで聴かせた弦の最弱音が持つテンションの高さと柔軟さにも感服。アンサンブル能力も抜群で、ベルリン・フィルとも競えるスーパーオーケストラ、という印象を持った。

ヒラリー・ハーン ヴァイオリンリサイタル 2009
ヒラリー・ハーン&ジョシュ・リッター コラボレーション 2009
ヒラリー・ハーン ヴァイオリンリサイタル 2006


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