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堀米ゆず子 無伴奏ヴァイオリン・リサイタル

2020年11月14日 | pocknのコンサート感想録2020
11月11日(水)堀米ゆず子 (Vn)
楽壇生活40周年 バッハとともに
サントリーホール

【曲目】
1.バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第1番 ト短調 BWV1001
2.   /無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第1番 ロ短調 BWV1002
3.   /無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第2番 イ短調 BWV1003
4.   /無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004

【アンコール】
♪ バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第3番 ハ長調 BWV1005~第3楽章 ラルゴ

堀米ゆず子がステージの立ち位置に向かって歩いているときは、既に心のなかでは演奏が始まっているのだろう。スタスタと登場して立ち止まるや、照明が演奏モードに落ちる前に弾き始める。そこから聴こえる音楽には、その足取り同様に何の迷いも力みもない。研ぎ澄まされた透徹とした音色で、あくまで自然体で自分の心の声をヴァイオリンに乗せ、バッハから感じ取ったスピリットを奏でる。そこに命が宿り、歩きだし、歌い、踊り、語りかけてくる。常にあるのは揺るぎのない安定感。

何がこの安定感をもたらすのか、会場で配られた堀米自身による大変興味深いプログラムノートから気づくことができた。堀米はいつもバスの声部を意識し、音符が書かれていなくても、それを心の耳で聞きながら演奏していると云う。僕も堀米の演奏にバスの声部を重ねてみた。すると、通奏低音のような安定したリズムとテンポが感じられた。堀米の演奏はこの揺るぎのないバスに支えられているのだ。

2つのソナタのフーガでは、もし複数の楽器で演奏すれば弾かれるはずの音が確かに存在することが感じられ、ソナタ第2番の第4楽章では、コンチェルトのようにいくつもの楽器がアンサンブルを奏で、それにソロが呼応する華やかな様子が感じられ、イマジネーションがどんどん広がっていった。堀米のヴァイオリンからは、記されていない音がたくさん聞こえてくる。

最後はパルテイータ第2番。プログラムノートの解説で、「これ(ジーグ)で本当は曲おしまい!じっくり音楽を味わった…はずなのだがあたかもこの4曲すべてがシャコンヌに行きつく前奏曲のようだ」と書いている。堀米は前半の4曲をそれぞれ軽めに、熱量も抑え気味に弾いた。それでも前半4曲は研ぎ澄まされた光を放ち、メインディッシュのシャコンヌの前奏曲としての理想的なウェイトで提示された。

そしてシャコンヌ。人生の歩みを感じた。普段は大活躍するヴァイオリンだけを耳で追っているが、今回はその底で繰り返されるシャコンヌの定旋律を意識してみた。すると演奏の底流には整然としたシャコンヌの定旋律が常に流れているのが感じられた。あわてず騒がず悠然と音楽と向き合っているのには、こうしたベースがあったんだと気づく。これもバス声部を意識する堀米の姿勢がもたらすものだ。大汗かいて格闘するイメージとは対極の、自分のこれまでの人生経験が等身大で語られ、それが大きなドラマを形作る。

最後の長いレの音がホールの天井に吸い込まれて消えると万雷の拍手。名匠の人生観が静かに滲み出た名演にトリハダが立った。堀米ゆず子は本当にすごいヴァイオリニストだと改めて感じ、こんな演奏を身近に聴ける幸せを噛み締めた。

堀米ゆず子 ヴァイオリン・リサイタル 2015.1.10 彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
[N響 2010年1月B定期] ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲(Vn:堀米ゆず子) 2010.1.20 サントリーホール
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