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武満 徹 弧[アーク]

2022年03月05日 | pocknのコンサート感想録2022
3月2日(水)カーチュン・ウォン指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル

【曲目】
1.武満 徹/地平線のドーリア(1966)
2.武満 徹/ア・ウェイ・ア・ローンⅡ(1981)
3.武満 徹/弦楽のためのレクイエム(1957)
4.武満 徹/弧(アーク)(1963-66/76) Pf:高橋アキ

武満徹が初代芸術監督に就きながら、開館まで命を繋ぐことができなかった東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアルで、命日から10日後に武満の大規模な作品「アーク[弧]」を取り上げるコンサートが行われた。客席は9割以上の入り。武満存命中でも大ホールにこれだけの集客は大変だったことを思うと、武満への人気が世代を超えていることを実感。

プログラム前半ではお馴染みの弦楽作品が演奏された。カーチュン・ウォン/東フィルの弦楽プレイヤーの演奏はとてもデリケート。静かで滑らかな呼吸から色彩の柔らかなグラデーションを生み、静謐で薄明りの射す武満の世界を実現した。「地平線のドーリア」で漂う浮遊感、「ア・ウェイ・アローンⅡ」から醸し出される香り、「弦楽のためのレクイエム」での沈黙と緊迫感、どれもが優れた演奏によって作品の持ち味を伝えた。

ただ、2つのグループがディスタンスを取って配置され、音響の遠近効果を狙った「地平線のドーリア」で、過去の経験を含めてその効果を実感できた試しがない。そもそも良いコンサートホールというのは、ステージ上で発せられる音ができるだけ均等に客席に届くように設計されるため、数メートル離す程度では効果は出づらく、バンダのような思い切った配置にしないとこの効果は認識しにくいと思う。

休憩の後は「アーク」。大規模な編成で、ステージにはピアノを中心にプレイヤーがぎっしり居並んだ。武満30代前半の意欲作で、世界的にも高く評価されながら編成等の問題で演奏機会は稀という。武満立ち合いのもとでこの作品を演奏した経験も豊富な高橋アキと、ウォン指揮の東フィルは、厳しさを湛えた鮮烈な演奏でこの作品の実像を鮮やかに伝えてくれた。作品を聴いて感じたのは、音たちが結晶となってそれぞれが、水、風、光、香りなど、自然界の要素を形成し、それらが一つの摂理を生み、そこに身をゆだねているスピリチュアルな気分。この作品には回遊式庭園を逍遥しているイメージがあるというが、閉じられた庭園という空間に宇宙のような大きな世界を感じた。

これは、演奏の素晴らしさに拠るところも大きい。武満作品は精巧で調和のとれた演奏があって初めてその真価を発揮する。高橋アキのピアノは、知的な煌めきのなかに親密さを感じ、武満の心を代弁しているよう。前半で素晴らしい演奏を聴かせた弦楽合奏に菅・打楽器が加わった大編成のオーケストラも透徹とした演奏で、かつ世界を大きく包み込むような安心感を与えてくれた。金管群のクリアでパワフルな輝きは、宇宙に輝く恒星のような存在感を放っていた。

この作品では図形楽譜が用いられたり、各プレイヤーに即興演奏が求められたりして、演奏の度に異なる音やリズムが現れる。その意味で、一回一回の演奏が初演とも言える。そう思うと、かつて度々武満徹の作品の初演の場に居合わせたワクワクした気分が蘇ってきた。この作品のために作成された図形楽譜の行方がわからなくなって、今までは他の曲(ピアニストのためのコロナ)の図形楽譜が代用されていたところ、最近見つかったオリジナルの図形楽譜を用いて演奏されたという点で、今夜の「アーク」は本当に初演と云えるかも。

厳しさを孕んだ作品の最後は、静かな低音の協和音で閉じられた。「ファミリートゥリー」に通じるロマンチックなエンディング。武満のなかには、ずっとこうしたロマンティシズムが仕舞われていたんだと実感した。

オケが退場したあとも、満員の客席からの鳴りやまない拍手に呼び戻されたウォンさんとアキさんの隣に、ちょっとはにかんだ笑みを浮かべた徹さんもいるような気がした。

作曲家の横顔 武満 徹 東京シンフォニエッタ 2020.12.3 東京文化会館小ホール

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