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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

小林道夫チェンバロ演奏会

2020年12月23日 | pocknのコンサート感想録2020
12月20日(日)小林道夫(Cem) 
東京文化会館小ホール

【曲目】
♪ バッハ/ゴルトベルク変奏曲 BWV988
【アンコール】
♪ バッハ/「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」 BWV 699


僕にとって小林道夫と云えば、藝大バッハカンタータクラブの30年にも及ぶ指揮者&指導者として、それからニコレやフィッシャー=ディースカウなど、世界の名だたるソリストの名伴奏者としての活躍が思い浮かぶ。年末のゴルトベルク変奏曲による演奏会をライフワークとして続けていることは前から知っていたが、いつもクリスマス・イブにやっていたため興味を持ちながらもスルーしていたのだが、最近はクリスマス・イブ以外の日に行われるようになってきたところに、奥さんが「聴いてみたい」というので、夫婦で初めてこの伝説の演奏会を訪れた。会場はほぼ満席状態。コロナ禍でこれだけ入れば普段は完売に違いない。それだけ恒例の演奏会として根付き、リピーターを獲得しているということだろう。

久々に目にした小林道夫氏はしっかりした足取りでステージに登場し、長大なヴァリエーションを、途中1回の休憩を挟み、全てのリピートを入れた形で全曲演奏した。テンポ設定、装飾音、アゴーギクなどどれもが自然で、これらをバッハが指示した2弾鍵盤の使い分けにうまくリンクさせて、落ち着き、華やぎ、悲しみ、力強さなど、それぞれの楽曲に固有の性格を多彩に表現していった。リピートでの変化なども含め、作品を多面的に描いて行く。

そして、しっかりとしたバスの足取りが演奏全体に安定感を与え、短調でのラメント進行(半音下降進行)などの動きがくっきりと聴き手に伝わってくるのも印象深い。カノンでの声部のやり取りも印象的に聴こえてくることが多かったが、タッチで音量の変化を出せないチェンバロでこのように特定の声部が耳に届いてくるのは、小林の匠の技によるものに違いあるまい。

50年近くもゴルトベルク変奏曲を毎年演奏会で弾き続けてきた経験から来るのだろう、演奏には揺るぎない存在感があり、そこから深みや味わいが沁み出て来るのを感じずにはいられなかった。ゴルトベルク変奏曲の長い旅を終えて、再び冒頭のアリアが帰ってきたとき、深い感慨で心が包み込まれるのを感じた。

演奏を聴きながら、アンドラーシュ・シフの著作「静寂から音楽が生まれる」(岡田安樹浩訳; 春秋社)に記された1曲ごとの短い楽曲描写を読んでいたのだが、それぞれの楽曲の性格がよくわかり、鑑賞の大きな助けとなった。例えば第15変奏の記述の一部「(前略)スラーで結ばれた16分音符がため息のように響きます。深い哀しみの、嘆きの音楽です。最後の極端に広い音程に注意してください。(中略)これは、天国と地上の間の無慈悲な虚空を表わしていると言われています。」

小林氏はこの演奏会で50回を目指しているそうだが、それもあともう少しで実現する。50回目の演奏会を元気で迎え、更に回数を重ねていくことを願って止まない。

(小林道夫を聴いた過去の演奏会)
バッハ/チェンバロ協奏曲第4番(東京藝大バッハカンタータクラブ定期演奏会)2008.3.24 紀尾井ホール
バッハ/ブランデンブルク協奏曲第5番(東京藝大バッハカンタータクラブ定期演奏会)2007.2.17 藝大奏楽堂
シラーの詩によるドイツ・リート(Bar:河野克典)2005.10.15 藝大奏楽堂
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