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庄司紗矢香&ヴィキングル・オラフソン デュオ・リサイタル

2020年12月25日 | pocknのコンサート感想録2020
12月23日(水)庄司紗矢香(Vn)/ヴィキングル・オラフソン(Pf)
サントリーホール

【曲目】
1.バッハ/ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ短調 BWV1018
2.バルトーク/ヴァイオリン・ソナタ第1番 Sz. 75
3.プロコフィエフ/5つのメロディ Op. 35bis
4.ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第2イ長調 Op. 100
【アンコール】
1.バルトーク/ルーマニア民族舞曲
2.パラディス/シチリアーノ


2週間の隔離を経て開催された日本ツアーの千秋楽

庄司紗矢香のヴァイオリンはいつ聴いてもスゴいと思うけれど、オラフソンとの今夜のデュオは言葉にならないほど凄かった。庄司は徹底的に研ぎ澄まされたヴァイオリンを聴かせ、オラフソンは柔和で温かな音色が持ち味。持っているものはお互いに異なるのだが、見ている方向は一緒で、2人の持ち味が合わさるとものすごい化学反応が起きて圧倒的なパワーを発する。「化学反応」という表現はありふれてしまったので僕は使わないことにしているのだが、この演奏を表現するにはこれしかない。

最初はバッハ。庄司のヴァイオリンは鋭利な刃物のように深く、そして静かに切り込んでくる。厳しく透徹とした孤高の美しさが映える。オラフソンのピアノは敬虔な静寂感を湛え、ヴァイオリンに香の煙のように柔らかく絡みつく。第3楽章の庄司のヴァイオリンからはむせび泣く声が聴こえ、オラフソンのピアノがそれを温かく包み込む。静かなドラマが繰り広げられたバッハだった。

そしてバルトーク。プログラムの冒頭に庄司は「今回のリサイタルはまずここ何年か取り組んで来たバルトークの、1番のソナタを弾きたいという長年の想いから成り立つものです。」と記し、この作品への意気込みを伝えていた。まさにそんな思いが炸裂する演奏となった。

冒頭から庄司とオラフソンの鬼気迫るバトル。しかし向こう見ずに闘志をむき出すのではなく、徹底的に全ての音にこだわる冷静さを失うことはない。庄司の鋭いヴァイオリンは心の深いところに突き刺さり、終楽章の白熱ぶりは言葉では表せないほど。これでもかと留まるところを知らずピアノと完全一体となって攻めてくる。「中国の不思議な役人」にも通じる独特の熱気と緊張感を孕み、聴き手を放心状態にさせるような魔力で迫ってきた。庄司はあくまで冷静な役者に徹し、聴衆の様子を伺ってさえいるよう。超圧巻の演奏で前半を終えた。

後半はプロコフィエフの小品集から始まった。「幻想的・叙情的な音楽」と解説で紹介された作品なので、ここで一息入れてブラームスに繋げるかと思いきや、愛すべき小品でも庄司はいささかも手を緩めることなく、最高純度の結晶を作り出し、美しい世界を描いて行った。

そしてブラームス。バルトークとはまた違う意味でこちらも極めつけの名演。「溢れる詩情」とか「熱い思いがほとばしる」とかいった、普通なら誉め言葉になるような表現を遥かに越えたところにある真理を極め尽くしたブラームス!知と情のバランスが凛と保たれ、進むべき道を迷うことなく進んで行く。孤高の姿にも思える庄司のヴァイオリンに、オラフソンのピアノが柔らかく暖かな上着をそっと羽織らせる。終楽章でも慌てず騒がず、悟りの境地と云えるようなところへ連れて行かれ、最後のフォルテと書かれたコーダも心静かに旅を終えるイメージ。何とも言えない感動に全身トリハダが立った。正真正銘の最高の芸術作品に出合った気分!

アンコールも素晴らしかった。ルーマニア民族舞曲ではヴァイオリンのあらゆる魅力を披露、第3舞曲のハーモニックスは、木管楽器のようなふくよかな美音による安定した歌に聴きホレた。そして最後はパラディスのシチリアーノ。これをやってくれないかなと期待していたこともあって、始まったら涙腺が緩んでしまった。こういう曲でもただのキレイな演奏を超えた、静謐で気高い歌に心が浄化されるようだった。

時間を忘れて聴き入った2時間半。最後のカーテンコールではスタンディングで2人のアーティストを讃えた。ありがとう、紗矢香さん、ヴィキングルさん!

庄司紗矢香&ジャンルカ・カシオーリ デュオ・リサイタル (2015.5.24 彩の国さいたま芸術劇場)
庄司紗矢香&メナヘム・プレスラー デュオ・リサイタル (2014.4.10 サントリーホール)

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