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東京藝術大学 バッハカンタータクラブ定期演奏会 2008

2008年03月24日 | pocknのコンサート感想録2008
3月24日(月)東京芸術大学 バッハカンタータクラブ
紀尾井ホール

【曲目】
1.バッハ/カンタータ第30番「喜べ、贖われし群れよ」BWV30
2.バッハ/チェンバロ協奏曲第4番イ長調 BWV1055 Cem:小林道夫
3.バッハ/カンタータ第215番「汝の幸をたたえよ、恵まれしザクセン」BWV215
【アンコール】
バッハ/カンタータ「楽しきヴィーデラウ」BWV30a~第1曲
【演 奏】
S:谷垣千紗 (1,3)、松井亜希(3)/A:谷地畝晶子 (1) /T:鏡貴之(1,3)/B:新見準平(1,3)、井口達(1,3)
渡辺祐介指揮(1,3) 東京藝術大学バッハカンタータクラブ

先週金曜日のBCJのマタイに続き今度はおなじみ芸大バッハカンタータクラブの定期演奏会。今回は紀尾井ホールでの開催。アマチュアによる演奏会であってもチケットもぎからクローク、カフェコーナーまでホールのスタッフがいつものように配置され、ホールとしての格式を保つのは紀尾井ホールのポリシーなのかも知れない。バッハカンタータクラブはそうしたホールに相応しい素敵な演奏会を届けてくれた。

カンタータ第30番の第1曲で合唱が”Freue dich!”(喜べ)と呼びかける冒頭からもうカンタータクラブの世界に引き込まれる。最近のバッハ演奏ではなかなかお目にかかれない50人という大所帯の合唱団員が微笑みながら歌いかけ、本当に喜びに溢れた気分で満たされる。この表情を見たくて、この響きに浸りたくて、この気分を味わいたくてカンタータクラブを聴きに来るのだが、その期待をいつでも満たしてくれるのがこのクラブだ。

合唱を聴くことが何よりの楽しみだが、オーケストラもソロももちろん素晴らしい。今回は祝祭的な選曲だったこともあり、オーケストラは明るくリズミカルな実に活き活きとした息遣いを伝えてくれた。この公演で引退するという渡辺さんの指揮は益々気合いが入り、その指揮に導かれたオーケストラは伸び伸びと楽し気にスウィングしていた。明るく瑞々しい音色もいい。

登場した6人のソリスト達もみんな安定していて、何よりもひたむきに歌に取り組む姿勢は素晴らしい。中でも印象に残ったのは215番に登場した松井亜希さん。艶のあるピュアで瑞々しい美声、早いパッセージでも細かいニュアンスを自然につけた、大変表情豊かなレチタティーヴォとアリアは絶品。いつまでも聴いていたい気分。30番でソロを受け持ったアルトの谷地畝晶子さんの貫禄のある歌唱も良かった。深くて温かな表現力が頼もしい。発音も深くて奥行きを感じて良いのだが、言葉の頭の子音をもう少しはっきりと出すとドイツ語がより明瞭に聞こえる。

井口達さんのバスは、太い美声でこの日の曲にとても合ったドラマティックな表現で聴かせてくれた。谷垣千紗さんの濃い表情、:新見準平さんのまっすぐな歌、鏡貴之さんの端正な歌、それぞれにいいものがある。

去年の定期演奏会に引き続き今回も小林道夫先生(あえてこう呼ばせてください)をチェンバロソロに迎えたコンチェルトも素敵だった。第1楽章では弦楽アンサンブルが少々大人しすぎるのではとも思ったが、第3楽章の実に流麗で優雅なカンタービレを耳にしたら、全体をソフトタッチで貫き、微笑を浮かべてキラキラと輝く美しいバッハの世界に引き込まれていたことに気がついた。

この演奏会ではステージに上がっていないメンバーもたくさんいたと思うが、これほどの大所帯のバッハの演奏団体というのはそれだけで貴重な存在だ。近年はバッハは古楽畑という住み分けが定着してはいるが、こんな素晴らしい人類の遺産であるバッハの音楽は、古楽科の学生に限らず音楽を志す学生達全てが積極的に接するべきで、勉強する機会と同時にこうした発表の機会が大切だと思う。

クラブのメンバーの中にはすでにBCJで加わっている人や、近い将来加わる人が何人もいるはずだが、そういう人達とモダンの人達が学生時代の限られた期間、一緒にバッハの音楽に真摯に向き合うというのは害になるどころか、非常にプラスになると思う。「カンタータクラブに入ると演奏スタイルがおかしくなる」というチラリと巷で聞こえてくる声には賛同しない。モダンもピリオドも歓迎され、一緒にひとつの音楽を作り上げて行くことのできるこの芸大バッハカンタータクラブの価値は益々高まっていると思う。

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