facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩⅢ/ラヴェル:「子どもと魔法」

2015年03月24日 | pocknのコンサート感想録2015
3月24日(火)小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩⅢ
東京文化会館


◎ ベートーヴェン/交響曲第2番ニ長調Op.36
【演奏】ナタリー・シュトゥッツマン指揮 小澤征爾音楽塾オーケストラ
♪ ♪ ♪
 
◎ ラヴェル/歌劇「子どもと魔法」

【配役】
子ども:エミリー・フォンズ/肘掛椅子、木:エヴァン・ボイヤー/母親、中国茶碗、とんぼ:鈴木望/火、お姫様、うぐいす:キーラ・ダフィー/雌猫、りす:清水多恵子/
大時計、雄猫:町 英和/小さな老人、雨蛙、ティーポット:ジャン=ポール・フーシェクール/安楽椅子、こうもり:栗林瑛利子/羊飼いの娘、ふくろう:盛田麻央
【演出】デイヴィッド・ニース
【装置・衣装】サラ・G・コンリー 【衣装】ジェームス・アチェソン【照明】高沢立生

【演奏】
小澤征爾指揮 小澤征爾音楽塾オーケストラ/小澤征爾音楽塾合唱団


小澤征爾の指揮に前回接したのは、小澤がウィーン国立歌劇場の音楽監督を務めていた当時の2009年のウィーン。この時の「エフゲニ・オネーギン」は今でも忘れ得ぬ素晴らしい公演だった。それから小澤はウィーンを去り、度々体調を崩してキャンセルが多くなり、以前はよく聴いていたこの音楽塾のオペラ公演も出演しなくなり、小澤を聴くチャンスを失っていたが、こうして再び小澤征爾の指揮による公演を聴けるというのはとても感慨深い。

その小澤が指揮台に上がった後半の公演は久々の小澤体験だったが、「これぞ小澤征爾!」と言える冴えに冴えた公演だった。全身に生き生きしたエネルギーがみなぎり、小さな枝の先端まで細やかな神経が行き渡り、全ての関節が有機的につながって、全体が美しく活力に満ちた舞いを舞う。小澤ならではの若々しい勢いは全く衰えていなかった。

登場人物(?)が目まぐるしく入れ替わり、それぞれの間ではあまり脈絡のない出来事が繰り広げられるなか、登場人物それぞれの個性を際立たせつつ、ファンタジーというテーマで統一して一つの物語として聴かせる音楽を書いたラヴェルの作曲の手腕に目を見張るとともに、トッッティも少なく、長い聴かせどころなどもない音楽から、それぞれの場面の魅力を最大限に引き出し、生き生きと聴かせた小澤征爾/音楽塾オケの演奏は本当に素晴らしかった。音の明確な方向性、瑞々しい色彩感、機転の利いた瞬発力、柔軟でファンタジックな芳香… 場面に相応しい表情で聴かせてくる。管楽器のソロも表情豊かに歌って語りかけてきた。

もちろんこの公演はオペラの舞台上演なので、歌手たちや演出の存在も欠かせない。歌手では、主人公の子ども以外は一人で何役もこなすにしても短い出番ばかりのため、じっくり歌を聴くというわけにはいかないが、みんな役の特徴を捉えた歌と演技で十分に楽しませてくれた。なかでも最も印象に残ったのは、「火」と「お姫様」と「うぐいす」の3役をこなしたキーラ・ダフィー。巧みな歌いまわしと、ふくよかで妖しさのある魅惑の美声で、主人公の子どもと聴衆の心を掴んだ。唯一人、常にステージに登場していた子ども役のエミリー・フォンズは、苛立ちや怯え、好奇心、甘えといった少年の心を素直にうまく表現していたし、半ズボンでの子どもらしい演技も良かった。

歌手たちのそれぞれの出番は短いが、そのぶん最初の印象が大切になるわけで、どんな風に入るかといったタイミングも難しいと思うが、歌手とオケのコミュニケーションが鮮やかに決まっていたのは、やはり小澤の空気を読むセンスがものを言っていたからではないだろうか。

ファンタジー溢れた舞台も見ものだった。母親が巨大な腕でなまけ者の息子を咎める大掛かりな仕掛けから、学芸会で使うような動物や虫の小道具までいろんなものを駆使しながら、ファンタジックな物語の世界を夢いっぱいに表現する。カラフルな色彩の衣装や装置、照明や、コミカルで統制の取れた動きも夢の世界を広げてくれて楽しかった。

ともすれば楽しいだけのドタバタ劇で終わってしまう危険もあるかも知れないオペラだが、この公演からはそれだけではないほんわかしたものや熱いものが伝わり、幕切れの子どもの「ママ」という一言がとても温かく胸に沁みた。

前半には、稀有の太い声で、濃厚で熱い歌を聴かせるアルト歌手のシュトゥッツマンが、圧倒的な歌のイメージをどんな風に指揮で伝えてくれるかに興味があったが、これは正直「仕上げ前」という状態。後半でオケが見違えるほどの素晴らしい音を出したのはむしろ驚きだった。

拡散希望記事!STOP!エスカレーターの片側空け

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 野柳 ~奇岩の海岸~ & 金山 ... | トップ | 台北町歩き ~國立故宮博物... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
pocknさん、こんばんは。 (Pilgrim)
2015-04-04 18:25:01
 大絶賛ですね、ちょっと羨ましいです。小澤の演奏って結構当たり外れありますからねぇ…。
返信する
オペラの夜さま (pockn)
2015-04-05 14:02:41
こんにちは。別の日の公演に行かれたのですね。
なかなか厳しい感想、読ませていただきました。
こちらの公演とそれほど差があったとは思えないのですが、
元気な小澤さんに会えたのが嬉しくて贔屓目になってしまったかも知れませんね。
次はまた大物にも取り組んで欲しいと思います。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2015」カテゴリの最新記事