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名ホール「上野学園石橋メモリアルホール」の運命

2022年04月27日 | pocknと音楽を語ろう!
4月27日(水)

上野学園石橋メモリアルホールは、立派なパイプオルガンを備えた素晴らしい音響を持つ音楽ホールだった。学生時代に所属していた合唱部では、毎年このホールを借りて定期演奏会を行った思い出深いホールでもある。その後2010年に建て替えられ、新築されたホールは、旧ホールと同じ設計者(現代建築研究所、永田音響設計等)が手掛け、内装も響きも旧ホールの良さが継承された。オルガンも旧ホールから移設され、上野学園の学生達の貴重な発表の場として、また、一般の演奏会場として利用されてきた。

そのホールを、上野学園が財政難を理由にブシロードに譲渡、「飛行船シアター」と改称してリニューアルオープンするというニュースが2021年に発表された。オルガンも撤去されて全く別物の会場になってしまうことを案じた人たちが、「ホールを救おう!」運動を展開したが、そうした運動は奏功することなくホールは改装された。

今年の「東京・春・音楽祭」のコンサートを聴くために、新装された「旧石橋メモリアルホール」へ出かけた。外観やエントランスは今までと同じだった。だが、一歩ホール内に足を踏み入れると、ステージの周囲は天井まで仮設ボードのようなもので覆われているのが目に飛び込んで来た。ステージ上部には大規模な照明装置が備えられていた。もちろんオルガンはない。


音響の良いホールの必須条件の一つは、ステージと客席の上の天井に高さの差がなく、連続した天井がひとつの空間を作っていることだが、これでは昔の公会堂とか、学校の体育館のステージのように、ステージ部分が箱のように引っ込んでしまって、もはやホール全体に行き渡る良い響きは望みようがない。

それは実際に演奏会で証明された。ホールの大きさ自体は小規模なので、生音はちゃんと客席まで届いて来るが、聴こえてくるのは楽器や声の直接音ばかり。石橋メモリアルホールの持ち味だった、直接音と、それが壁に当たって反響してくる音とが合わさって出来る豊かで潤いのある響きは失われてしまった。

ステージの周囲を覆ったボードをスクリーンとしてプロジェクションマッピングを投影し、新設された照明装置を駆使してスペクタクル系のイベントを行うにはいいのだろう。演劇がメインであれば、ホールの残響はむしろ少ないほうがいい。要するに飛行船シアターは、石橋メモリアルホールが目指した音響的なコンセプトとは別のコンセプトを持った空間に変わったということだ。「旧上野学園石橋メモリアルホール」なんて旧称を併記することは、返って誤解を生むことになる。飛行船シアターはクラシックの生音のコンサートには向かないし、もうここでクラシック音楽の演奏会はやらない方がいいと思った。

気の毒なのは、メモリアルホールで演奏することを楽しみにしていた上野学園の学生たち。心配なのは、貴重な文化財でもある撤去されたオルガンの行く末だ。

ここと同じような運命を辿った東京の音楽ホールとして、カザルスホールがある。ホールの所有者の財政難によって、芸術文化の宝である良いホールがなくなってしまう残念な例が、また一つ加わってしまった。

東京・春・音楽祭 ~2022.4.17 飛行船シアター
東京・春・音楽祭 ~2012.4.4 石橋メモリアルホール
カザルスホールが消える!
消えた?カザルスホール

初代石橋メモリアルホールでの演奏をYouTubeで

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拡散希望記事!やめよう!エスカレーターの片側空け
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2 コメント

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Unknown (安田龍也)
2024-06-15 20:12:29
私も英国スタイルの金管バンドで活動していた頃、初めて演奏したのがこのホールでした。もう無くなってしまったなんて、今日検索するまで知りませんでした。残念です。
仕事場だった入谷からも近かったのに。
今までありがとうございました。
返信する
安田龍也さまへ (pockn)
2024-06-15 22:45:05
コメントをありがとうございます。
石橋メモリアルホールなら金管バンドも豊かな響きを得られたことでしょう。飛行船シアターになってからその後はクラシックの演奏会で使われることはないようですね。ブログに書いたカザルスホールは再開の話も聞いています。こちらには期待したいところです。
返信する

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