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仲道郁代 ロマンティックなピアノ 2021

2021年03月07日 |  pocknのコンサート感想録2021
3月5日(金)仲道郁代(Pf&お話し)
~ショパンの儚くも美しい人生を辿って~
紀尾井ホール

【曲目】
♪幻想即興曲嬰ハ短調
♪ポロネーズ第11番ト短調
♪ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11~第2楽章
♪エチュードハ短調Op.10-12「革命」
♪エチュード ホ長調Op.10-3「別れの曲」
♪ノクターン嬰ハ短調(遺作)(レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ) 
♪バラード第1番ト短調
♪ ♪ ♪
♪ スケルツォ第2番変ロ短調Op.31
♪前奏曲 変ニ長調 Op.28-15「雨だれ」
♪ノクターン変ホ長調Op.9-2
♪子犬のワルツ変ニ長調Op.64-1
♪ワルツ嬰ハ短調Op.64-2
♪英雄ポロネーズ変イ長調Op.53

<アンコール>
♪別れのワルツ

昨年1月以来に聴く仲道さんのリサイタル。リサイタルでのトークを大切にする仲道さんは、マスクなしで話をするため、前日にPCR検査を受けたとのこと。リサイタルへの意気込みと聴衆への配慮は素晴らしいが、一人だけのリサイタルでここまで求められるのは、演奏者にとって大変な負担でもあろう。

「ショパンの儚くも美しい人生を辿って」と題されたリサイタルに並んだのは、アンコールピースとしても人気の超名曲揃い。ショパンの名曲オンパレードのようにも映ったが、仲道さんはショパンの「影」の部分に焦点を当て、内容の濃い興味深い話と共に作曲家の核心に迫り、リサイタル全体から明確なショパン像を浮かび上がらせた。

MCで仲道さんが伝えたのは、ショパンという作曲家が、失われた祖国ポーランドへの思いを生涯引きずり、死への憧れにも似た感情を抱きつつ、人生を悲観的に、後ろ向きに生きたことが、音楽に稀有の「美しさ」を生み出したということ。演奏からは、そうしたショパンの心の痛みや疼きといったものが、直情的ではなく、奥底にあるものとして伝わってきた。

それは最初の幻想即興曲からヒシヒシと伝わってきた。流れるようなラインは、優美でロマンチックというより、悲しみを湛えて静かに流れる涙を想起させる。強調して聴かせるピアニストも多いベースラインを、音量やアクセントで目立たせるのではなく、常につきまとう「影」として聴かせる。そして中間部の何と静謐で神聖な世界。ちょっとでも傷つけたら消えてしまうような刹那的で儚く、悲しいほどの美しさ!

この曲に限らず仲道さんは、ショパンに抱きがちな「美しくて華やかで、ちょっぴり切ない」というイメージを問い直し、テーマの「儚い美しさ」を伝えていった。ワルシャワが陥落したことへのやり場のない苦しみを吐露した「革命」のあと、アタッカのように続けた「別れの曲」は、どんなに追っても遠ざかって行ってしまう幻のように聴こえたし、颯爽とした華やかなイメージのスケルツォ第2番も、もっとウェットで粘質で、何かに捕らわれたようなドロドロとした深刻な感情を訴えてきた。

「雨だれ」の同音連打について仲道さんは、「繰り返すことで生まれる一種の異様さは、強迫観念にとりつかれたよう」と話して同音連打に注意を向け、それが単に雨だれの様子を模したのではなく、拭い去ることのできない重苦しさを孕んでいることを伝え、右手で奏される装飾音からは、叶うことのない希望の光を感じさせた。変ホ長調のノクターンでも、ぎりぎりのところで美しさを保っている儚さを表現。最後の連続する装飾音は、キラキラした煌めきというより、心が痛みで小さく打ち震えているように感じられた。

「この曲でさえ、単に勇ましい行進の姿を描いたというより、こうであったらよかったのに… というショパンの後ろ向きな思いが感じられる」と紹介された英雄ポロネーズからは、勇ましく堂々とした響きから苦しさが滲み、とりわけ後半に登場するメランコリックなパッセージが、当てもない彷徨いに聴こえた。

満場の拍手に応えたアンコールの「告別のワルツ」を聴いていて、仲道さんは名曲特集のような曲目も、今日のコンセプトに合わせて厳選したと確信。そのコンセプトが見事に体現されたことを全身で受け止め、得も言われぬ感動に包まれた。仲道さんは「素晴らしい」を超えて、凄いピアニストだと思った。

仲道郁代 フォルテピアノ&ピアノ~ミーツ・ベートーヴェンシリーズ~ 2020.1.10 東京芸術劇場
仲道郁代 ピアノリサイタル~第29回 交詢社「音楽と食事の夕べ」 2019.12.21
仲道郁代 ショパンへの道 2019.1.26 ハクジュホール

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