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小売業・IT活用・消費市場の今をウォッチング/WINS企画/東 秀夫wins.azuma@sunny.ocn.ne.jp

【日替コラム】今日の気づき/新聞を読んで   第47回 消費市場変化の大潮流 新しい時代への兆し

2010年01月29日 04時07分23秒 | 今日の気づき
【2010年1月29日(金)】

◆読んだ新聞

 日本経済新聞 1月20日(水) 朝刊 11面


◆記事の見出し

 《百貨店閉鎖 最悪に迫る》《松坂屋・丸井今井…今年8店決定》《関連業界含め再編も》

 《アパレル業界 打撃大きく》《価格・販路の見直し急務》


◆記事の内容

 ★百貨店の閉鎖が加速。2010年に閉鎖するのは8店に達する。2010年に入っても百貨店の市場環境は悪化している。大手に加え、経営再建に入る地方百貨店も多く、さらに数店増え、経営破綻したそごう(現そごう・西武)が9店を閉めた過去最悪の2000年の11店を上回る可能性も出てきた。

 ★百貨店の店舗数は1999年の311店がピークで2009年末は271店。需給ギャップは解消されず、さらなるリストラは避けられない。地方への影響も大きい。閉鎖した店舗の後継テナントが見つからないケースが多く、中心市街地のさらなる空洞化を招く恐れもある。

 ★百貨店の閉鎖が加速し、主要取引先のアパレルメーカーも経営の見直しを迫られる。インターネット通販や商業施設の開拓、価格を抑えたブランドの開発を急ぐ。少子高齢化や低価格専門店との競合などを背景に市場環境は厳しく、大手や中堅の再編につながる可能性もある。

 ★百貨店売上高に占める衣料品の構成比率は40%近くを占めるが、日本百貨店協会によると、衣料品売上高は1997年から2008年まで12年連続マイナス。消費者はファストファッションと呼ばれる低価格系の専門店や利便性の高いネット通販に流れ、2009年もマイナスが確実。

 ★アパレル大手では、ワールドが販売の軸足を商業施設に移し、一時は6割を占めていた百貨店の売上比率を3割台に下げた。7割超を百貨店に依存するオンワード樫山は価格を抑えた婦人服ブランドや路面店、本格的なネット通販サイトを立ち上げ、三陽商会は1月から「販路開発室」を設け、百貨店以外の店舗開拓を強化する。レナウンは今春、総合スーパーなど量販店向けに百貨店の6割程度に価格を抑えた婦人カジュアルブランドを立ち上げる。中堅アパレルではフランドルが百貨店の半額程度の価格帯に抑えた婦人服専門店を導入した。


●今日の気づき

 ★百貨店の閉鎖は、ある意味で自然の成り行きのような気がする。小売の現場では、前年対比はどうなのか、客数は、客単価は、何が売れて何が売れてないのか、競合店はどうなのか、他業態はどうなのか、売上を上げる企画は、販促イベントは、顧客サービスは十分なのか等々、日々の営業に追われているのが現状である。他店がイベントで売上を伸ばせば、他店を上回る売上を作るイベントを行おうと、熾烈な競争の日々が現場である。しかし、消費市場を俯瞰すると、需給のギャップが大きく、供給過剰であり、供給の担い手である店舗が「オーバーストア」である。既存の店舗数の減少は避けられない。強い店舗が生き残り、弱い店舗が消えていくというのは、社会の変化の中で避けて通ることができず、その中で、いかに生き残るかが課題と言えるが、従来の延長線上には解決策は見えて来ない。前提となる消費市場が変化しているからである。

 ★衣料品では、商品はファストファッションと競合し、販路はネット通販の伸張など、新興勢力の台頭の影響を受けているが、成長業態が必ずしも、先行き安定成長するかというと、その保障はどこにもない。「消費マインド」と表現されるように、「消費」に強い影響力を持つ「マインド」が変化しているからで、その「マインド」は社会の状況をはじめ、様々な要素の影響を受け、過去の経験では推し測れないような動きをするのが常である。しかも、消費の成熟社会になると、価値の基準軸も変化してくる。今までに経験したことのない時代が始まろうとしているのではないだろうか。

 ★少子高齢化や人口減少といった要因は消費量を減らす要因には違いないが、別の「マインド」も働き出しているのではないかと思えてならない。所得減少や所得の先行き不安などが消費を冷やしていることは確かだが、それをきっかけとして、新しい「マインド」が芽生えてきているのではないだろうか。そうだとすれば、景気が回復し、所得が増え安定しても、以前のような「消費」が戻ることはないと言える。

 ★アパレル業界で百貨店価格の6割とか5割に抑えたブランドの開発が進められているということだが、品質も6割、5割と下がるのであろうか。そこまで品質が下がると消費者はついてくるのかどうか疑問である。価格を抑えても消費者が納得するだけの品質を維持できる技術力が裏付けとなっているのではないだろうか。そうだとすれば、価格と品質の関係にも変化が出てきているということである。高度経済成長の過程で国民が総中産階級意識を持つようになり、富裕層的ライフスタイルへの指向が強まり、その新しい需要層に向けて高級指向の商品が供給され、中産階級意識を持つようになった消費者を高級品市場へ導くことで数量的にも金額的にも消費市場が拡大してきたという側面がある。この30~40年の間に品質はものすごく向上した。従来の百貨店ブランドでなくても、満足の合格点に入る商品が手に入るようになったと、所得の不安定感が、それに気付かせたのではないだろうか。そして、その「マインド」が新しい需要層を形成し出すと、それに対応した商品の供給が盛んになって、中産階級意識を持つようになった消費者を高級品市場へ導いてきたように、新しい市場の創出が始まっているのではないだろうか。市場の数量的あるいは金額的変化は従来と異なる軌道を描くことは間違いないと言える。品質やデザイン、イメージ、希少性などで付加価値を膨らませてきた市場で、それについて来る消費者と、そこまでしなくても満足できる商品が多くあるという認識を持って価値観を変化させた消費者に、消費の「マインド」が分化しつつあるのではないだろうか。

 ★長野県農業大学校(県立専門学校)農学部教授の吉田太郎氏が著した「世界がキューバ医療を手本にするわけ」、「世界がキューバの高学力に注目するわけ」が注目されていることを知り、インターネットなどで調べてみた。キューバの乳幼児死亡率は米国以下で、平均寿命は先進国並み。がん治療から心臓移植まで医療費は無料で、大都市の下町から過疎山村まで予防医療が全国土を網羅している。WHOも医療大国として認めているという。また、教育では、幼稚園から大学まで教育費は無料で、小学校は20人、中学校は15人の少人数教室を実現。過疎地では生徒一人の学校も維持しており、教育の地域間格差を作っていない。中南米統一国際試験で2位を大きく引き離す高得点を上げた。ユネスコはフィンランドとともにモデル国に推奨する教育大国だという。しかし、生活物資は乏しいようである。医師や大学教授でも携帯電話や自動車を持っていない。牛肉も観光客しか食べられないという。経済成長と豊かさの関係、モノの豊かさと幸せとの関係に示唆を与えている。

 ★日本経済新聞の2010年1月18日(月)~22日(金)の夕刊「人間発見」欄で元世界銀行副総裁の西水美恵子さんの記事が連載されているが、西水さんは講演などで、よくブータンの話をされる。前国王の雷龍王4世の「国民総生産より国民総幸福量が大切」という価値観が有名である。ここでも、経済成長と国民の幸福との関係で貴重な示唆を与えている。

 ★数字を指標として追いかける経済の成長には限界がある。モノ市場の成熟の次にはコト市場の成長に期待するのであろうか。コト市場もやがては成熟することになる。市場の成長を金額の数字の拡大で測っていけば、コト市場もモノ市場と同じ軌道を進んで行くことになる。

 ★従来の経済成長の価値観に並行して、経済成長や物的豊かさは幸福な生活の手段であって目的ではないという価値観の芽が大きくなりつつある。その背景となる要素を物的側面で見ると、市場の成熟と品質の向上がある。今後、「エコ」を加えた「成熟」、「品質向上」の3つが、消費市場に大きな変化をもたらす要素になると思われる。百貨店の閉鎖は、そういう大きな価値軸が変化する中で出てきた、潮の流れが変化する時に生じる渦潮のような「自然現象」に似たものを感じる。

(東)

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