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死街幻夢 前編

2006-07-26 | 小説・その他
現在の気温三十六度。コンクリートジャングルと化した東京にとっては、ごく当たり前の数字だ。ビルや家庭で使われているエアコンは、その内部だけを快適にするため熱気を排出し続け、故に近い将来平均気温は四十度を越すといわれている。毎年言われている異常気象は例年通りとなり、こうして文明の利器に頼りきった人類は滅びへの一途を辿るのかもしれない。
順一朗は午後二時の炎天下を一人歩いていた。
彼はアパートを家賃滞納で追い出され、行くあてもなくただ街を彷徨っていた。
アスファルトからは熱気が上り、目前の世界を陽炎たらしめんとしている。
周りの人間も汗をたらしながらせかせかと歩き、角でタムロしている女子校生などは人目も憚らずスカートで足を扇いでいる始末だ。世も末だと思うが気持ちはわからないわけでもない。
あまり見ていると因縁をつけられるため足早にその場を離れた。近頃の学生は何をしでかすかわからない。昨日も友人が学生同士の暴行事件に巻き込まれ、頭に三針の怪我をしたばかりだ。
これも暑さのせいなのかもしれない。早くどこかの店に入って体を休めなければどうにかなってしまいそうだ。見よ、あまりの熱気に歩行者の足も揺らめきを見せ、既にこれは幻ではないかと訴えかけている。
順一朗は額の汗を拭うと大きく息を吐き、ゆっくりと周りを見回した。
誰もいない。
見えるのは揺らめく足だけだ。それすらも一つ、また一つと消えていき、ついに彼は一人きりになってしまった。
きっと夢だ。湯だった頭を冷やすため、彼は近くの電気店へ入った。
涼しくない。それどころか暑い。どうやら冷房が働いていないようだ。
人の気配もしない。
吹き出る汗を拭いながら考える。閉店、入口が開いているわけがない。店内改装、人がいるはずだ。なら……?
面倒臭くなった。仮に推論が当たったところで涼しくなるわけでもなし、さっさと別の場所へ行ったほうが得策である。
電気店を出ると強い日射しが順一朗を照らした。じりじりと焼けつく暑さに彼の脳は悲鳴をあげつつある。なんでもいい。なにか冷たいものを。そういえば駅前の広場には噴水があった。
順一朗は噴水まで走るとシャツを脱ぎ捨て水面にダイブした。水はすでに湯になっていたが底のほうはまだ温く、順一朗はわずかだがその体温を下げることができた。

続く

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