ネコきか!!

バビデ
ヤンユジュ
ホイミ
レロレロ

死街幻夢 後編

2006-07-27 | 小説・その他
飲食店、本屋、デパート、アミューズメント。様々な店に入ったが、やはり誰も居らず、故に街の機能は全て停止し、まさしくここは死都であった。
街をさまよい続けてすでに三時間は経過していた。
順一朗の身体は脱水症状を起こし、もはや歩くのが困難になっている。
足が絡まり転んだ。立ち上がる気力もない。助けを求めようにも誰も居らず、訳もわからずこんなところで惨めに死んでゆくのだろうか。
風が吹いた。それを涼しいと思うこともない。だが。
顔を上げた。生きたかった。風で飛ばされたのか、目の前に新聞が転がっていた。
見出しには、○市に原子爆弾投下、とある。
目を疑った。○市は順一朗が倒れている、この都市である。
ありえない。人こそないが、ビル群は健在だ。原爆など落とされれば辺りは焦土と化しているだろう。
記事を読む。
×月×日――今日だ――午後二時、○市に原子爆弾が投下された。死傷者五万八千、重軽傷者――。
ではここはどこだ。自分は一体……。

街はすでに原型を留めていない。倒壊したビルや家屋。張り付いたままの影。淀んだ空気。ここは地獄であった。
防護服に身を包んだ者たちがそれぞれに何かを運んでいる。彼等の手にしたバケツには運良く形が残った手足が入っていた。
「おい、もちっと丁寧に扱え。仏さんなんだぞ。えーと、こりゃ身分証明書か。……『JYUNICHIRO』、ね」

最新の画像もっと見る