デミング博士のニューエコノミクスって

デミング博士の”ニューエコノミクス”に書かれた内容と,それに関連する内容を,「マターリ」と理解するページ

経済学のコンセンサス

2005-11-06 18:50:43 | 経済
何か,話が経済学方面に行ってしまったので,スティグリッツさんの教科書からの抜粋をさらします.

経済学のコンセンサス -スティグリッツ 入門・ミクロ・マクロ経済学 日本語第2版より抜粋-

【ミクロ経済学】



1・希少性 Scarcity (入門38p ミクロ8p マクロ4p)
あるものを多く食べるためには,他のものをあきらめなければならない.
すなわち,フリーランチは無い.(There is no free lunch)

2・インセンティブ Incentives (入門52p ミクロ11p マクロ4p)
適切なインセンティブを提供することは,基本的な経済問題である.
現代の市場経済においては,利潤は企業に個人が望むものを生産するようにインセンティブを与え,
賃金は個人に働くインセンティブをもたらす.
所有権もまた人々に投資や貯蓄だけでなく,彼らの資産を最善な方法で用いようという,重要なインセンティブを与える.

3・取引と貿易 Trade (入門104p ミクロ17p マクロ4p)
自発的交換は利益を生み出す.個人間の取引であれ,国境を越えた貿易であろうと,すべての取引者は自発的交換から利益を得ることができる.

4・価格 Prices (入門137p ミクロ27p マクロ5p)
競争市場では,価格は需要・供給の法則で決まる.
需要曲線や供給曲線がシフトすると均衡価格は変化する.
同様の原理は,労働市場や資本市場にも当てはまる.
労働の価格は賃金であり,資本の価格は利子率である.

5・金融市場 Financial Market (入門227p ミクロ33p)
金融市場は現代経済の中心的な領域である.
それらは,新しく設立された企業のための資本調達,既存企業の拡張,およびリスクの分担にとって欠く事ができないものである.

6・政府の役割 The Role of Government (入門263p ミクロ36p)
現代経済では政府は重要な役割を果たしている.
政府は市場の失敗を矯正し,所得再配分を行い,失業,疾病,障害,引退などのリスクに対する社会保険を提供する.
政府活動の意図や見通しについては論争が多いものの,経済における政府の役割の重要性については広範な合意がある.

7・競争市場の効率性 The Efficiency of Competitive Market (ミクロ317p)
現代の経済の中心には競争市場が存在する.
利潤動機と価格システムを通じて,競争市場は経済的効率性をもたらす.
しかしながら,市場が効率性を生み出せなくなる重要な例外が存在する.
たとえば,市場は競争的で無いかもしれないし,市場は(環境汚染のような)負の外部性を持つ財を過大に生産しすぎるかもしれないし,(基礎研究のような)正の外部性を持つ財を過少にしか生産しないかもしれない.

8・不完全競争 Imparfect Competition (ミクロ416p)
多くの市場では競争は制限されている.
不完全競争市場では,企業は,自社の産出量やその他の行動が自社製品の価格に影響を及ぼすことを知っている.
多くの場合に,各企業は,自社の行動がライバル企業のどのような対応を招くかを考慮した上で,戦略的に行動しなければならない.

9・技術革新 Innovation (ミクロ490p)
現代経済は技術革新の上に成り立っている.
技術革新が重要な部門では,不完全競争が一般的である.
政府は(特許や著作権によって)知的財産権を保護したり,基礎研究を助成したりして,技術革新面で決定的な役割を果たしている.

10・不完全情報 Imperfect Information (ミクロ526p)
個人や企業が不完全情報に基づいて意思決定を行うという事実は,多くの点において市場の働きに影響を及ぼす.
企業や個人は,情報の希少性を何らかの方法によって補おうとする.
逆選択やモラルハザードが生じる多くの市場において,企業は品質の情報を伝達するように価格を調整する.
個人や企業は,自らの特性に関する情報のシグナルを送ることによって伝えようとしたり,名声(評判)を樹立するための努力を重ねるのである.

【マクロ経済学】



1~4までは,ミクロ経済学のコンセンサスが,マクロ経済学でも当てはまる.

5・完全雇用下での政府支出の効果 Effects of Government Expenditures at Full Employment (マクロ135p)
経済が完全雇用下にあり,閉鎖経済であるときには,政府支出の増加は民間消費か投資,または両方の減少を引き起こす.
それがちょうど増税で賄われるとしても,増税が通常貯蓄を減少させるため,政府支出の増加は民間投資をクラウディング・アウトする.(押し退ける)
開放経済であるならば,政府支出は海外からの借り入れの増加を招くことになる.
しかしアメリカでは,借り入れ増加が貯蓄減少分を完全には埋め合わせることにはならず,投資は減少する.

6・貨幣の中立性 Neutrality of money (マクロ136p)
完全雇用下では,マネーサプライ(貨幣供給量)の増加は物価と賃金の比例的上昇を引き起こすだけであり,実質的な効果はまったく無い.

7・経済成長 Growth (マクロ167p)
生活水準の上昇は生産性の上昇を必要とする.
生産性の上昇は,研究開発(R&D)への支出,新しい技術・プラント・設備・インフラストラクチャーへの投資,そして労働力の熟練の向上を必要とする.

8・失業 Unemployment (マクロ182p)
失業は,典型的には,価格が調整されない時に労働の総需要曲線がシフトすることによって発生する.
労働の総需要曲線のシフトは,典型的には,産出量が変化することによって発生する.

9・経済が生産能力を下回っている場合に,経済を刺激する Stimulating the Economy When It Is Below Capacity
(マクロ192p)
経済が過剰生産能力の状態にある場合には,(あらゆる物価水準における)総需要の増加は,価格にはほとんど影響を及ぼすことは無く,総産出量を増加する.

10・経済を過度に刺激することの影響 The Effect of Overstimulating the Economy (マクロ192p)
経済がフル活動に近く,ほとんどの機械と労働者が完全雇用されている場合には,(あらゆる物価水準における)財・サービスへの需要の更なる増加は,物価上昇圧力をもたらすだけで,産出量に対してはほとんど影響を及ぼさない.

11・過剰生産能力が存在する時のサプライサイド効果 Supply-Side Effects When There Is Excess Capacity
(マクロ192p)
経済に過剰生産能力がある場合には,生産能力の増加は産出量にはほとんど影響を及ぼさない.

12・経済を刺激するための金融政策の利用 Using Monetary Policy to Stimulate the economy (マクロ341p)
過剰生産能力が存在し,かつ物価水準が硬直的である場合には,マネーサプライの増加は,通常は経済を刺激し,産出量を増加させる.

13・深刻な不況期における金融政策 Monetary Policy in a Deep Recession (マクロ345p)
経済が深刻な不況に陥っている時には,金融政策は景気回復のために経済を刺激する手段としてはあまり有効でない

14・インフレーションと失業のトレードオフ The Trade-off between Inflation and Unemployment (マクロ419p)
失業率がNAIRUを下回る水準にとどまるならばインフレ率は上昇し,上回る水準にとどまるならばインフレ率は下落する.
経済は,インフレーションを加速させることなしには,失業率をNAIRUより低い水準で永続的に維持することはできない.

参考文献


 ・Stiglitz, E. Joseph,藪下史郎 他訳,スティグリッツ ミクロ経済学 第2版,2000,ISBN:4-492-31258-7
 ・Stiglitz, E. Joseph,藪下史郎 他訳,スティグリッツ 入門経済学 第2版,1999,ISBN:4-492-31257-9
 ・Stiglitz, E. Joseph,藪下史郎 他訳,スティグリッツ マクロ経済学 第2版,2001,ISBN:4-492-31259-5

11/12 参考文献にヌケがありましたので修正しました.


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