デミング博士のニューエコノミクスって

デミング博士の”ニューエコノミクス”に書かれた内容と,それに関連する内容を,「マターリ」と理解するページ

Exit-Voice 退出-告発(「内発動機」の続き)

2005-11-06 18:49:30 | 心理学
 この前の続きをさらします.

Exit-Voice



ここで,ハーシュマンさんのExit-Voiceを考えて見ましょう.
 まず,Exit-Voiceの考え方ですが,伊藤元重さんの「ビジネス・エコノミクス」の内容から見ていきます.

伊藤元重,「ビジネス・エコノミクス」P102~104

<引用>

 ある組織の中で好ましくないことが起きているとき,人々はどう対応するだろうか.たとえば,企業の中で不当な行為が行われている,あるいは経営的にまちがった行為が行われていたとき,その企業の社員はどの様な対応が可能であろうか.基本的には二つのタイプの対応が可能である.
 一つは「告発(Voice)」だ.告発とは,たとえば組合を使って改革を求める.あるいは上司の所へ行って「このままではまずいのでは」と変更を訴えてもいい.ようするに組織の中で声をあげて変化を迫るのだ.
 もう一つの「退出(Exit)」というのはその会社を辞めて他へ移るということだ.もっと良い場所へ移ればいい.<以下略>

</引用>

 つまり,仮に会社が変なことをしているときは,従業員として,その会社で改善を訴える(もしくは,改善活動を行う)か,会社を辞めて,他へ移るかです.
 実は,会社側も同様で,使えない従業員をクビにするか,教育等を行うかの選択になります.

 さて,ここでExitとVoiceの内容を考えて見ましょう.
 ・Exit:
  ・退出する人は,その組織に何かを残していくという考えを持た
   ない.
  ・退出する人が少数の場合(もしくは少数に見える場合)は,そ
   の組織として何かを(例えば従業員の待遇改善など)改善しな
   ければならないという意識がなかなか持たれない.

   (例:どこかのお蕎麦屋さんが,コストダウンのために出前持
   ちを辞めさせて,板さんが配達する.そのおかげで,料理の出
   来上がりが遅くなる.常連さんは,注文しなくなるが,新しい
   お客さんが注文してくれるので,売上はそんなに下がらない.
   しかし,新しいお客さんがいなくなって(もしくは,その店の
   評判「料理が出来るのが遅い」と言う事が,お客さんになりそ
   うな人まで広がって)売上が下がる.ここでやっと板さんに改
   善意識が出てくる.)

 ・Voice:
  ・告発(Voice)する人は,少なくても自分の持っている情報(改
   善すべきポイント等)を組織に与えたいと思っている.
  ・告発する人が少数の場合でも,組織として改善意識を持つ可能
   性がある.

 こう考えると,退出より告発の方が有利に思えます.そして,ハーズバーグさんの動機付け衛生理論を考えると,衛生要因で退出を防いで,動機付け要因で,告発を多く導き出した方が良いように思われます.

競争と協調



 Exit-Voiceのイメージでは,Exitをする・させることが競争,Voiceする事が協調のような感じがします.
 ですが,こう考えて見るのもいいでしょう.
 ・Exit競争:相手をExitさせる競争.
 ・Voice競争:相手とVoiceを競う競争.
 こう考えると両方とも競争になります.

 では,協調はあるのでしょうか? 協調は,実は「分業」ではないのでしょうか.

 そうすると,デミングさんの考えの,「良い競争相手」とは,顧客に対するVoice競争を行い,そのVoice競争をサポートするため「分業」してくれる相手のような気がします.
 例えば自社や競争相手が属している「業界」のサポートや,業界内で使用する部品等の「標準化」のようなサポートです.
 Exit競争を仕掛けてくる相手は,きっと,「競争をなくすための競争」をしたいので,その様な「分業」もしてくれないでしょう.

 デミングさん曰く,「競争もシステムの一部である:あなたにいいことは,彼ら【競争相手】にもいいことだ.【逆に,「良い競争相手はあなたを助ける.」とも答えています.】」とのことです.(これは,ベンチマーキングにおける質問に対する答えなので,この話の流れに合うかどうかは判りません.)
“Does anybody give a hoot about profit?” Deming Speaks to European Executives P8より.

 但し,デミングさんは,「独占は,世界に対するサービスを最大化及び,重い義務をもって行うベスト・チャンスである.」とも言っています.確かに,技術進歩や,他の外部性があるときは,ある程度の独占的な動きが必要らしいですが,すべてに必要ではないし,ビジネス特許等を考えるとどうかなぁとも思います.
 技術進歩とか,外部性については,「スティグリッツ・ミクロ経済学」10章 技術進歩や,PUBLIC POLICY FOR A KNOWLEDGE ECONOMYを参照してください.(時間があるときにでも,この話をまとめます,きっと・・・)

 何か,取り留めなくなってきたので,この話は,ここで終わりにします.

参考文献


  • Dening, W. Edwards,The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed.,1994,ISBN:0-262-54116-5
  • 高橋伸夫,虚妄の成果主義 -日本型年功序列制復活のススメ,2004,ISBN:4-8222-4372-9
  • DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部,動機付づける力,2005,ISBN:4-478-36081-2
  • Stiglitz, E. Joseph,藪下史郎 他訳,スティグリッツ ミクロ経済学 第2版,2000,ISBN:4-492-31258-7
  • THE SWISS DEMING INSTITUTE,“Does anybody give a hoot about profit?” Deming Speaks to European Executives,2000,http://www.deming.ch/downloads/deming_speech_en.pdf
  • Joseph E. Stiglitz,PUBLIC POLICY FOR A KNOWLEDGE ECONOMY,1999,http://www.worldbank.org/html/extdr/extme/knowledge-economy.pdf



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