デミング博士のニューエコノミクスって

デミング博士の”ニューエコノミクス”に書かれた内容と,それに関連する内容を,「マターリ」と理解するページ

レッドショルダーのマーチ

2005-10-23 18:39:22 | その他
 先週,本屋さんで,「開発の現場」という雑誌? Vol.2にて「反・デスマーチ 大研究」という特集が組まれている本を立ち読みしてみました.その内容が凄まじく,かつ面白かったので,思わず買ってしまいました.
 「デスマーチ」というのは,プログラムの開発現場等(特に携帯電話の開発現場が凄い事のなっていたりします)で,短納期や低品質なマネージメントのため,技術者が,「プログラムマダー? チン・チン」というプレッシャーの中で,凄い勢い(2徹・3徹当たり前!!残業時間 月300h突破!!)で働き,そんな中で,下手をすると,鬱になって会社を首になったり,突然無断で会社を辞めたり,もっと恐ろしいことが起きたりする事のようです.

 特に,この雑誌の中で,"【軍曹が】携帯の開発の現状【語る】"という2チャンネルの書き込みをまとめたサイトを引用した記事が面白く,私も思わずこれらのWebページを(仕事中にも関われず)ググッて読み込んでしまいました.

 こんな中で開発をしていたら,低品質に向かうのは当たり前です.でも世の中の会社にはあるんです.(軍曹さんのような凄まじい事は稀でしょうが)

 私もここまでは酷くなかったですが,精神的なプレッシャーに追い詰められ,(まあ残業は単月140h突破程度なので,ほかの人たちよりは酷くないです.)「このクソ会社のマネージャ全員地獄へ落ちろ!!」と思った経験が何度かあります.

 その中で,「これは,他の人はさすがに経験無いだろう」と言うような,私のかなり古い品質管理での体験(脚色してますけど)をさらします.

1.現地工場

 えらい人より,海外の現場への出張命令が降りていた.どうやら,今回は協力会社が設計した製品ラインの立ち上げのようだった.だが,今回は仕様書や,図面も渡されていない.現地にて受け取れとの命令であった.
 俺は現地へ向かった.相変わらず一人だ.他社は,ラインの立ち上げには,10人程の色々な部署の人間で構成されたチームを組んで工場へ向かうものである.しかし,俺の会社は大抵,品質管理の人間の単独であった.
 現地の工場に着き,俺は早速仕様書や,図面をチェックを行った.少しプラスティクが薄そうであったが,品質には影響ないであろう.ただ,この製品に採用されているセンサを使った設計で,以前,後輩が嵌っていたのを思い出した.但し,今回は,センサ信号をデジタル信号に変換する回路はASICに変更されている(=きちんとした技術者チームが設計している)ので,問題ないだろうと判断した.俺は,気楽になった.
 「さて,まずラインを確認しましょう.」
 その工場(孫受工場)で管理を行っていた協力会社の日本人技術者に声をかけた.
 「はあ……」
 なぜか,その技術者は疲れていた.

 俺と,その協力会社の技術者(ここでは仮にMさんとしよう)とでラインに向かった.

2.戦場で

 「こっ・これは……」
 その光景を見た瞬間,俺の耳元には,ボトムズの「レットショルダーのマーチ」が聞こえてきた.
 「Mさん……何ですかこれは……」
 ライン上に,まるで活け花のように,抵抗のリード線が切られずに半田付けされた基板が次々と流れてきた.
 「ええ……チップ抵抗*1 が手に入らなかったので……」
 なぜか,Mさんは照れていた.
 「いや……,ケースの中に基板が入らないのでは……」
 Mさんは,いきなりその場でしばらくフリーズしていた.

 「ラインを止めましょう!!」
 俺はMさんに声をかけた.Mさんは,ラインリーダっぽい男に声をかけていた.しかし,ラインはなかなか止まらない.
 「どうしたんですか?」
 どうやら,Mさんは現地の言葉がわからないようであった.
 俺は,そのラインリーダっぽい男に片言の現地語と筆談で,ラインを止めるよう話した.
 「で,ここ(の工場)のマネージャ連中は?」
 俺はMさんに尋ねた.どうやら,このトンでもない状況においても,やつらは事務所に閉じこもっているようであった.
 俺は事務所に行き,日本語と英語で,マネージャたちに話しかけようとした.だが,連中はきょとんとしているだけであった.そう,彼らは現地語しかわからないのであった.
 ここにいても仕方がない.俺は,ラインに戻りMさんに日本語の通訳にここに来て貰いようにお願いした.しかし,その通訳自体,他の仕事を兼任しているので,なかなか来る事は出来ないようであった.
 俺は急激に「以上」感を覚えた.

*1:チップ抵とは,米粒大の大きさの四角い(筒状ももありますが)「抵抗」という電気部品です.携帯電話とかにも使用されています.

3.巻き返し

 俺は,日本と俺の会社の現地の駐在事務所に連絡を取り,状況を説明した.だが,あまりの話に,誰も信じてくれなかった.製品の発売日はすでに雑誌に載っているとだけ返事された.ただ,俺の会社の現地社員が,この工場の近くで別の仕事をしていることが判った.彼は英語が俺よりうまく,当たり前だが,現地語は当然ペラペラだ.
 俺は,彼に連絡を取り,翌日朝には来て貰えるように依頼した.
 彼は二つ返事で了承した.少し心の余裕が出来た.
 さあ,巻き返しだ! 俺は気合を入れなおすと,早速このライン上にある活け花のような基板の処理を考えた.何のことはない.チップ抵抗が乗っかる基板のフットパターン*2 に,今ある普通のリード線の抵抗*3 を実装できればいいだけだ.但しプラケースと干渉しないようにしなければならない.
 俺は,手近の基板を10枚ほど引っつかむと,早速改造を行った.今乗っている抵抗を全部はずし,回路図を見ながら抵抗の足を曲げてフットパターンに半田付けし,メルティングボンド*4 で抵抗を基板に固定する.図面に赤ペンで変更箇所を書き込み,作業指示書代わりになるものを書きながらだ.ラインの人たちが判るように,なるべく言葉を使わずに絵で示す必要がある.(俺は現地語が片言しか話せないので,言葉に頼れないのだ.)
 さすがに工場では徹夜は出来ない.治安の問題等があるので,工場は夜10時に閉鎖する.それまでにはこの作業をには終わらせなければならない.俺は,作業中トイレにもいけなかった.
 
 工場の朝は早い.朝八時には俺は工場に入っていた.俺の会社の現地社員のアンディー(仮名)もいた.早速俺は,アンディーに,ここの工場のマネージャ連中と会議できるように依頼した.アンディーは手際よく手配してくれたようだ.日本語の通訳もこの会議に参加できるようであった.
 俺は会議で,どのくらい活け花状態にある基板があるかどうか確認した.なんと数千枚もあるというのだ.俺とMさんと残り2人の日本人スタッフ,そしてアンディーまでが引っ繰り返っていた.
 俺は,自分が書いた作業指示メモと,サンプルとして俺が改造した基板10枚ほどを差し出し,今回のリワーク(て言うの?この状況……)を指示した.
 これで生産が開始できる.まあ,1日半の遅れだ.不良が多くなければそれぐらいは取り返せると踏んでいた.

*2:フットパターンとは,基板上にある部品を基盤に半田付けする箇所です.この場所はレジストという基板上に塗られている絶縁材(普通は緑色ですが,時々青もあります)が塗られていない場所です.
*3:普通のリード線の抵抗とは,秋葉原とかで売っている,丸い棒状で,棒の両端に,金属の線が付いてているやつです.
*4:メルティングボンドとは,熱を加えると溶け,冷えると固まる接着剤です.よく基板等に何か部品等を固定したりする時に使います.

4.さらなる挑戦

 俺はアンディーと共にラインに立ち会った.このラインは酷い.タクトが乱れまくっている.俺はさすがにラインバランスのとり方までわからないので,Mさんとアンディーと一緒にラインを回った.Mさんは,ラインのタクトを合わせるため,色々な指示を俺とアンディーを経由してラインリーダたちに指示していった.さすがにMさんは経験があるのであろう.午後にはタクトがある程度まで合ってきた.ただ,まだ基板の不良率は20パーセントぐらいある.俺は,作業手順等の見直し,検査工程の移動等を指示し,何とか10パーセント前後まで不良率を下げていった.夕方には,不良レポートが上がってきた.他の日本人スタッフが,何とか工場のマネージャに指示して毎日各検査工程の生産数・不良数・不良症状項目のレポートが上がるようになっていた.もちろん報告して貰う内容は,日本人スタッフと俺とが協議しながら作ったものだ.(それまでは,その様なレポート自体なかったようであった.この工場の外壁にはISO9000の文字が大きく書かれていたのに……)そのレポートを元に俺は各種資料を作成し,確認していった.まだ,ラインの直行率は,50パーセントを切っていた.

 その頃までには,俺は,ラインリーダと何とか意思の疎通が図れるようになっていた.何とか片言の現地語と筆談で相手が何を言いたいのかうっすら判るようになってきたのだ.彼は若いためか,動きは早くカンはよさそうだった.いまだに,この工場のマネージャ連中は事務所から出てこない.俺たちは,このラインリーダを頼りにしていた.俺はラインで気づいた点を,この若きラインリーダを通じてフィードバックしていった.ある程度までフードバックを行うと,俺は不良品の山に突っ込んでいった.俺の経験では,こんなに酷い直行率では,不良品の置き場所がなくなり,ラインは自然に止まってしまう.俺は,不良が多い項目から不良解析をしていき,原因を探った.
 その解析は,時間がなかったため中途半端であったが,それでも直行率を80パーセント前後までもっていけそうであった.

 翌日の朝またマネージャ連中を集めてミーティングを行った.もう俺はこのマネージャ連中が何か仕事の役に立つとは思ってなかった.ただ,さすがに連中も,顧客がチョロチョロと工場内をうろついているのは気持ちよくないであろう.俺がフィードバックをしていけば,さすがに妨害はしないであろうと踏んでいたからだ.(というか,それはオマイらの仕事だろう!! と小一時間ほど問い詰めたい!! トコトン問い詰めたい!! ホント,今思い出してもかなり・・・orz)
 その会議で,俺は,生産数・不良数・不良症状・不良原因等を日本語の通訳に訳してもらいながら板書してもらい,全員で対策を考えるよう促した.
 この方法は,俺の後輩と先輩に教わった方法だ.なるべく全員を巻き込むように,一人一人に各問題点の解決策のアイディアや,誰がキーマンになりそうなのかを聞いていった.普通,この方法であると,最後には,自分たちが出したアイディアであるので,キーマンも自分で手を上げて実行を約束してくれる.そして,約束してくれたものは,事故等がおきない限り,実行してくれるものだ.だが,この会議では,マネージャ連中は誰も発言しなかった.発言を促してもずっと押し黙ったままだ.さすがに俺も疲れ果ててきたので,やってはいけない「対策指示」の押し付けをしてしまった.ただ,不良症状が50項目ぐらいあったのでそれでも時間がかかった.
 
5.以上!!

 翌日,工場でアンディーがトンでもないことを発見した.昨日指示していた改善事項がなされていないのだ.俺は早速ラインリーダに事情を聞いた.
どうやら,指示事項が各マネージャから各部署へ伝わっていないらしく(もちろんこのラインリーダにも伝わっていない),簡単な工具すら用意されていなかった.(さすがに,部署間のインターフェースを俺がとるわけにも行かず,指示自体は彼らマネージャから指示が行かないと,マネージャの面子が立たなくなるので部下も動きづらい.)さすがの俺も,これには切れた.
 "Andy!! Call the managers for meeting!!"
 アンディーが事務所に飛んでいった.
 俺は,会議の席で,相手方のマネージャを絞っていた.(このようなときは,日本語の通訳が逆恨みに合うらしいので,俺は,日本語の通訳に俺からの話であることを強調して貰い,さらに,俺自身も片言と板書で同じ事を伝えた.)さすがにその後3日間ぐらいは,きちんと各部署に指示が伝わって行ったようだ.ラインリーダにも指示が伝わっていた.彼はまじめな性格なのか,黙々と管理作業を行っていた.
 直行率も75パーセントぐらいになってきた.出荷検査がやっと出来るぐらいの数量が完成してきた.
 アンディーと俺は,抜取検査を開始した.だが,いつもであれば不良検出などないのに,今回は,ぎりぎりロットアウトになる数まで不良が検出された.俺は,また,不良解析に向かった.
 その間にも,この状況をレポートにまとめて本社に送る必要があった.俺は,10ページほどのレポートを手書きでまとめFAXした.その協力会社及び,俺の会社のマネージャ連中へのいやみをたっぷりとそのレポートに乗せて.そろそろ俺のビザも切れそうなことも含めて.そう,俺は,この国を一度出なければならなかった.それにしてもどうだ.何で,この工場のマネージャ共は事務室に張り付いているのであろう.アンディーも不思議に思ったのか,色々調べていた.アンディーの話では,どうやらこのマネージャ共は,工場立ち上げスタッフが工場を立ち上げた後,すぐに入れ替えの形で来たようだ.それも,中途採用後,ろくな社内教育もなくこの工場に送り込まれたようだった.協力会社の日本人スタッフも同じだ.この人たちも日本の一流会社よりの転職で,技術力や知識はあるが,転職後すぐにブリーフィングもなくこの工場へ叩き込まれたようだ.そのせいで,ここの工場のマネージャのかわりに,購買から出荷手配までを,3~4人の日本人スタッフと通訳が行っていたようだ.どおりで,日本人スタッフに初めて会ったときから疲れ果てていて,この祭りを阻止できなかったというわけだ.
 疲れがたまってきたのか,技術力不足か,なかなか不良解析が進まない.とうとうビザが切れる日になった.どうやら後続に,この製品の設計を管理している設計屋が後を引き継ぐようだ.(かわいそうに……)代わりの人間は,俺がこの工場を去らなければならない時間の10分前に到着した.俺は,今までのレポートのコピーを引継ぎ者に手渡し,タクシーに乗った.そのまま,気絶するように寝込んだ.

 日本に戻った翌日,この製品のアメリカから受け入れ検査の結果がやってきた.結果はロットアウトであった.その翌日に俺は,アメリカに飛んでいた.飛行機の中で俺は「以上」感の中で漂っていた.

参考文献
・翔泳社編集部 編,開発の現場Vol.2,2005,ISBN:4-7981-0973-8
・kudzu,笑わないプログラマ,http://s03.2log.net/home/programmer/

Rの良く使う関数・統計関数

2005-10-23 18:37:31 | R 統計
Rの良く使う関数・統計関数

 忘れがちなRの関数をさらします.

記号 意味 記号 意味
sin(x) sin x sum() 総和
cos(x) cos x mean() 平均
tan(x) tan x median() 中央値
asin(x) sin^-1 x var() 不偏分散
acos(x) cos^-1 x cor() 相関係数
atan(x) tan^-1 max() 最大値
log(x) 対数 range() 範囲
Log10(x) 常用対数 cumsum() 累積和
exp(x) exp x prod() 総積
sqrt(x) √x rev() 要素を逆順
round(x) 四捨五入 min() 最小値
floor(x) 少数を切捨 sort() 昇順整列
ceiling(x) 少数を切上 rank() 各要素の順位
trunc(x) 整数部分 order() 各要素の元の位置
length() 要素の数


A System of Profound Knowledge 深遠なる知識のシステム

2005-10-23 18:34:25 | 品質管理
 デミングさんの下記の著書の4章に書かれている,「深遠なる知識のシステム」の内容を,見ていきたいと思います.
 ちなみにですが,この文書の人物の敬称は,すべて「さん」付けで統一しています.
 もちろん,デミングさん以下,博士号をお持ちの人がほとんどです.

1.深遠なる知識のシステムの4ポイント


 まず,この章の初めの部分で,デミングさんが何をポイントとしているのかを見ていきましょう.

 -The new economics for industry, government,
education- Ch.4 -A systen of Profund Knowliedge-

<引用>

Ain of this chapter.
この章の目的.

マネージメントの流行のスタイルは,変革の試練に耐えるべきである.システムは,自分自身を理解することが出来ない.変革は,その外側よりの見識が求められている.この章の目的は,私がProfound Knowledge【深遠なる知識】のシステムと呼んでいるレンズで覗いた【訳注:システムの】景観を与えることである.それは我々が働いている組織を理解するための論理の地図を与える.

The first step.
最初のステップ.

最初のステップは,個々の変革である.この変革は,継続的ではない.それは,深遠なる知識のシステムの理解より来る.個々が変革した時,人生,イベント,数量,人々の間の相互作用の新しい意味に気であろう.
 ひとたび,個々が深遠なる知識のシステムを理解した時,彼は,他の人々とのさまざまな関係の原理を応用するであろう.また,彼の彼自身の決断に対する判断及び,所属する組織の変革に対する基準を持つであろう.個々がひとたび 変革した時,こうなる.

 例として:
 よい聞き手になる.しかし,妥協はしない.
 他の人々を教育しつづける.
 人々の習慣及び信条を取り去り,過去の罪の意識を感じさせずに,新しい哲学に導く.

The outside view.
概要.

 深遠なる知識(Profound Knowledge)の層は,下記の4つの部分に現れ,お互いがお互いに関係している.

 ・システムの理解
 ・バラツキの知識
 ・知識の論理
 ・心理学

 この内で,何か一つの項目が特に必要というわけではなく,これら4項目を理解し,応用できなければならない.産業・政府・教育でのマネージメントのための14ポイント(Out of crisis Ch.2)は,現在の西洋スタイルのマネージメントを,1つの最適に変革するため,この外部知識の応用を,自然に利用している.

Preliminary remarks.
緒言

 この深遠なる知識のシステムの多様な項目は,切り離して説明できない.これらは,お互いに関係している.従って,心理学の知識は,バラツキの知識が無いと,完結しない.
 マネージャたちは,すべての人々が,違っていることを理解する必要がある.これは,人々をランク付けすることとは違う.マネージャは,彼が働いているシステムによる大きな統治が,人それぞれのパフォーマンスになることを理解しなければならず,それがマネージメントの責任であることを理解する必要がある.
 心理学者は,雑であってもバラツキに対するの理解をしているが,同じく,Red Beads(Ch.7)の実体験を学習することにより,人々をランキングする計画の精緻化に参加することは,なくなるであろう.
 後ほどの心理学に関係した説明と,バラツキの論理(統計論理)とは境がない.例として,検査員が抜取検査で検出した不良品数を認識する.(documented by Harold F. Dodge in the Bell Telephone Laboratories around 1926) 検査員は,誰かに不正義なペナルティを与えないように,慎重に丁度ボーダーラインをはみ出た品物を合格にする.【訳注:合格数量にする】(Out of the crisis P.226)
 同じ本のP.225で,300人の雇用を守るためには,不良率を10%以下に保たなければならなかった,その検査員の話が現れている.彼女は,彼らの雇用について恐れていた.【訳注:雇用がなくなるのを恐れていた.】
 教師は,不正義に誰かにペナルティを与えたいわけではないので,ぎりぎり合格ラインを少しだけ割った生徒をパスさせる.
 恐れは,誤った図式を招く.運送人の悪いニュースでは料金が悪くなる.【訳注:悪いニュースを持ってきた人の評価が落ちる.】彼の雇用を守るためには,彼のボスに,いいニュースだけを知らせることである.
 会社の社長が指名した委員会は,社長が聞きたい話を報告するであろう.
 彼らが他の報告を,あえてするであろうか?
 個々は,思わず彼自身に後光が差したか探してしまう.実際には今朝,彼がタブロイドを買って読んでいるのに,彼はニューヨークタイムスをを読んで,リーダーシップの勉強したことを面接官に話するであろう.
 ゆがんだ数値を基本にしている統計の計算と予測は,混乱,フラストレーション,間違った決断を導きやすい.
 会計ベースのパフォーマンス測定は,セールス,売上,コストの目標達成のために,プロセスの不正操作及び,おべっかや,ごまかしの約束をくっちゃべって顧客に必要のない購入をそそのかす行動に従業員を駆り立てる.(adapted from the book by H. Thomas Johnson,Revenue Regained, The Free Press,1992)
 変革のリーダーとマネージャーは,個々の人々の心理,グループの心理,社会の心理及び,変革の心理について学ぶ必要を要件とする.
 安定したシステムへの応用も含む,バラツキの多少の理解及び,バラツキの異常原因と偶然原因に対する多少の理解は,人々のマネージを含む,システムのマネージメントの基本である.(Chs.6,7,8,9,10)

</引用>

2.深遠なる知識のシステムの4ポイントの軽い説明



 上記の訳を見ていただいても解るように,デミングさんの考える,深遠なる知識のシステムとは,下記の4つのポイントで構成され,それらはお互いに関係している(交絡している)と言っています.

 ・システムの理解
 ・バラツキの知識
 ・知識の論理
 ・心理学

 下記に私が理解している上記4ポイントの軽い内容をさらします.

 ・システムとは:
 システムとは,簡単に言うと,入力された事柄(情報やエネルギー)が何かに変換され,出力される体系の事を言います.
 特に,目的を持って作られるものは,人工システムとなります.
 例えば太陽系(英語では,The Solar System)は,太陽や惑星のお互いの位置や重力によって,お互いの位置や運動を決定していますよね.つまり,お互いの位置や重力等が入力となり,お互いの位置や運動等が出力となっているシステムになっています.
  ただし,この場合は,システムの目的は不明です.ただクルクル回るのが目的といえば目的かもしれませんが.
  同じように,工場もシステムです.工場は,営業よりの注文情報,開発よりの図面等の設計情報,サプライヤーからの材料供給等を入力として,工場内部で色々加工して,製品を出力している訳です.
 同じ考え方を当てはめると,会社や政府,その他経済活動やら教育活動やらを行っているすべての物事がシステムになるわけです.
 また,人間が関係するすべてのシステムは,目的を持っているはずですから,すべて人工システムになります.
 (目的が無い(=人の役に立たない)のに,人間が関与する訳はありませんよね.目的がないように見えるシステムでも,実を言うと個人的な楽しみが目的だったりします.)

 ・バラツキとは:
 バラツキとは,簡単に言うと,連続値であるが(長さとか,重さとか)が正確に測定できなくて誤差を含んだ形での処理や,初めからバラバラな値とかの測定・処理の話です.お金とかで考えると,時々経済雑誌とかで,利子や消費税のの切上げ・切捨ての話が出ますが,日本円は実質的に円までの単位なので,銭や厘とかの単位になった時の処理方法によって,かなりの金額が左右される事になります.これらの処理を的確かつ迅速に処理するためには,統計の考え方が必要となってきます.

 ・知識の論理とは:
 知識とは,情報とは違い,その知識使えば将来の予測に役立つ事柄が知識と呼ばれるものになるそうです.例えば電話帳の電話番号は情報ですが,将来の予測には使えません.しかし,これが得意先の台帳になれば,これらの顧客が良く何を購入するかが今までの経験で判っているので,将来の売上予測に役に立つ事になります.
 論理とは,皆さん御存知の帰納法とか演繹法とか,ロジックツリー等に代表される,因果関係等を論じる方法です.
 そして,一般的に注意すべき事柄として,相関関係と因果関係の関係です.相関関係があれば因果関係があるとは言えないとかいうやつです.
 これら,知識と論理を組み合わせ,知識の論理(学習の論理)が出来上がります.そう,これが,デミングさんが強調する「シューハート・サイクル」(日本では紹介者のデミングさんの名をとって,「デミング・サイクル」と呼ぶのが一般的です.)"Plan-Do-Check(Study)-Action"です.
 特にデミングさんは,論理とは将来の予測に役に立つものでなけらばならない事を強調しています.

 PDCA(PDSA)サイクルを知識の論理構築に使用すると,下記のような内容になります.

  • 将来を予測できる論理である.(Plan)
  • その論理より出た予測と,実際の観察の結果との比較が可能である.(合っているかどうかがわかる)(Do)
  • 比較の結果,その論理があっているか,間違っているか判別可能である.(Check・Study)
  • 論理が間違っていた場合,その論理の変更もしくは拡張で論理を改善できる.(Action) (これが出来ないと,その論理を捨てて,新しい論理を採用する必要がある)

 そして,上記のような論理が無いと,予測が出来ない.また予測が間違っているかどうかが分からないため,学習が出来ない.(=改善できない)となります.

 ・心理学(特に動機付け理論):
 心理学の動機付け理論には,色々な学説があります.例えば下記のようなものがあります.(産業心理学からです)
  ・科学的管理法の特に目標及び評価に対する考え方(テイラー)
  ・5段階欲求仮説(マズロー)
  ・X理論・Y理論(マクレガー)
  ・動機付け・衛生理論(ハーズバーグ)
  ・期待理論(ブルーム)
  ・内発的動機理論(デシ)
   など,まだ沢山ありそうです.

 この中で,特にデミングさんが強調したものは,「内発的動機理論」と呼ばれる理論です.簡単に言うと,下記のようになります.
  • 自分の心で発生した動機(これをここでは内発動機と呼びます)の強さは,外部からの刺激(例えば,成果報酬や失業への恐怖等:これをここでは外部誘因動機と呼びます)によって発生した動機の強さに勝る
  • 外部からの刺激が強すぎると,内発動機が破壊される
  • 内発動機が破壊された状態で,外部誘因動機に頼ると,以前より強い刺激でないと動機付けされない(つまり成果給であれば,同じ成果でも,以前より高い給料でないと動機付かない・成果が下がって給料が下がれば動機がなくなってしまう)


 つまり,品質を獲得するための仕事を動機付けるには,「内発動機(仕事への自尊心)」がすべてであり,成果評価や,数値目標等による競争を持ち込む事をことごとく否定しています.
 (ここの所は,デミングさんもかなり感情的になるようで,「競争を強調」する論調に対しては,烈火のごとく怒るようです.ただ,デミングさん自身は,すべての競争を否定しているわけでなく,「内発動機」を破壊しない競争(というか資源の効率的な配分だと思います)に関しては許容しているようですが,私もまだイメージがわかりません.)

その他



 上記4ポイントを考えていくと,何か経済学と深く絡みそうな気がしています.
 そこで,ググッて見た結果,下記論文が見つかりました.

PUBLIC POLICY FOR A KNOWLEDGE ECONOMY

 まあ,ステグリッツさんであれば,結構信用できそうなので,(他のエコノミストは,競争すればすべてOK!!みたいな人大杉)この論文をシコシコ読んでいます.(もちろんステグリッツさんや,他の経済学の入門書を読みながらです)
 でも,経済学って難しい・・・.古典的自動制御理論(古典的システム理論)の100倍は難しいです.でも,経済学は自動制御理論自体を取り込んでいるようなので(後,心理学とか)ここら辺から攻めると判るのかも知れないと思い,今シコシコ復習しています.
 そのうち,これらをさらします.
 (よく考えてみたら,デミングさんは著名な確率・統計学者でもあるので,もしかして,確率過程やら,カルマン・フィルタとかも理解していた可能性もあり・・・急に「以上」感が漂ってきた!!)

参考文献


  • Dening, W. Edwards,Out of the crisis,1986,ISBN:0-262-54115-7
  • Dening, W. Edwards,The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed.,1994,ISBN:0-262-54116-5
  • 吉田耕作,国際競争力の再生 -Joy of Workから始まるTQMのすすめ-,2000,ISBN:4-8171-0338-8
  • 武田修三郎,デミングの組織論,2002,ISBN:4-492-53152-1
  • 高橋伸夫,虚妄の成果主義 -日本型年功序列制復活のススメ,2004,ISBN:4-8222-4372-9
  • DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部,動機付づける力,2005,ISBN:4-478-36081-2
  • 飯田泰之,経済学思考の技術 論理・経済理論・データを使って考える,2003,ISBN:4-478-21048-9
  • 藪下史郎 他,ステグリッツ早稲田大学講義録 グローバリゼーション再考,2004,ISBN:4-334-03272-9