デミング博士のニューエコノミクスって

デミング博士の”ニューエコノミクス”に書かれた内容と,それに関連する内容を,「マターリ」と理解するページ

The Red Beads Part2

2005-10-10 19:47:27 | システムについて
下記は,The Red Beads の続きです.

2.意欲ある作業者アンの考え



 このような状況の下で,人は何を考えるのでしょうか?
 以下にデミングさんが直接意見(クレーム)を受けた内容を訳します.

<引用>

意欲ある作業者アンの考え

意欲ある作業者,名前はアン.この実験の終了直後に,この怒りについての考察を私に意見した.どうぞその考察をレポートしてください.と私は彼女にお願いした.どうぞ私に話した内容を書いてください.彼女は書いた.これは,彼女からの手紙だ.

赤ビーズの意欲ある作業者をしてるとき,私は統計の理論以上のものを学びました.
システムは,私をゴールに向かわせられない事は知っていました.しかし,私は出来る.とまだ感じていたのです.願っていました.
私は,真剣に挑戦しました.私は,責任を感じていました.:ほかの人は,私にかかっている.私の理論と感情がぶつかり合い,そしてフラストレーションを感じていました.理論はこういいます.成功するすべは無い.感情はこういいます.トライすれば出来る.
【この実験の】終了後,私は自分の仕事の状況を考えました.どのくらいの頻度で,人々は自分たちが統制できないこのような状況で,ベストを尽くすことを望むのか?
そして,人々はベストを尽くすのです.その後,彼らが動かし,ケアし,望んでいるものに,何がおきるのか? 少数は,止めるでしょう.抜けるでしょう.
幸運にも,貢献するための機会と方法だけが必要な人々が大勢います.

</引用>

 私なんか,悲しみがこみ上げてきます.だめだと解っていても,「もしかして」という気持ちが人を動かしてしまう.
 詐欺師に騙されないようにとの注意勧告を受けても,つい騙されてしまうのと同じ心理が垣間見れます.
 でも,同じ騙されるのでも,このような管理の騙し(赤ビーズが絶対出てくるのに,「赤ビーズをなくせば給料UP,でも出てくればクビ」というのは,あたりが無いくじのようなものです)は,詐欺のような犯罪行為ではないので,逆に管理自体も正しいと看做されてしまうのではないのでしょうか.でも,いいたくなりませんか?
 「やっぱり詐欺でしょ?」って.

3.実験のまとめ



 上記実験のまとめを見てみましょう.デミングさんは,この章を14のポイントにまとめていますが,ここでは,それを4つのポイント(システムの理解・バラツキの知識・知識の論理・心理学)から私がまとめてみました.


  1. システム:  
    • 手段の固定化  
    • 成果主義(目標による管理)   
    • 監督者は,ただスローガン・説教をしているだけ.(業務への無参加) (実は,監督者と,作業者・検査員とでは,評価システムが違います.監督者は,スローガンや,ZD(無欠点) の日等を作業者に伝えるのが仕事ですから,赤ビーズの数量に評価が直接紐付けされていません.)  
    • 見習い時は,質問等は可能ですが,実作業に入ると,会話も禁止されますから,コミュニケーション自体がなされません.

      
  2. バラツキ:
       
    • 赤ビーズは,人によりばらついているのではなく,その掬った回によりばらついている.(偶然原因)    
    • 人が掬うという作業で,赤ビーズの数量はコントロールできない. (実は,この作業は,単なるサンプリング検査です.検査だけでは,品質を良く出来ません.)


  3. 知識の論理:
       
    • 改善活動がない.(手段の固定化のため)    
    • 一回掬うと,一回評価されてしまうので,これが偶然原因かどうか,確認できない. (回数を重ねてわかる頃には,既に人が入れ替わっているので,気づく事は無いでしょう.)    
    • もし,他人より少しは成績がいい人がいても,なぜ成績がいいか解らないので,改善のヒントにならない.    
    • 他人より少しは成績がいい人だからといって,次の回やその次の回等,将来も成績がいいとは限らない.


     
  4. 心理学:
       
    • 出来ないと頭でわかっていても,ついつい作業をがんばってしまうので,改善までに気持ちが回らない.    
    • 監督者は,目標が達成できないと,スローガン等を押し付ける力を増してしまう. (手段が固定化されているのであれば,なおさらです.)    
    • これが本当の業務なら,多分,喧嘩を売りたくなるか,逃避活動が増えるでしょう(笑).


  5. その他:
       
    • なぜ自社とサプライヤーとが協力しなければならないか,この実験でわかると思います. (値段だけで選んだサプライヤーであれば,赤ビーズの混入率を下げるための選別や,品質への投資をすると思いますか? 値段が合わないと,取引がなくなるわけですから.)



4.赤ビーズのシミュレーション



 Fig.7-2,3に,Rという統計ソフトで,赤ビーズのシミュレーションをしてみました.
横軸は,赤ビーズの数量,縦軸は度数のヒストグラムです.

 Fig.7-2のグラフは,一掬い50個のビーズ(1パドル分)を50回掬った時の赤ビーズの混入個数です.
 何か,ランダムすぎて異常要因でもありそうな雰囲気です.
 Fig.7-3は,一掬い50個のビーズ(1パドル分)を10,000掬った時のグラフです.
 さすがに正規分布していそうです.
(なぜ検査員が20個以上カウント出来なくてもOKかも解ります.)


 Fig7-2 Red Beads n=50 times





 Fig7-3 Red Beads n=10,000 times



という事で,R用のプログラムを下にさらします.(汚くてすみません)

 一掬い50個*50回のシミュレーション
#Red Beads Sample small w/Histgram

product<-rep(0,50) 
x<-numeric(50)
for (i in 1:50){ x<-rbinom(50,size=1,prob=0.2)
product[i]<-sum(x)
} hist(product,xlim=c(0,25),main="Result of Red Beads production n=50") mtext(paste("Mean=",mean(product)," 3sd=",3*sd(product)))


 800(赤ビーズ数)/4,000(赤+白=全体のビーズ数)=20% なので,20%の確率で裏が出る,ひん曲がったコインのコイン投げでビーズの代わりにしています.
(基本的には2項分布なので,50個×20%=10個が平均(最頻値とかいうやつ)ですが,3σとしては±8.5個位あります.
もちろん,裾野は,とても低い確率ですが,50個全部赤ビーズでもおかしくは無いので,時々23個とかも出てきます.)
 式としては,下記のようになります.



5.参考文献


  • Dening, W. Edwards Out of the crisis 1986 ISBN:0-262-54115-7
  • Dening, W. Edwards The New Economics: for Industry, government,education -2nd ed. 1994 ISBN:0-262-54116-5
  • 鐵建治 新版 品質管理のための統計的方法入門 2000 ISBN:4-8171-0342-6
  • 吉田耕作 国際競争力の再生 -Joy of Workから始まるTQMのすすめ- 2000 ISBN:4-8171-0338-8
  • R Development Core Team R: A language and environment for statistical computing.(Ver. 2.1.1) 2005 ISBN:3-900051-07-0
  • 荒木孝治 他 フリーソフトウェアRによる 統計的品質管理入門 2005 ISBN:4-8171-9148-1
  • 間瀬茂 他 工学のための データサイエンス入門 -フリーな統計環境Rを用いたデータ解析- 2004 ISBN:4-901683-12-8
  • 岡田昌史 他 The R Book データ解析環境Rの活用事例集 2004 ISBN:4-901676-97-0
  • 船尾暢男 The R Tips データ解析環境Rの基本技・グラフィック活用集 2005 ISBN:4-86167-039-X


The Red Beads

2005-10-10 19:25:50 | システムについて

7. The Red Beads 赤ビーズ



 Dening, W. Edwards The New Economics: for Industry, government, education -2nd ed.の七章「赤ビーズ」の内容を一部訳しましたので,さらします.

 この文書では,デミングさんのセミナーの内容を見ていきたいと思います.
 個人的には,この文章自体が,デミングさんの細かさ等をあらわしていて,面白く感じています.
 引用だらけですが,著作権とかがあるので,引用にとどめます.
 ちなみにですが,この文書の人物の敬称は,すべて「さん」付けで統一しています.
 もちろん,デミングさん以下,博士号をお持ちの人がほとんどです.

 【】内訳注

1.赤ビーズ実験概要


<引用>

Aim of this capter.
この章の目的.

この章の目的は,いくつかの重要な原理を,実験により教えることである.
この章の終わりには,原理のサマリーを掲示する.

The experiment with the Red Beads.
赤ビーズの実験

私が教えるこの実験では,私が監督者の役をする.「この仕事では,何ヶ月も監督者の訓練を行っています.ですから,私自身が監督者の役をやります.」観客に156Pの告知【訳注:「手順」の項で告知内容が出てきます】をして,反応があった人にボランティアをしてもらう.

Material required.
必要な材料

4,000の木のビーズ,直径3mm:800は赤 3,200は白

50個のビーズが掬えるようになっている,50の穴か窪みのあいたパドル.(あらかじめ工数を規定している.)
2つのプラスチック製の長方形の器(箱),これは,お互いにきっちりと重ね合わせられるようになっている.
(省スペースのために)【訳注:お菓子の箱のように,片一方が蓋になるようになっている.】
このビーズ(プラスチック袋の中に入れている)とパドルは,小さい箱に収まるようになっている:
小さい箱は,大きな箱に収まるようになっている.この私の道具のサイズは:

 大きい箱: 20cm X 16cm X 8cm
 小さい箱: 19cm X 13 1/2cm X 6cm

 納入材料(4,000の赤と白のビーズを混ぜたもの)は,会社の大きな箱に到着する.

</引用>

 上記のように,デミングさんは,とても細かい所まで記録しています.技術屋としては見習うべき所かもしれません,
 が,やはり何か「内発動機爆発!!」の雰囲気が無きにしも非ず.ですが,訳して
いませんが,各パドル(年代・材質や加工別にいろいろなパドルを作っている)で,それぞれのバラツキを求めていますから,材質等で,違う結果が出るのではないかとの疑問を払拭するために,細かくなっている可能性もあります.

<引用>

Procedure
手順

新しい顧客の手厚い取扱いを拡大する会社の方針を,監督者は説明する.
この新しい顧客は,白ビーズを求めている.赤ビーズはいらない.不幸にも,納入材料には,赤ビーズが入っている.
(白と赤のビーズが混じっている)

実験では,10人の従業員を雇うことが必要になる.そこで会社は【訳注:以下のように】広告する:

6人の意欲ある作業者(Willing Worker).最大の努力を惜しまないこと.仕事の継続は,パフォーマンスによる.求められる教育は最小.ビーズを掬う経験は不要.

2人の検査員.白の中にある赤を識別出来ること.20まで数えることが出来ること.経験不要.

1人の検査主任.検査員と同じ項目が出来ること.

1人の記録係.はっきりわかるように読みやすい字を書けること:シャープなこと.

6人の意欲ある作業者が,観客の中から舞台の右に登る.
検査員と検査主任のボランティアが左側の舞台に登る.検査主任をはさんで,No.1とNo.2の検査員が並ぶ.
観客の中から,記録係が舞台に上がる.監督者が彼女に,彼女には,しばらく仕事が無いが,給料支払いはされる.と説明する.
監督者が,3日間の間は,仕事を覚えるために見習い期間とし,その間は,質問してもよい.一度製造をはじめたら,質問してはならないし,感想を述べてもならない;ただ,自分の仕事に専念すること.と説明する.
我々の手順は固定されている.この手順からはみ出る事は無いので,パフォーマンスにバラツキが出ることは無い.
記録係は,意欲ある作業者,検査員と彼女自身の名前を記録する.すべての観客に記録がわかるように,記録用紙がプロジェクターで投影される.
監督者は,作業者に,自分たちの仕事は,自分たちのパフォーマンスによることを説明する.解雇手続きは,とてもインフォーマルに進められることを説明する.単に,【訳注:舞台から】下り,給料を取る.
あなたの代わりに,数百人の人々が待機している.辞任は出来ない.(監督者は,このルールは,ボストンの近くにあるSalem Innにて,実験の半分近くまで進んだときに,辞めようとしたことがあるため制定した.と説明する.彼女は【半分で】十分だったのだ.)
監督者は,作業標準を説明する.各人1日50ビーズを生産する.事実,ただ一つの正しい行いをしている.と監督は観客に説明する.それは,2人の(多すぎる)検査員は独立している.;検査員は,赤ビーズの数を独立してカウントしている.検査員たちは,紙切れにカウントした数を記録している.互いの検査員は,その記録を見ることが出来ない.

ステップ1:
納入材料を混ぜる.納入されたビーズを小さな器に注ぐ.大きい器の幅広い側を握り,コーナーから注ぐ.単に大きい器を傾けるだけである;回したり,振ったりしない.重力がその仕事をする.重力を知っている? 重力はどこにでもあるし,安い.次に,同じ動作で,小さな器のビーズを大きな器に戻す.

ステップ2:
ビーズを生産する.パドルを使い,50のビーズを窪みに入れる.長手方向から指で握り,ビーズの中に入れてかき回す.
そんなに長くかき回さない.パドルを持ち上げ,水平より44°傾ける.すべての窪みにビーズが入っている.

ステップ3:
検査.作業員が生産したものを検査員No.1の所に運ぶ.検査員は,紙にサインと赤ビーズのカウント数を記録する.その後,検査員No.2も同様にする.検査主任は,2人の検査員の記録を比較しする.【訳注:結果が】一致していなかったら,彼らは多分ミスをしている.一致していたら,彼らは多分ミスをしている.彼が納得したら,大きな声でカウント結果を報告する.そして,Dismiss【訳注:不合格・解任】という単語を発する.

ステップ4:
結果の記録.記録係は,見習中はカウント結果の記録をしない.一度,製造を開始したら,検査主任が毎回の検査結果の報告を大きな声で発表し,記録係がその赤ビーズのカウント数を記録し,スクリーンに映し出す.
観客の一人ひとりは,自分で結果の記録を取り,後で,【コントロール】チャートを作成する.
監督は,意欲ある作業者に,ポスターに注目しろと叫ぶ.(Fig18) このポスターは,意欲ある作業者を助けるであろう.

-中略-


</引用>

 当然,この方法であると,奇跡が起きない限り赤ビーズが現れるので,作業者は,みな不良品を作り出していることになります.
 そのうち他の作業者と比較して,赤ビーズが多い人はクビになり,だんだん人数が減っていくことになります.
 Fig 7-1に,コンロロールチャートのサンプルを示します.
 (作成に当たっては,新版 品質管理のための統計的方法入門及び,フリーソフトウェアRによる 統計的品質管理入門,The R Tips データ解析環境Rの基本技・グラフィック活用集, 統計ソフトR(ライブラリ"qcc")等を参照しました.)


Fig 7-1 Control Chart (np chart) for Red Beads


上記のR用のプログラムを下にさらします(汚くてごめんなさい)
#sample for Shewhart charts

library("qcc")

product<-rep(0,50)
x<-numeric(50)
for (i in 1:50){ x<-rbinom(50,size=1,prob=0.2)
product[i]<-sum(x)
} summary(product) qcc( type="np", data=product[1:25],sizes=50, newdata=product[26:50], newsizes=50)

 
 続く

ここら辺の文書について

2005-10-10 19:01:19 | 初めに
 今,いろいろなところで,働いている人々の評価に「成果主義」を取り入れようとしています.
 私の勤めている会社でもそうで,実は私自身,数年前からその成果主義とやらを導入するプロジェクト(人事主導ではなく,部門主導の)をやらされています.
 そのため,私自身,かなり評価やら成果主義やらを勉強してきましたが,どうも腑に落ちていませんでした.
 (というか,頭が受け付けていなかったのです.)
 ある時,突然,「成果主義って昔習った『品質管理』の考えに逆らうんじゃないの?」と思い出しました.

 (実は,私はかなり前に,品質管理の部門で働いていて,その時に,デミング博士の考え方等を「品質管理」の業界紙(?)で読んでいた記憶がよみがえったのです.)

 という事で,品質管理といえばデミング博士や,ジュラン博士,石川博士等有名な方々がいますので,これらの方々の本より,成果主義やら,その他,役立ちそうな内容をメモしていきます.

 ペースは,1ヶ月に一度,なんらか更新できるかどうかですけど,個人のメモ書きなので,気軽にやっていきます.
 (コメント等には反応できないと思いますので,コメント欄は閉じています.
 トラックバックはあいていますので,何かある方は,TBしていただくか,メールでお願いします.)

10/15 追記:メールアドレス書いてなかったです.
 これです:otz0101アットマークmail.goo.ne.jp
 アットマーク部分を,@に置き換えてください.