日本語危うし!
「一気飲みはイヤだったので、断りたかったが、その場の雰囲気の“流れに棹さす”と申し訳ないので、一気に呑んだ」・・・というのが“典型的な誤用例”ですな。
この間違いは非常に多い。良く引例されるのは、漱石の『草枕』の一節、「情に棹させば流される」の意味の取り違え。
【棹さす】《他五》…棹を水底につきさして、舟を進める。転じて、時流に乗る。また、時流にさからう意に誤用することがある。(広辞苑)
つまり、勢いを増す行為を指していう。冒頭の文章は「一気飲みをやって、その場の雰囲気に“棹さして”、ますます盛り上がった」とうのが正しい用法である。
漢字の読みも、誤りが多く、今では半ば認められるようになったものも多い。その過程は、「誤読→慣用読み→公認」という流れを経て、ある程度の時間をかけながら定着して行くものが多いようだ。
譬えは悪いが、押し掛け女がズルズル居着き、そのまま女房に納まり、平然としているようなものだ。
だが、この慣用読み押し掛け女房は、単純に別れ話はできない。実に、複雑怪奇、摩訶不思議。
辞書によっても、その扱いがかなり違う。言葉の持つ幻術ですな。数例を挙げてみる。
利用した辞書
◆注1:【広辞苑第五版第一刷(1998.11.11)、講談社日本語大辞典第一刷(1989.11.06)を利用】
◆注2:下記表示は、「漢字→本来の読み→慣用読み→公認」の順になる。
●音信→いんしん→おんしん
広辞苑、日本語大辞典とも、いんしん、おんしん、両方をともに認めていますが、態度が微妙に異なります。
いんしん:①おとずれ、たより②音信物(いんしんもの=贈り物)の略・・②は広辞苑のみ掲載。日本語大辞典は②の意味を掲載せず。
おんしん:①おとずれ、たより②和文電報の単位・・広辞苑、日本語大辞典とも同じ。
●早急→さっきゅう→そうきゅう
広辞苑は「そうきゅう」とも読むとして、慣用読みのニュアンスを附して容認の態度。
日本語大辞典は、両方を全く互角に認めています。公認の態度です。
●消耗→しょうこう→しょうもう
広辞苑、日本語大辞典とも、「しょうもう」はあくまでも「しょうこう」の慣用読みに過ぎないと明確に指摘しています。
だけど、これは両辞書の編者の感覚を疑いたくなります。日常生活で消耗品のことを「ショウコウ品」だなんて言ったって、通じませんよ。私は「心神耗弱者(こうじゃくしゃ)」なんて言葉に接した経験があるから、たまたま知っていただけ。法律家というのも、妙なところが厳密ですな。
●凡例→はんれい→ぼんれい
広辞苑は「ぼんれい」を全く認めていません。「認めていない」という意味は、誤読としても掲載していません。全く無視です。
日本語大辞典は、「はんれい」の項で、「ぼんれい」の読みを掲げています。誤読の次のステップである慣用読みとして認める態度です。
もっと数多くの辞書を当たって調べると、面白い結果が出ると思います。
ああ、しんど!
平成17年4月21日 YBB
「一気飲みはイヤだったので、断りたかったが、その場の雰囲気の“流れに棹さす”と申し訳ないので、一気に呑んだ」・・・というのが“典型的な誤用例”ですな。
この間違いは非常に多い。良く引例されるのは、漱石の『草枕』の一節、「情に棹させば流される」の意味の取り違え。
【棹さす】《他五》…棹を水底につきさして、舟を進める。転じて、時流に乗る。また、時流にさからう意に誤用することがある。(広辞苑)
つまり、勢いを増す行為を指していう。冒頭の文章は「一気飲みをやって、その場の雰囲気に“棹さして”、ますます盛り上がった」とうのが正しい用法である。
漢字の読みも、誤りが多く、今では半ば認められるようになったものも多い。その過程は、「誤読→慣用読み→公認」という流れを経て、ある程度の時間をかけながら定着して行くものが多いようだ。
譬えは悪いが、押し掛け女がズルズル居着き、そのまま女房に納まり、平然としているようなものだ。
だが、この慣用読み押し掛け女房は、単純に別れ話はできない。実に、複雑怪奇、摩訶不思議。
辞書によっても、その扱いがかなり違う。言葉の持つ幻術ですな。数例を挙げてみる。
利用した辞書
◆注1:【広辞苑第五版第一刷(1998.11.11)、講談社日本語大辞典第一刷(1989.11.06)を利用】
◆注2:下記表示は、「漢字→本来の読み→慣用読み→公認」の順になる。
●音信→いんしん→おんしん
広辞苑、日本語大辞典とも、いんしん、おんしん、両方をともに認めていますが、態度が微妙に異なります。
いんしん:①おとずれ、たより②音信物(いんしんもの=贈り物)の略・・②は広辞苑のみ掲載。日本語大辞典は②の意味を掲載せず。
おんしん:①おとずれ、たより②和文電報の単位・・広辞苑、日本語大辞典とも同じ。
●早急→さっきゅう→そうきゅう
広辞苑は「そうきゅう」とも読むとして、慣用読みのニュアンスを附して容認の態度。
日本語大辞典は、両方を全く互角に認めています。公認の態度です。
●消耗→しょうこう→しょうもう
広辞苑、日本語大辞典とも、「しょうもう」はあくまでも「しょうこう」の慣用読みに過ぎないと明確に指摘しています。
だけど、これは両辞書の編者の感覚を疑いたくなります。日常生活で消耗品のことを「ショウコウ品」だなんて言ったって、通じませんよ。私は「心神耗弱者(こうじゃくしゃ)」なんて言葉に接した経験があるから、たまたま知っていただけ。法律家というのも、妙なところが厳密ですな。
●凡例→はんれい→ぼんれい
広辞苑は「ぼんれい」を全く認めていません。「認めていない」という意味は、誤読としても掲載していません。全く無視です。
日本語大辞典は、「はんれい」の項で、「ぼんれい」の読みを掲げています。誤読の次のステップである慣用読みとして認める態度です。
もっと数多くの辞書を当たって調べると、面白い結果が出ると思います。
ああ、しんど!
平成17年4月21日 YBB