ド・素人ゴルフ@大阪

100叩きのマン振ラー。その片手シングルへの軌跡

ゴルフ場の通常有すべき安全性

2010年04月16日 16時19分58秒 | ゴルフと法律
さきほどpitchさんへのコメントで「ゴルフ場は安全確保の義務がある」と書いたが,何の裏も取っていなかったので,少し調べてみると,興味深い事例を見つけた。

東京地判平成6年11月5日(判タ884号206頁)である。

事例は簡単である。とあるゴルフ場の10番のバックティーにいたところ,隣の18番からボールが飛んできて,目に当たった,というものである。

ミドルホールの18番。Yさんは残り100ヤードの第2打を9番アイアンで打った。そうするとボールはトップして,最初は直進したものの,ドスライスがかかって,右へ。そこの林の隙間を越えていってしまう。そしてそこには10番のバックティーがあって,そこにいたXさんに当たってしまったのである。

東京地裁はYさんの責任を否定する。

まずYさんの位置から10番のティーは木と地形により見えないし,当然Xさんの姿は見えない。そして,Yさんは全くの初心者ではなく,狙った方向と10番ティーは別のところだった。さらに打った後「フォアー」と叫んでいる。

このようなことからYさんはゴルフなどのスポーツにおける「許された危険」として責任ナシとしている。

しかし,東京地裁はゴルフ場には責任アリとする。

まず,10番のティーと18番のティーは非常に近く,しかも18番が右にドッグするところに10番のバックティーがあるという地形になっている。そして10番のトイレの扉には18番からの打球の痕跡が残っている。また,木はあるが,5,6メートルでしかない。

これらの事情を考慮して,次のとおり判断している。

「本件ゴルフ場の10番脇のスタートハウス付近は、18番からの打球飛来の危険性に晒されていた(この場合、打球は10番のプレイヤーにとっては斜め後方から飛来することになる)ものと見ることができるから、ゴルフ場としては、10番のプレイヤーの安全を確保するために、同ホールのバックティーグラウンドの後方に18番からの打球の飛来を防止するための防護ネットを設置すべき管理義務があったものと言うべく、本件ネットの設置以前においては、本件ゴルフ場は、ゴルフ場として通常有すべき安全性を欠いていたものと認めるのが相当である。」(一部改変)

本件は,ゴルフ場にしてみれば,たまたま木の隙間をボールが飛んできてXさんに当たったということができ,ゴルフ場にとってみれば予測できない事故だったともいえる。ゴルフ場もそういう主張をしていたようだ。

しかし,裁判所は「本件打球がたまたま松の樹間を進入してきたもので、ゴルフ場において、そのような進入の仕方自体を予測できなかったとしても、ゴルフ場の安全管理義務の懈怠と本件事故との間に相当因果関係が存することは否定できず、結局、本件ゴルフ場が通常有すべき安全性を欠いていたことによって本件事故が惹起された(設置に瑕疵あるに因りて他人に損害を生じた)ものと認めるのが相当であるから、ゴルフ場の右主張を採用する余地はない。」とばっさり切っている。

この事例からは,ゴルフ場が通常有すべき安全性というのは,非常に高度であり,安全確保はゴルフ場の当然の義務であるといえよう。

なお,この裁判例,面白いことを言っている。

「ゴルフプレイにおいては、自己の技量に応じた注意義務(例えば、ゴルフを始めたばかりのビギナーであれば、ボールを正確に打つことができないのであるから、打ちたい方向のみならず、前方180度に近い角度の範囲に人影のないことを確認したうえでプレーすべきであるが、上達するに従って自己の打球の癖に注意して、行きやすい方向に人影のないことを確認してプレイすべきであると言える。)を尽くしてボールを打つべき」

この判決書いた裁判官,ゴルフ,大好きだろ。


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