松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆NHKから取材を受ける・議員と行政のなれ合いをめぐって

2023-11-09 | 地方自治法と地方自治のはざまで

 NHKの記者の方から取材を受けた。地方自治体の職員が、議員が議会で話すために使用する賛成討論の原稿を代筆しているという事例を取り上げたところ、うちの議会でも似たような事例があるという意見が視聴者から相次いだようだ。

 質問は、そんなケースが、どれくらいあるのか、職員が議員の質問を代筆したり、手直ししたりするケースはどこまでが問題なくて、どこからが問題なのかといったことについて、専門家のご意見を伺いたいということだった。横浜市でも、そんなケースがあるという話だった。

1.私の話は、記者の方の期待(想定)に反するような話だった。おそらく、私の意見は採用されることはないだろう。

 まず、私の体験であるが、議会の質問を代筆したということはない。ここで、代筆とは、読み原稿を書くという意味である。他方、答弁調整はいくらでもある。答弁調整とは、どこまでなら質問に答えられるかを調整することである。言い換えると、課題は認識していても、資源、権限、さまざまな理由からできないことがあり、答弁調整はそれを明確にすることである。

 私からは、地方自治のそもそもの話からした。議会と執行部の関係である。

 地方自治法では、重要案件の最終決定権は、議会が持っている。条例や予算、重要な案件の契約等が議会がウンと言わないと決められない。執行部は、提案と議会が決定したことの執行するのが役割である(細かいことは執行部だけでできる)。これが二元代表制における両者の関係である。

 また議員と行政の政策能力の差は歴然としている。個人対組織の違いである。どんなに優れた議員でも、一人でできることは限界がある。政策課題の多くは複雑である。自分の得意分野ならともかく、行政全般にわたって、一人で詳細にカバーするのは無理である。

 議員から質問があった場合、それに対して、執行部は説明する。事情をきちんと説明し、内容を正しく理解してもらうためである。事情や状況を正しく把握しなければ、正しい判断はできない。その時、できることできないことを説明する。議員の提案を受けて、そういう切り口もあるのか、これならもうちょっと頑張れるかというヒントをもらうこともある。

 この事前の意見交換はおかしなことか。提案者が最終決定者に正しい判断をしてもらうために、説明するのは、どこの組織でも会社でも、あるいは組織間の契約でも、普通におかなわれていることではないか。そうでなければ社長は正しい判断ができない。こちらの意図が正しく伝わらない。会社や組織など社会で自然に行われていることが、執行部と議会の関係で、それがダメという理由がよく分からない。

2.事前調整するから、議場では、すでに決まったことを形式的に言い合うだけの「学芸会」になってしまうという批判が出る。そこに期待するのは丁々発止やり合う執行部と議会の姿である。

 横浜市では、委員会における議論は一問一答だった。そのために想定質問をつくり、私は、答弁者にそれを渡し、想定質問にない質問には、メモを渡す役割だった。

 これは結構緊張する。聞いていても面白いだろう。想定外のことを聞かけれて(数字等)分からないこともある。執行部を追い詰めたよう格好がいいが、そんなことなら、事前に電話をくれたら、わざわざ議会で聞くまでもなく、調べて教えてあげるのにと思ったことが何度もある。丁々発止のようで、見ていて面白いかもしれないが、すれ違いのポジショントークになってしまう場合も多い。これもみせるための「もうひとつの学芸会」である。

3.記者の方に聞いてみると、他の専門家の方の意見では、二元代表制なので答弁調整のようななれ合いをすべきではないという意見も多いらしい。

 しかし、私はそれは、日本の地方自治の二元代表制を誤解していると考えている。地方自治における二元代表制は、共同経営者のようなものである。執行部が提案し、議会が議決し、執行部が執行するという関係は、二人三脚である。連携協力して、自治経営に当たっているのが日本の二元代表制である。

 むろん、立場が違うのできちんとした矜持を持ち、ことに当たるのが前提である。行政に質問文を書いてもらうなどは論外である。繰り返しになるが、日本の地方自治におけるおける二元代表制は、互いの切磋琢磨を基本とする連携協力である。いわば、地域における課題を協力しながら解決する仕組みである。

 他方、相互が独立する二元代表制という制度設計もあるだろう。その場合は、武器対等の原則が必要で、少なくとも議員の給料は今の3倍、それぞれに専用のスタッフを3人くらいつくるといった制度改革が必要である。今の安い給料、扶養手当も退職金もない、健康保険や年金もない、選挙に落ちれば無職になってしまう議員に、過度な要求は無理である。

 議員たるべきは、そのくらいの矜持は持つべきだという意見は分かるが、そういう本人が、率先して議員になってみてから言ってほしい。議員に立候補すると言ったら、きっと、奥さんに泣かれてしまうのではないか。

4.いろいろ話したが、まとめると次のようになる。

・日本の地方自治における二元代表制は議員と執行部は、共同経営者という二元代表制である。執行部が提案し、議会が議決し、執行部が執行する。二人三脚的な連携・協力する制度設計になっている。

・共同経営者として、それぞれの立場や経験を活かして、切磋琢磨し、地域課題の解決のために知恵を出し合う。そのためには、きちんと事情や課題を把握するために、答弁調整的こともあるし、相互の意見交換は積極的にやるべき。

・相互調整をしないから、実務を動かす執行部に話しをせずに、埼玉県の留守番禁止条例のような頭でっかちの条例をつくってしまう(つくっても動かない議員立法。今はこれが目立ってきた)。

・議会と執行部は、それぞれの役割や立場が違うので、執行部の意に沿って質問する必要はない。議員自身の判断で、執行部に質問し、議員間で質疑すればいい。執行部はダメなものはダメと答える。むろん。執行部の考え方の方が納得的なので、それを推し進めるという意見でもよい。非難されるべきではない。

・この判断は、議員の問題なので、議員に任された問題。その際、きちんとした矜持を持って行動するのは当たり前。質問文を書いてもらうなどは論外である(議会基本条例違反以前に人として恥ずかしい)。

・他方、議会と執行部の双方が独立した二元代表制を目指すという制度設計もあるが、これは日本の地方自治の実情には合わないと思う。地方自治の課題は、根本的に対立するというケースはほとんどなく、多くの課題は、さまざまな条件のなかで、一歩でも前に進めるべくアイディアを出すというテーマがほとんど。その際、役割や出自が違う立場からのアイディアは参考になる。

・議会と執行部の双方が独立した二元代表制を目指すという制度設計を目指す場合は、武器対等の原則で、せめて議員の給料は3倍である。住民はその覚悟が必要である。

・議員はボランティアだあるべきだという意見があるが、非現実的だし、妥当性もない。その場合、自らが議員になることを想像してから、言ってほしい。自分が議員になると言い出したら、きっと奥さんに泣かれてしまうだろう。結局、高齢者でお金持ちの人だけの偏った議会になってしまう。

 要するに、地域課題の解決には、議員と執行部が連携すること必要であるが、しかし、そこにはなれ合いが生まれてくる。自らを律しつつ、連携協力するにはどうしたらよいかという問題である。

 まずは「いいまちつくる」という原点を自覚し、それを共通の目標に、それを前面に据えて、議員と執行部が、闊達に議論し、意見交換をする関係をつくることである。

 闊達な議論をしないから、何が論点で、何が課題・ネックなのかが分からない。だから、質問文を書いて欲し、書いてあげるといった話にはなっていく。闊達に議論すれば、自然と質問する事項やその道筋が見えてくるので、いくらでも質問文は浮かんできて、質問文を書いてもらおうという話にはなっていかない。

 そうした「闊達な関係性」をつくることが、賛成討論の原稿を代筆をはじめとする、おかしな癒着を取り払う一番の近道ではないか。

 

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