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聴いたCD バッハ : 平均律クラヴィーア曲集 第1巻&第2巻(フリードリヒ・グルダ)

2024年02月03日 | 古楽・バロック

 

 ここ最近のマイ・ブームである、「フリードリヒ・グルダ」と「バッハ」。

 それが合わさったと言う訳ではではないけれど、フリードリヒ・グルダによるバッハの「平均律クラヴィーア曲集」を繰り返し聴く。

 そしてその結果、いきなり結論からいってしまうと、これがかなり素晴らしい演奏であると分かりました。というか、もしかしたら自分がこれまで聴いてきた「平均律」の中でも、一番じゃないかとも思ってしまうくらい。

 で、それに伴って、グルダってつい先日までずっと「聴かず嫌い」なピアニストであったはずが、気が付けばいつのまにかその過去を忘れ始めている自分がいて、しかも「昔から好きだった」みたいな都合のいいニセ記憶までがなんとなく芽生えつつあるものだから、我ながらちょっと自分に呆れているというか何というか。

 でも、グルダに限らず、世の中の人気なものって当然ながらそれなりに理由がちゃんとあるわけで、このグルダもその例外ではなかったんだなと今回自分が納得しただけのことだよなあ、とも思ってしまったわけですが(笑)。

 で、それはさておき、実はここ1,2日、このグルダの平均律に心を奪われながらも自分の頭の中をずっとモヤモヤとよぎっている心配事(?)があって、それは何を隠そう、過去に絶対的な地位を得ていた「グールド盤」の存在が、今後どうなってしまうのだろう、という問題。

 といって、別に今、この両者の演奏の優劣をつけようというのではないし(そもそも、そういう性分でもない)、それ以前にこの2つの演奏って、どちらも同じくらいの時期の録音で、2人ともちょっと(タイプは違うが)変人だし、ノン・レガート系でピアノの音の粒立ちが美しいタイプの演奏でもあるという点でかなり類似点が多く(曲によってはすごく似たように感じる演奏もいくつかある)、もしかしたら感性的にもかなり似ている同士なのではないか、なんて思ったりもするのだが、しかし類似点があるからこそ逆に相違点も目についてくるもので、この両者にはかなり対照的な面もあるようにも思えてきた。

 で、今のところそれはどういう点かというと、それはグールドのほうが、ちょっと「重たい」のかなあ、ということ。

 この点、気になるのが録音年なのだが、グールドの録音は1962~71年と、足掛け10年にもわたっている。これは、たとえ実際に作業していた時間は飛び飛びだったとしても、ものすごく長い。というか、長すぎるくらいだと思う。

 グールドくらいなら、やろうと思えばあっという間に全曲を録音することも簡単だったように思うけど、でもこの録音期間の長さはきっと、1曲1曲、時間をかけて納得できるベストの演奏を追及した結果のようにも思われる。

 そして、それで出来あがった演奏はいずれもハイテンション。どれも聴いていて面白くてスリリングだし、以前自分もこの演奏を「聖典」みたいに崇めていたのだが、しかし今こうしてグルダの録音を聴いて思ったのは、そこに漂うある種の「余裕のなさ」というか、聴いていてちょっと疲れてくる点。

 何と言うか、昔のデビューしたてのグールドって、もっと天衣無縫で溌剌とした印象もあったのに、ここでは全曲緊張感を伴った演奏の連続で「緩みなし」で「全曲で勝負」している感じで、その結果、ずっと聴いているとこっちの集中力をも消耗してしまう、みたいな点はあるような気がする。

 一方、このグルダ盤は第1巻が1972年4月。第2巻が翌年の1973年4月と、どちらも一カ月のうちに収まっている。時期的にはグルダのほうが遅いわけだし、当時グールドはすでに世界的大スターだったからイヤでも意識はあったと思うのだが、こちらは全曲入念に仕上げて、ということでもなくてある程度割り切って、その時でこの曲はこの感じで行こう、というような演奏だったのだと思う。

 そしてその結果、グルダ盤を一聴してまず感じるのは、その風通しの良さというか、ある種のリラックス感。 

 当然、グルダもすごく熱心に平均律を研究しているだろうし、創意工夫もスゴイと思うのだが、しかし何もかもを突き詰めるのではなく、どこか突き放しているところがあって、聴いていて暑苦しさというものが少ないし、無理に聴き手の心を掴みにいっている様子がない。

 そして、粒立ちのいい音を追っていくことが心地よいのに加え、けっこう曲によって演奏のタイプも違うものが混じっている感じも、堅苦しくなくて好ましく感じる。聴いていて、こちらの心が解放されるというような雰囲気がある。

 実はさっき、ちょっとYouTubeでグルダのコンサートの動画を見つけて見ていたら、グランドピアノの横に電子ピアノも置いてあって、その電子ピアノで平均律を弾いていたりして、それ自体はあまり感心しなかったけど(グルダはグルダで、自分のイメージを守るために自己演出をしていた面はあるようには感じた)、でもそういう姿勢があるからこその、この「軽さ」があるのではないかと、ちょっと感じたのだった。

 で、突然変な話を言い出して恐縮だが、あえて2人を料理人に例えるなら、田舎のぽっと出だが斬新な料理で一躍スターダムにのし上がった天才シェフであるグールドがいて、今や巨匠になった彼は今度はどんな新作を出すのかいつも注目されていて、誰の舌も納得させる分かりやすい味の料理を作る必要に迫られ、それを全力で作ろうとしている。

 一方、こちらは名門出身だが、どこか飄々としていて、普段から真面目なこともやるが、伝統に反抗するように変なことばかりやっている。しかし、いざ料理を作るとなると、見た目の派手さはなく特別なことは何もやっていなさそうなのに、ヒョイとスゴイ感性でスゴイ料理を作ってしまう、こちらも天才のグルダ、みたいな。

 ・・・と、何だか今日は筆が止まらず脱線気味になってしまったが、でも要するに何がいいたいかというと、グルダの平均律が思った以上にすごく良かった、ということだけなんだけど(笑)。

 でも、これって、すでに10代の頃から存在を知っていた演奏で、実際にこうしてじっくり聴くまでにめちゃくちゃ時間はかかってしまったけど、こうしてクラシックを聴き続けていたおかげでたどり着けてよかったなあ、なんてことも思ってしまった盤でした。

 (ちなみに、ここ最近はグルダに限らず、どちらかというと「第2巻」ばかり聴いてしまいます)

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