Le Chant Du Serpent | |
Fremeaux & Assoc. Fr |
Michel Godard (Serpent, tuba, ophicleide) Linda Bsiri (voice) Marta Contreras (voice) Catherine Dasté (voice) Armelle de Frondeville (voice) Jean-François Prigent (voice)
久しぶりにミシェル・ゴダールを聴く。
ミシェル・ゴダールというのは基本的にフランス人のチューバ奏者なんだけど、メガネとモジャモジャ頭にヒゲ、そして横幅の大きい、いかにもチューバという楽器を吹くのに適しているように見えるおじさんで、主要な活躍場所はフリー系のジャズといったところでしょうか。
で、普段そういうジャンルのCDを聴いているとけっこうよく見かける人で、自分が主役の盤もけっこうあるし、かなりいろんなところに顔を出してもいて、参加盤となるとすごく多いんじゃないかと思います。そしてこの人の代名詞といえば、何と言っても「セルパン」という古楽器。これは、チューバの祖先の楽器で全然ちゃんとした楽器なんだけど、とにかく見た目が強烈。黒くて曲がりくねっていて、ホントに黒い蛇(フランス語でセルパンは蛇)のように見える。で、この人が以前はほとんど廃れていたらしいこの楽器を取り上げ、さかんに演奏して復活させているというわけ。
音楽的なジャンルとしては、往古のヨーロッパの古楽のジャンルから現代音楽的な要素、世界の音楽などを融合させてかなり独特な雰囲気(しかし、聴きにくくはない)の音楽を作りだしているという感じだけど、やはり一番の魅力はというと、チューバやセルパンの持つ、太い低音の響きに尽きるかなあと思います。特に、日本なんかの風土からするとこういうボリュームのある低音の文化はなかなか出てこないと思うし、こうして久々に聴くと、ああ、やっぱり時間的にも空間的にも遠いんだなあというか、ある種の「異界感」みたいなものさえ感じてしまう。
で、この盤については、ぼくが見たのは今回初めてだったけど、録音年(1989年)からして彼自身の作としてはかなり初期のものかもしれない。構成としては、恐らくどのトラックも多重録音でゴダールがチューバ、オフィクレオド(セルパンからチューバに変化する途中に現れた楽器)サーペントによる低音のみのアンサンブルを奏でていて、そこに女声ヴォーカルが入るという感じ。音色が色々違うので、恐らくチューバも一種類じゃないかもしれないし、女性ヴォーカルは語りっぽいトラックがあったり現代音楽ぽかったり、曲も自作のほか即興っぽかったりジスモンチの曲や女性ヴォーカルの一人が作った(っぽい)曲があったりと変化も豊富。それと、ヴォーカルの中には女声のような男性の裏声の人もひとりいるみたい。
全体の雰囲気としては、ジャズというよりもチューバ自体がクラシックの楽器だし、女声ヴォーカルもクラシックの匂いが強いので、古楽のアンサンブルがある企画として現代的な試みをやっている、という感じに近いかも(まあ、この人の盤は大体こんな感じというか、雰囲気が似ているんだけど)。
実はこのゴダール、過去には他の盤であまりピンとこない盤もあったりしたのだが、この盤に関しては女声とチューバのみという構成がかなり功を奏して耳に残ると思うし、やはり初期の盤で活きがいいという面もあるのか、何だかついつい繰り返して聴いてしまった。
それと、この人の音楽を聴いていていつも思うことのひとつは、ヨーロッパにはこういう変わった人が(ぼくが知っているのはほんのわずかだと思うが)たくさんいて、そういう人の存在が、ヨーロッパの音楽の厚みに一役買っているのだろうなあ、ということ。これは、かなりうらやましい。