(曲目:Raga Durga , Raga Bhupal Todi , Dhun)
その日、中古店でこのCDを見つけた時のぼくの顔のニヤけ具合というのは、ホントにただ事じゃなかったのではないかと思うのです。
これは、「バンスリ」と「ジャルタラング」という2つの楽器によるジュカルバンディ(デュオ演奏)のディスクで、バンスリ(竹製の横笛)のほうはインド音楽ではすごくメジャーな楽器なんだけど、もう一つの「ジャルタラング」なる楽器については、この時までまったく存在を知らなかった。
しかし、店でCDのジャケットを一瞥しただけで(実は「ジャルタラング」の奏者(DULAL ROY)の右半分は値札で隠れていて見えなかったんだけど)何が行われているかはあまりにも明らかで、これは何があろうと絶対に逃してはならないと、即座にレジに向かったわけです。
で、その「ジャルタラング」とは何かと言えば、実は水を張ったたくさんの茶碗を自分の周りに半円に並べて棒で叩くという、恐るべき「根源的」な楽器。こんなこと、誰でも子供の頃に一度はやったことがあるはずで、つまり「箸の国」で育ったぼくたち日本人は、ある意味、ほとんど全員が「経験者」ともいえるような楽器なわけです(ついでにいうと、ステファン・ミカスの植木鉢も、これとまったく同じ発想)。
で、驚いたのは、ネットで調べてみると、このジャルタラングというのが、実は「インド最古の楽器」だという文章が出てきてしまったのです。
実はそれまで、ぼくが最古の楽器だと思っていたのは、同じインド音楽にも使われるサントゥールという楽器でした。これは、平たい箱のような胴体の上にたくさん弦を張って小さなバチで叩くという、似たような楽器が世界中に広がっていて、ピアノのもとになったとも言われる楽器なんだけど、これが「リグ・ヴェーダ」にも載っている(文献で確認できるものとしては)世界最古の楽器なのだという説明を、インド音楽の本などで読んだ覚えがあったのです。
しかし、このジャルタラングは、言われてみるとサントゥールよりも一層単純で、どちらかといえばこちらのほうが古そうに思える。で、あるHPにはこのジャルタラングがサントゥールの祖先だとする説があるというようなことも書かれていて、ということは、ピアノの起源というのは茶碗を箸で叩くという行為にまでさかのぼることになるのかという、もともとピアノ界の住人であるぼくにとっては、何か心穏やかではいられない推論までが導かれてしまったのでした。
で、このCDのジャルタラング、音色も非常にチャリリンとしておもちゃのような邪念のないかわいさがあり(使う茶碗によって、当然ちがってくると思うけど)、ちょっとした早弾きのワザもほほえましく(なにしろ茶碗を棒で叩いているだけだし)、バンスリともよく合っていて、演奏としてもすごくいい。
・・・それにしても、まさか茶碗でラーガを聴くなんて、夢にも思わなかったなあ。(2007.8.25)
(追記)
うぉお~! これは一体何ナンだ~! 先日(2008年夏)、こんなLPを見つけてしまったのですよ~!

ズバリ、上のCDとまったく同じ内容。写真も、背景は差し替えていますが人物の部分は明らかに使い回しです。CDには「C&P 1995」としか書いてないから、まさかこんな古い録音だとは思わなかった。
まあ、日本中探したってこんなレコードにうれしがるような人間はほとんどいないだろうけど、しっかし、まさかこんなモノに出くわしてしまうとは・・・! しかもこれが目の前に現れたのが、某レコファンの「ジャズ・コーナー」というんだから、これは「何かの因縁」というか、むしろ「向こうからわざわざぼくのところにやって来たんじゃないか?」という考えさえ頭をよぎってしまう。
いやあ、ホントにビックリしてしまいました。しかもこのLP、裏面の左上に『EXPO’70』『万国博記念直輸入限定盤』なる手書きの紙切れが貼ってあって、これがなぜ日本にやってきたのかという理由が分かってしまう。そして、「インド館(でいいのか?)」では、やっぱりこんなインド音楽のレコードが流れていたり、売られたりしていたんでしょうか。いやあ、ちょっと興味をそそられます。
このLP、中古としてはちょっと高かったし、日頃CDとLPをダブって買うことなんてまずしないんだけど、しかしこれだけは迷わず買っちゃいました。いやあ~、こんなこともあるんだなあ。