今日は、久しぶりに映画の話。
アラン・タネール/監督、ブルーノ・ガンツ/主演の「白い町で」(1983年)です。
</object>
YouTube: Dans la Ville Blanche (Alain Tanner, 1983)
実は先日、何気なく深夜のアクション映画を途中から観始めて、もう後半らしいのでとりあえず内容をチェックしたところ、思いがけず名前を見つけたのが俳優・ブルーノ・ガンツ。そこで改めて映画に目を向けると、まさにさきほどから画面に映っている老人こそがブルーノ・ガンツ本人だった。
いやあ、その映画は2010年作ということで、まだ現役でやっていると分かって喜んだ一方、やはり昔とはだいぶ変わっていて、もしそうと知らなかったらこの老人がブルーノ・ガンツだと最後まで気づかなかったんじゃないかと思うと、ちょっと寂しい気分にもなってしまった。
・・・で、そのブルーノ・ガンツで長い間心にひっかかっていたのが、この「白い町で」。一言でいうと、これは中年男の倦怠の映画で、今となってみるとかなり主人公の心情も見えてくるのだが、以前観たのはまだ20代の頃。当時はあまりよく分からなかった。
ただ、分からなかったけど不思議と印象には残っていて、ずっともう一度観たいとは思っていた。まあ、実はDVDではまだ未発売らしいので、レンタル屋で一度も出くわさなかったのも当たり前だったわけだけど・・・。
しかし、そのレア(?)な作品が、気づけば今Youtubeでアップされていて、英語の字幕もあるので、何とか台詞も分かる。
で、さっそく見てみたところ、あまり覚えてない部分もあったけど、大まかには昔みた印象のままで、やっぱり懐かしい。そして、何と言ってもこの映画に出てくるちょっと昔のリスポンが、たまらなく美しい。
実は、街並みという点では、ポルトガルは個人的に一番好きな国のひとつ。もう何というか、この国にはほかにはない独特のひなびたような感じがあって、特に細い路地の風情などが素晴しい。
これが同じヨーロッパでも、もっと北の国だと整然として冷たすぎてあまり好きじゃないし、同じ南欧の国でも、やっぱりイタリアともスペインとも比べてみるとぜんぜん違う。そして特にこの映画では、映画の中で普通に映るリスボンのほかに、主人公が8ミリ・フィルムで撮る粒子の粗い映像がまた美しくて、本当にしびれてしまう。
ぼくにとってこの映画は、ブルーノ・ガンツの映画であるとともに、リスボンという町の映画なのだ。まあ、Youtubeということで、あまり画質などはよくないけど、久しぶりに得がたい時間を過ごすことができた、という感じだった。
・・・でまあ、せっかくなので、最後に作品自体についても少しだけ。
まあ、この映画は、日常の生活に倦んだ中年の船舶の機械工が、たまたた停泊したリスボンの町に魅せられて留まり、地元の女性とつきあったりするほかはまったく無為にぶらぶらするというもので、作品の主題自体はそれほど珍しくもないと思うんだけど、それをドイツ人(スイス人?)とポルトガルという舞台の組み合わせでやったところが絶妙で、例えばこれをドイツ人がドイツ国内でやったとしたら、非常に内省的で暗い映画になっただろうし、またブルーノ・ガンツの主人公がインテリでなく、陽気で明るい性格の設定にしたことも、もしもそうでなかったことを考えると、かなりミソだったように思う。
そして、その主人公がリスボンという蜃気楼のような白い町に迷い込み、仕事も捨てて無為にさまよう様子も、全体的に悲劇的な色調ではなく、むしろ若干喜劇性があることも、見逃せないところだと思う。実際、ここで主人公は、つねに悲劇と喜劇の境目を、行ったり来たりしているように感じる。また、作中で印象的なサックスの旋律も、短調かと思えば実は長調だったりするし・・・。
そう、短調かと思えば、長調。
思うにこの映画は、そんな一種の幻のような浮遊感の中で、少なくとも主人公と同じくらいの年齢に達して人生の倦怠というものを理解できるようになった受け手が、しばしの間、主人公の心情に同情したり、たまにニヤニヤしながら見るべき映画なのだと思う。
実は、かなり大人の映画だったのだ。20代の自分にはちょっと難しかったなあ・・・。
(追記:2014/09/04)
古本屋で、このような本を発見してしまいました。著者も、やはりこの映画がお好きなようです。まだ読んでいませんが。
![]() |
白い街へ―リスボン、路の果てるところ 価格:¥ 2,376(税込) 発売日:2002-03 |
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます