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君、変わってるね ②

2022-06-12 | エッセイ

 皆美容院って行くじゃない?行かない?行くでしょ?今は俺、決まった所に通っているんだけど、行き付けってやつ?へっ。んで、その前は何処に行っていたのっていう話なんだけれども、転転としてたんだよね。ジュクハラとかギロッポン、ブヤシーとか、タンダゴ等々、タンダゴって何やねん。とにかく様々な美容院の様々な姉ちゃんに髪、お願いしていたんだけど、俺、美容院に行くと、或る癖が発動しちゃうって云うか、それは何かと言うと、シャンプー、あるでしょ。あのマッサージ・チェアーみたいな大仰な椅子に坐らされて、背凭れイズバック。何や顔面に四角形の紙きれ乗せられて不謹慎ながらに云うと「わしゃ、死人か」みたいなやっつ。ほいではじめてシャンプーが可能になるらしいのだけど、あれおもろない?シュール過ぎない?あっ、シュールってのはシュールレアリスムの事ね。その余りの異様さ奇異さに、そのような状態に自分が陥った時、はっきりいって小生は耐えられなかったね。気が付いたら、拙者はうっきっきっ若しくはうっひゃっひゃなどと阿呆の如く莫迦の如く、それは又雌をまえに発情しきった猿の如く笑ってたってモンさ。モンキーさ。もう止まらなかった。

 そのように猿化した挙げ句、話にならんわと俺はいつも髪を切れずに店を出る。そんな具合なので、結果何時も帰宅してから自身で自身の髪を切る羽目に為り、その日一日は笑いが止まらない状態であるからして手が震え、ハサミーが震え、そういう訳で俺はいつも珍妙な髪形をして居る。そうそう、何故そんな小生が今行き付けている美容院に行き付けているのかと云うと、そちらの美容師がこれ優秀で、毎度俺がシャンプーのタイミングで破滅する事を存じ上げておられるので、俺をあの大仰な椅子に坐らせて、背凭れをバック、顔面に例の紙片を乗せると迅速に更には無言で出入り口迄移動、ドアーを開いて待っていて呉れるからで、是れによって俺は笑い始めてから最短時間最短距離で店を出る事が出来、面映ゆい思いをせずに済むからで、毎度店を出る際ドアー付近でそのような敏腕な姉ちゃんに謂われる事が在って。「君、変わってるね」


君、変わってるね ①

2022-06-11 | エッセイ

 人の云う所、世俗には変わっておられる人物と変わっておられない人物とが存在して居るらしく、しかし自分の事を変わっておられるつまり「俺は変わっている。珍奇である。従って、ちょい、ちみらの様な愚民とは何もかもが違うって云うか、同じ人類っていうだけで恥っていうか、厭なんでもう死んで下さい、マジで」なんて云う者がおればそれは大馬鹿者で自分の事を変わっている、珍奇である、珍妙であるなどと思い込むのは本人の自由って云うか、それをむやみやたらに言い触らしたり吹聴、豪語するのがあかんわけで、以上の事を踏まえて自分の事を話すとすれば俺は変わっているのである。珍奇。珍妙。イエイ。

 いや、ちゅうか、中華、俺が思っているってより、周りがそのように思ってるらしいんだよね。言わしてもらうけど。この前だってね、友人と飯屋に行った際その帰り駅まで其奴を自家用車で送った訳よ、へっ。んで俺ね、車を運転する際は必ず手套を着用するんだけど、あ、手袋の事ね、英語でグロオブって云うの?知らんけど。初めっから手袋って云えば分かりやすい上文章量を減らす事が出来たし、この件に関しては本当に申し訳が立たねぇって云うか、とにかく御免ね、ヒヒ。反省してる。

 ほいで、それが友人的には慮外だったみたいで、あっ、まあ予想外って事ね、で滅茶苦茶笑われた。「君、変わってるね」


路上ライヴ(表現の極意・体現者) ②

2022-06-10 | エッセイ

 しかしこの兄ちゃんたるや、俺はこのような人々犇めくプレイスでこのようなうす汚ない田舎国ジャパンにてそれに相応しいなりをしこのように夢とギタァを抱え込みながらこのような現代社会に於けるストレス・不服・わけの分からない焦燥に苛まれているであろういまこの俺周辺の人類をミスター・チルドレンなどの楽曲によって激励、希望を与え救っているのだよ、ふはは、聞け聞け、俺の歌を。あぁ気持ええ!満足じゃわい!といった具合なので、君、人の曲ばかり歌わんと、自分のメッセージ届けなあかんのちゃいますの、表現っちゅうんは自分の考えを伝えなあかん。このように。と俺は背嚢より自身で拵えた詩集を引っ張り出して大声で此れを朗読。

 するとどうだろう、人々が歩みを中断して当方を一斉に御覧なすった。これや。これぞ表現や。見てみい、純度一〇〇%のメッセージっちゅうんはこのように仰山な人の心を打つもんなんじゃい。はは。みな感極まって立ち尽くしておるわ。ひひ。あぁ気持ええ、満足じゃわいっ。

 ほいで、暫く此方のそんな具合を拝見していたいかついおっさんが、こちらへ歩み寄って来たものだから「なんや、感激して握手でもして欲しくなったんか」と手を差し出すと先方も手を差し出して来たは良いがそれは握り拳で、俺の顔面を命中。「うるさいんじゃ、ボケェ」俺は後ろに倒れ込み曇天を仰いだ。

 そうか。いや、これで良いのだ。これが表現や。自分を表現したら厳しい批判を受ける事も在る。でも、だからと云って、人様のもの(表現)に逃げるなや。自分の有態の気持に心打たれてくれる人は必ずおる。その様な人が居る事を宝のように胸中で大切にしたらええんとちゃうか。とカバーの兄ちゃんに声を掛けたがそこに兄ちゃん既に居らず雑踏は再度動きを取り戻し、俺は誰にも聞こえぬ様な小声でミスター・チルドレンを歌い己を激励した。


路上ライヴ(表現の極意・体現者) ①

2022-06-09 | エッセイ

 てな訳で俺は無職。へいっ。無職は無職らしく街中でふらぁとしながら闊歩しておると、歌が聞こえて来た。聞いた事が在る、有名な曲で在る、かといって勘違いしちゃあいけないよ。有名な曲だからと言って、そこに有名な曲を作った有名な歌手がおるのかと云えばそうでは無く、なら誰がそこに居るのかというと、誰も知らない、頭髪などを金などに染め上げキャップなどを冠っただぼぉとした衣服などを着用なさった若い兄ちゃんなどである。と言うか、兄ちゃんである。

 俺は怒った。腹が立った。何故にして此奴は人様の曲を恰も自身で拵え拵えたのだから歌っておるのだという面持・風貌・様相で不特定多数のヒューマンが往来するこの様な場に於いて恥ずかし気も無しに歌っておられるのだ。ぼかぁ理解出来ませんよ。だってね、それ兄ちゃんの曲ちゃーいまーすやーん。

 いや、言いたい事は分かりまっせ。旦那。人の曲だろうとな、若者が一所懸命練習してな、気持込めて人前で立派に歌ってますやんかぁとか何とか。ボケ。何でカバーやねん。いや、カバーは大切俺には分る。表現とは何事もカバーから始まるもんやねん。先ずカバー。カバーして、こう云うのええなってやつ、カバーして、盗むんや、ええなって部分を。真似るんやないで、盗むんやで。ほいで自分の中で消化、つまり自分の武器にする訳やさかい、もうこの喋り方辞めてい?

 そうやってカバーして盗んだ武器を、自分のスタイルに落とし込んで行くっていうか、そうやって表現し続けた末に自分だけのオリジナルなスタイルが出来ていくって云うか、そのオリジナルってのも此れつまり元はあこがれとかそう云うののカバーから始まる訳で、オリジナルって云うと語弊が在るのかも知らんけど、結局、何が言いたいのかというとカバーってのは表現なるものの「過程」であって、カバーで安住して自分を表現していると思い込むのはこれ実にナンセンスであるという所。


独り、恐慌 ②

2022-06-08 | エッセイ

 これ周りを見て再度絶望。焦燥。と云うのは同級の人等、就職などしておるではないかっ。これ由由しき事態で、俺っち、学歴ナシ、作品売レズ、ハハキトクスグカヘレ、是れに比べ奴等大卒、就職のち出世、倖わせハッピー。わお。こりゃあかんやんけ。是れ気付いた時既に、俺はインターネッツで求人サイトを立ち上げ「正社員求ム」の求人に応募、自家用車で時速120kmなどを出し、面接を受けたのである。(駐車場料金一六〇〇円/一時間)

 結果、採用であった。俺は安堵した。愉悦した。享楽した。これで奴等と同じ土俵に立った上更に芸術の能力が在る俺の方が有利で、こんど靴でも舐めてもらおうかしらん、そう云えば俺の就職先と言えば美術出版社なのだよわれ。かっこいいだろう、風雅だうん。仕事内容?何か営業とか言ってた気がするなぁ、まあそんなことどうでもいいって云うか、この美術出版社っていう響きがすべてっていうか、だって俺って美術・芸術の体現者っていうか、ぴったりだよね。とかなんとか、数日後、俺は初回勤務日を迎えた。

 は?電話営業。美術刊行物、それも公募展入賞・入選作品集かなんかの入賞・入選者一覧に在る電話番号各種に只管電話をかけ続けろとな。ほいでうちで個展をやらぬか本を出さぬかと勧誘しろ。契約しろ。しかし電話先の君は君でそういった営業の勧誘などうんざりで、間に合ってるわ、ボケェ。と無慈悲にあしらわれる有様。

 そりゃそうである。先ずこちらも作品すら碌に知らぬ先生殿に恰も存じ上げたうえで白羽の矢が立ったなどと空音を述べるのは当の先生方に、そして何より美術に対して大変な冒瀆でありつまりこの行い・仕事によって美術をより良い感じで盛り上げて行こうなどと言うのは矛盾しておるのであり、それは一介の表現者・芸術家の端くれたりともプライドが在り、そのプライドが許さないのである。けれどもこの会社はそのような言い分など聞いちゃくれなく、というのは当然でそれが社会なのだよこの戯けがっ。そうして20回程電話したタイミングで俺はクライ。破壊。後悔。結局一件も契約を取れず帰宅、部屋でオペラ。

 つぐのひ、俺はさくじつと同じ地点に出勤するために家を出た。バスに揺られ、電車に揺られ、しかし気が付いたら俺は所期の目的地では無い東京駅なる駅で下車、皇居の周辺を徘徊、なんか良い感じの公園、なんか良い感じの開けた芝生のスペースが在ったのでそちらで寝そべり会社に欠勤すなどの連絡は入れず、木々が風に煽られる様子、流れる雲の様子、ベンチに腰掛けるふたりの女子社員の様子をぼうっと眺めながら一切が過ぎるのを祈るような気持で待った。

 「明日からどないしましょ。」俺は一人呟き、再度無職になった事については考えず、ただ只管に帰って唄うオペラの曲目と来月末に会う約束をしている同級の効果的且つ芸術的な靴の舐め方について思考を巡らせていた。