
行きはよいが帰りはつらい。
通勤電車。
行きは当駅始発の電車に乗っているので、
すごく快適だ。
しかし帰りはそうはいかない。
多くの他人と密室で、
息のかかりそうな距離で過ごさなければならない。
イヤフォンから漏れる聞きたくもない音楽。
開きっぱなしのだらしない口で、
クチャクチャとガムを噛み続ける咀嚼音。
ここはお前の部屋かと思うほど
普通に携帯電話で会話しちゃってるやつ。
うたたねしている親父のヘッドバッド。
仕事でストレスを感じ、
帰りの電車でもストレスを感じ、
そうしてたまりにたまったストレスの行き場もなく、
行き場のないストレスが鼻毛のメラニン色素を奪ってゆくのだ。
家に着くのは深夜1時を過ぎ、
夕飯を食べて、
一瞬ボ~っとして、
お風呂に入ったら3時を過ぎる。
明日も仕事だから4時までには寝たい。
自宅で活動している時間は正味2時間強ということか。
なんとまあ。
こんなことでは子供が生まれても、
接する時間があまりにも短すぎる。
そんなの嫌だ。
お金もなくなって、健康も損ない、
世界中のすべての人から嫌われたとしても、
命をかけて守り、守られ、支えあっていくもの、
それが家族だと私は思うのだ。
だから家族とはなるべく長い時間一緒にいたい。
昨年母方の祖母が亡くなったときに私の母は、
「やっぱり親が死ぬって特別だわ。
旦那が死んでもこんな気持ちにはならない気がするもの。
血がつながっているのと、つながっていないの違いかねぇ~」
などと言ってくれた。
嫁にとっての旦那、
旦那にとっての嫁、
そしてそれぞれの親。
家族は家族でも、
やはり血のつながりは越えられない壁なのだろうか。
この先私の父が大往生を迎えた際には、
(父と母のどちらが先に逝くか分からないが)
もう一度聞いてみよう。
あのときおふくろはこんなこと言っていたけど、って。
「やっぱり親の方がきつかったわねぇ~」
なんて笑顔で答えそうで怖い。