映画やテレビドラマの登場人物が、
寝ているときに悪夢にうなされて、
飛び起きるというシーンを目にしたことがあると思うが、
所詮フィクション、いくら恐ろしい夢を見たからといって、
現実に飛び起きるわけないじゃないかと思っていたのだが、
どうやら人間は本当に飛び起きる。
インフルエンザの熱に侵されていたとき、
普段見ないような変な夢をたくさん見た。
寝たり覚めたりの繰り返しで、
奥さんからも「うなされてたよ」と言われた。
そんな夢のひとつ。
夢の中でも私は体調が良くなくて、
自分の布団に寝ていたところ、
傍らに母の姿が見えた。
母は私の右側にうつ伏せた状態でいて、
仰向けに寝ている私の首に両の手をかけ、
ゆっくりと、本当にゆっくりと力を加えてくる。
母の顔は憎悪に歪んでいるとかそういうことはなく、
逆に優しく微笑んでいるような顔で、
それでもゆっくりと私の首を絞める。
いま楽にしてあげるからね
母は無言だが、そのとき私はそう受け止めた。
次第に苦しくなってきて、
しかし抵抗しようにも体に力が入らない。
母は微笑んでいる。
首もジワリジワリと絞まる。
苦しい
死にたくない
本当に死にたくない!
やめて!!!
と心の底から強く願った。
力の入らない他人のような体の奥底に、
わずかでも自分の意志とつながっているやもしれぬ
小さな種みたいな力の源を大きくしたくて、
私は言葉にならない叫び声を上げながら、
上半身を母とは反対方向(左側)にひねるようにはね上げた。
夢の中で起きたはずのその行動が、
現実の世界でも起きていた。
奥さんは「外でどっかの親父が叫んでるのかと思った」と言った。
どっかの親父ではなく、
別室で実の母に殺されかけた旦那の声だよ。
夢の中だけど。
飛び起きたときの心地といったら、
本当の地獄へ落ちたら、
きっと毎日こんな思いをするに違いないと思うほどのものだった。
苦しさと、悲しさと、気だるさ、
温かさや明るい光が一切射し込まない、
負の資産だけで構成されているそんな世界に
落ちた気がした。
その晩、眠ることが、夢を見ることが本当に怖くて、
どうしたもんかと真剣に悩んでしまった。
悪夢にうなされて飛び起きる。
実際にあるんだ。
寝ているときに悪夢にうなされて、
飛び起きるというシーンを目にしたことがあると思うが、
所詮フィクション、いくら恐ろしい夢を見たからといって、
現実に飛び起きるわけないじゃないかと思っていたのだが、
どうやら人間は本当に飛び起きる。
インフルエンザの熱に侵されていたとき、
普段見ないような変な夢をたくさん見た。
寝たり覚めたりの繰り返しで、
奥さんからも「うなされてたよ」と言われた。
そんな夢のひとつ。
夢の中でも私は体調が良くなくて、
自分の布団に寝ていたところ、
傍らに母の姿が見えた。
母は私の右側にうつ伏せた状態でいて、
仰向けに寝ている私の首に両の手をかけ、
ゆっくりと、本当にゆっくりと力を加えてくる。
母の顔は憎悪に歪んでいるとかそういうことはなく、
逆に優しく微笑んでいるような顔で、
それでもゆっくりと私の首を絞める。
いま楽にしてあげるからね
母は無言だが、そのとき私はそう受け止めた。
次第に苦しくなってきて、
しかし抵抗しようにも体に力が入らない。
母は微笑んでいる。
首もジワリジワリと絞まる。
苦しい
死にたくない
本当に死にたくない!
やめて!!!
と心の底から強く願った。
力の入らない他人のような体の奥底に、
わずかでも自分の意志とつながっているやもしれぬ
小さな種みたいな力の源を大きくしたくて、
私は言葉にならない叫び声を上げながら、
上半身を母とは反対方向(左側)にひねるようにはね上げた。
夢の中で起きたはずのその行動が、
現実の世界でも起きていた。
奥さんは「外でどっかの親父が叫んでるのかと思った」と言った。
どっかの親父ではなく、
別室で実の母に殺されかけた旦那の声だよ。
夢の中だけど。
飛び起きたときの心地といったら、
本当の地獄へ落ちたら、
きっと毎日こんな思いをするに違いないと思うほどのものだった。
苦しさと、悲しさと、気だるさ、
温かさや明るい光が一切射し込まない、
負の資産だけで構成されているそんな世界に
落ちた気がした。
その晩、眠ることが、夢を見ることが本当に怖くて、
どうしたもんかと真剣に悩んでしまった。
悪夢にうなされて飛び起きる。
実際にあるんだ。