一見華やかに見える王朝時代に、こうした悲劇が
内在していたことは事実であろう。
それを表出するとき、作品は時代を越えて
多くの共感を与えていくだろう。
しかし、悲劇は悲劇、喜劇は喜劇として
切り離していくことを『堤中納言物語』はしていない。
悲劇から喜劇(しみじみとした悲しみからパロディ)へと
一転させる軽妙さには目を見張るものがある。
「はいずみ」はその最も代表的な一篇だと言えると思う。
男女の三角関係は、その人間性を端的に露呈する。
夫の窮状を理解する古妻は離別して郊外に退去する。
こうした人間性が、やがてその悲劇の末、夫の気持ちを
動かすことになるのだ。
そして新妻は、品性・知性・教養というものが
いかに劣るかを暴露することになる。
自分で眉墨を塗ったことにも気づかず、
もとの妻に呪いをかけられたのだなどという侍女の言葉を
真に受け、本人まで鏡を投げ出して泣き騒ぐ様は、
気の毒とも言えるほどにおかしい。
もとの妻のあわれな話とは対照的に、
今の妻の滑稽な悲劇を持ってきたところに、
作者のみごとな手腕を見ることが出来る。
男女の関係ということでは、「ほどほどの懸想」が、
いかにも身分の統制の厳しかった王朝時代を
反映していると思う。
小舎人童と女の童の純粋な恋。
若い男と女房のあだな恋。
頭の中将と故式部卿の宮の姫君の物憂い恋。
それぞれがそれぞれの身分にふさわしい相手と、
三者三様の恋をする。
そして、この一篇は童の恋を中心に描かれている。
ここが、上流貴族を中心に描いた王朝物語とは
その性格を異にする『堤中納言物語』の特徴なのだ。
(つづく)
内在していたことは事実であろう。
それを表出するとき、作品は時代を越えて
多くの共感を与えていくだろう。
しかし、悲劇は悲劇、喜劇は喜劇として
切り離していくことを『堤中納言物語』はしていない。
悲劇から喜劇(しみじみとした悲しみからパロディ)へと
一転させる軽妙さには目を見張るものがある。
「はいずみ」はその最も代表的な一篇だと言えると思う。
男女の三角関係は、その人間性を端的に露呈する。
夫の窮状を理解する古妻は離別して郊外に退去する。
こうした人間性が、やがてその悲劇の末、夫の気持ちを
動かすことになるのだ。
そして新妻は、品性・知性・教養というものが
いかに劣るかを暴露することになる。
自分で眉墨を塗ったことにも気づかず、
もとの妻に呪いをかけられたのだなどという侍女の言葉を
真に受け、本人まで鏡を投げ出して泣き騒ぐ様は、
気の毒とも言えるほどにおかしい。
もとの妻のあわれな話とは対照的に、
今の妻の滑稽な悲劇を持ってきたところに、
作者のみごとな手腕を見ることが出来る。
男女の関係ということでは、「ほどほどの懸想」が、
いかにも身分の統制の厳しかった王朝時代を
反映していると思う。
小舎人童と女の童の純粋な恋。
若い男と女房のあだな恋。
頭の中将と故式部卿の宮の姫君の物憂い恋。
それぞれがそれぞれの身分にふさわしい相手と、
三者三様の恋をする。
そして、この一篇は童の恋を中心に描かれている。
ここが、上流貴族を中心に描いた王朝物語とは
その性格を異にする『堤中納言物語』の特徴なのだ。
(つづく)