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菰野諸々 (井手神社においでー)

2012年10月31日 | 畳(たたみ)以外

聖宝寺の猿の次は、井手神社の雁のお話です。


伊勢の国は永井(ながい)の里井手(いで)のお宮のあたりには 

不思議な葦(あし)が生えているそうな 葉が一方しかついておらんのだと 

誰かがもぎとっていったように見えると どう考えてもふしぎな話じゃ

むかし、むかし このあたりはいちめん沼地でした

沼地といっても澱んでにごった沼地ではなく いつも美しく澄んだ水をたたえていました

春になれば水辺には白い花も咲きました 秋になれば紅葉した木が水面を赤く彩りました

村の人々は野良仕事の合い間に ここに来て憩うこともしばしばでした

そして「ここへ来るとなんかしらんがこころがやすまる」と言うのでした

まれに来る旅人も 何故かこころひかれるものをおぼえて ここでつかれた足をやすめました

春 夏 秋と過ぎ 寒い冬が来ます さすがにあたりには村人の姿も見えなくなります

そんなある夜のことでした

沼はしーんと静まりかえっています 村は深い深い眠りに包まれています

北の空に 北斗星が冴えざえと輝いていました

物音ひとつしない夜ふけでした どこからか声が聞こえたような気がします

それはどうやら空の彼方から聞こえてくるようです

幽かだったその声が次第に大きくなってくると はじめて鳥の声だとわかるのでした

はるか遠くの韃靼国から海を渡り 冬を過ごすためにこの沼地へやってきた 雁の群だったのです

雁たちはやっと目的の地に着いて ひときわ高いよろこびの声をあげ 水の上を踊るように泳いでいます

冬の月はあくまで静かに 沼地を照らしています

村人たちの中には雁の声で 目をさます者もおりました

そして ああ今年も雁が来る頃になったと 思いながらいつしか又 深い眠りに落ちてゆくのでした

こうして雁たちは村人たちの あたたかいまなざしに見守られながら ひと冬を過すのでした

やがて遠くに見える山々の 深い雪も溶け出す頃になると 雁たちは生まれた韃靼国へ

帰って行かなければなりませんでした

雁たちは 帰りの道のりの遠いのが心配でした

それは果てしない旅でした どこまで行っても暗い暗い海でした 広い広い海でした

羽をやすめる場所はどこにもありません 

力尽きた仲間が すいこまれるように海に落ちていっても どうすることもできないのでした

もうそろそろ北の国へ帰らないといけなくなったある日 雁たちは皆なで神様にお願いしました

どうかここに生えている葦の葉を一枚づつくださいと

願いは聞き届けられ 雁たちはある日 クチバシに葦の葉を一枚づつくわえて飛び立ってゆきました

そして疲れたら海の上に葦の葉を浮かべ その上で翼をやすめるのでした

葦の「船」に乗った雁の姿が 波間にいくつもいくつも漂っていました

井手のお宮の葦の葉は この時から片方ないそうな

美濃の国の須賀という里にも 片葉の葦があるそうな

それもやっぱり お宮のそばに生えているということじゃ

水の神さまの思し召しかもしれんの

この年になっても わからんことはまだまだ いっぱいあるようじゃて


という昔話が、菰野町の井手神社に残っています。

このお話はまんが日本昔話や、NHKの歴史こばなしでも紹介されました。

井手神社 三重県三重郡菰野町永井338




1814年(文化11年)の手水鉢


この看板に書かれていた話をそのまま掲載しました


片葉の葦 井手神社に向かって左側にあります


三重県菰野町の紹介
http://www.ctv.co.jp/40th/theater/movie/m_komono_info.html