Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

「シルヴィ・ギエム ファイナル」香川公演

2015-12-25 00:31:13 | バレエ・演劇

12月23日、アルファあなぶきホールへシルヴィ・ギエムの日本最終ツアー「シルヴィ・ギエム ファイナル」香川公演を観に行きました。
バレエの公演はそう頻繁に行われない香川県で、世界トップクラスのバレエダンサーが来てくれる、しかも引退前の最後のツアーで、というのは正直驚きでした。

公演当日、チケットは完売しているだけあって会場入り口には開場前から長蛇の列ができていて、開演までに中に入れるのか不安になりました。それだけ、日本のいち地方である香川県でも、ギエムはとても人気があり、バレエへの関心が高いということなので、喜ばしいことでもあるのですが。

会場の中に入るまで時間がかかったので、席に着いたらすぐに開演になりました。私の席は2階席の最後列の真ん中より。舞台からは遠いですが、舞台全体を眺めることができるので、ベジャールのボレロを見るにはちょうどよい席でした。

最初は東京バレエ団のダンサーによる、フォーサイスの「イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド」から。今回のツアーが東京バレエ団の初演だそうです。なんとなく、東京バレエ団はコンテンポラリーの有名な作品は網羅している気がしていたので意外でした。上野水香さん、奈良春夏さん、柄本弾さんなど、東京バレエ団の主役級の人たちが出演してました。シンプルなリズムの音楽が流れる中、グリーンの衣装をまとったダンサーたちが、無機質だけれど難易度の高い振付を淡々と踊っている姿を見て、コンテンポラリー作品を見るのは久しぶりだなとしみじみ思いました。あんまりブランクがあると楽しめなくなるけど、今回はセーフ。

次はラッセル・マリファント振付の「TWO」。真っ暗なステージの上にいるのは、シルヴィ・ギエムただ一人。ギエムを照らすほのかな光を頼りに、身をよじり、両腕を振り回して踊る彼女を見つめているうちに…途中から、自分がいま見ているものは何なのかわからなくなりました。音楽と照明とダンスが一体となって見せる幻に惑わされて、終わった時には「今の何!?お願い、最初からもう一回見せて!!」と言いそうになりました。「もう一回」なんて、もうないのにね(しんみり)。

ここで一旦休憩。開演前は時間がなくて買えなかった公園プログラムを買いに、売店コーナーへ行ってみたところ、ここにも長蛇の列が。うん、そりゃあんなすごいのを見たら、プログラム買わなきゃってなるよね。

休憩後は東京バレエ団による、キリアンの「ドリーム・タイム」。音楽は武満徹。山の中のような、水の上のような、淡いグリーンを基調とした舞台の上に、濃い緑色の衣装を着た女性ダンサーと上半身裸の男性ダンサーが、夢か現かわからない幻想的な世界を表現していました。その動きはなめらかで軽やかで、まるでアイスダンスを見ているようでした。氷の上と違って、普通の舞台の上であれだけの動きをするのはさぞや大変だろうと思いますが、この「ドリーム・タイム」には私の好きな木村和夫さんが出演されていたので、和夫さんの踊りを見ることができて嬉しかったです。

「ドリーム・タイム」の後、もう一度休憩をはさんで、いよいよ最後はベジャールの「ボレロ」です。ベジャールの「ボレロ」はもはやある種の古典と言えるほどのコンテンポラリーのど定番作品ですが、何度見ても飽きることのない、というか見れば見るほどクセになる、麻薬のような中毒性のある作品です。私が初めて見たボレロは、大学の授業で見たジョルジュ・ドン(映像)でしたが、生で見たのはギエムが初めてでした。今から約15年前のことです。その時、この日初めて「TWO」を見た時と同様あるいはそれ以上に、衝撃のあまり自分が何を見たのかわからなくて戸惑ったのを覚えています。それから、ギエム以外の人が踊るボレロを見たり、再びギエムのボレロを見たり、ベジャール以外の振付家が振り付けたボレロを見たり、時にはフィギュアスケートでボレロを使った演技を見たりと、いろいろ渡り歩いてきました。そんなこんなの15年間の私のボレロ遍歴が、ここ香川のステージでボレロのメロディーを踊るギエムを見ているうちに思い出されてきて、クライマックスでリズムたちがメロディーを取り囲む頃には、頭の中があの単調な音楽でいっぱいになって、身動きひとつできずにひたすら舞台を見つめていました。そして最後にリズムはメロディーを呑み込み、舞台は闇に包まれ、観客の私たちもやっと解放される。終わった直後、ほっとしたのと同時に、これから先自分はこんな経験ができる舞台をまた見ることができるんだろうかと不安になりました。

スタンディングオベーションとカーテンコールの中、舞台の上から観客に向かって気さくに手を振ってくれるギエムの姿を見て、来てよかったなぁとしみじみ思いました。今年1年、いろいろあったけれど、最後にこの公演を見に来られて本当に良かったと。15年前の私は、バレエを見ることで当時自分の身に起きた辛いことから救われたけれど、それから15年経った今また、ギエムのボレロを見ることで“生きていてよかったなぁ”と強く思うことができました。(逆に言うと15年間まったく進歩してないという気もする…)

ありがとうシルヴィ・ギエム。ありがとう東京バレエ団。香川に来てくれてありがとう。今年来てくれてありがとう。





写真はアルファあなぶきホールのロビーにあったクリスマスツリー。後ろの壁画は猪熊弦一郎氏によるものです。
シュールなほどにミスマッチ…。


2 コメント

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Unknown (あおむし)
2015-12-27 23:17:02
私はボレロが入っていないプログラムの方で見ました。
最後の『Bye』という演目が、引退する彼女の姿に重なってぐっときてしまいました。
でも、もちきちさんの感想を読んで、やっぱり最後にもう1回ボレロ見たかったなー、と。

そして某団長の引き際は…とドキドキ。
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ドキドキ! (もちきち)
2015-12-28 00:19:55
>あおむしさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
「bye」をご覧になったんですね。公演プログラムを読んで、これも見たかったなーと思っていたので羨ましいです。
某団長の場合…その日がいつ来るのか、来たとしたらどんなフィナーレになるのか、いろんな意味でドキドキですね。
ひょっとすると永遠に来ないかも!?
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